hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
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───バスターブロスが負けた。
でも、皆頑張ってた。私は画面越しで、頬に流れる涙をそのままにお疲れ様と呟いた。




─17,おかえり─




勝敗が決まった後、しばらく放心していた。興奮冷めやらぬとはこう言うことか。負けてしまったが、バトルの内容には胸が熱くなった。相手と戦うための言葉も、鋭い刄となって私を魅了していく。正直、病気や怪我を治す職業に就いているためか人が傷ついていくのは目を背けたくなることもあったが、それさえも許さないというかの様に私の心を引き付けて視線は画面に縛り付けられた。



BBとMTCのバトルの後には、FPと麻天狼のバトルが続いた。結果麻天狼が勝利を納め、明日はMTCと麻天狼が戦うこととなる。
この4連休を勝ち取るために多忙を極めていたので、明日は散らかり放題の自宅を片付けよう。もちろん、TVはつけながら。


夜。ゆっくり出来るのに一人で過ごす夜はやけに静かだ。二郎、三郎は大丈夫だろうか。泣いていないだろうか。一郎の足枷となったのではないかと自分達を責めていないだろうか。
一郎は、大丈夫だろうか。巻き込んでしまったことに後悔していないだろうか。二人のことばかりで、自分の気持ちを蔑ろにしてないだろうか。
ううん、きっと大丈夫。そう思って傷ついたとしても、三人は乗り越えているのだろう。二人は一郎がフォローしているだろうし、二人だって一郎の不安を蹴っ飛ばしているに違いない。そうやって支え合ってきた三人兄弟なんだから。


結局、その日の夜は携帯が通知ランプを点らせることはなかった。きっとあちらでは忙しいだろうし、傷心中で男の子にはプライドだってある。もしかしたら、外部との通信制限もある可能性だって否めない。なんてったって中王区だ。男を招き入れ、自由に行動できることなんて限られているだろう。


とりあえず明後日の昼頃、皆が帰ってくる予定になっている。もちろん私はそれぐらいにイケブクロに行って彼らを迎えられるようにする予定だ。問題は、どう迎えるか。


明るく迎えようか。うざがられるかな。こいつノーテンキ野郎かと思われたらどうしよう。結局なるようになるか、と当日を迎えた。仕事を終え、急いで電車に乗り込んで山田家に向かう。


よかった、まだ帰ってきてないみたいだ。山田の家の前で、三人の帰りを待つ。





『あ!!』
「あ…姐ちゃん…」
「春姐…」


一郎の運転する車が見え、手を振る。車から降りてくる二郎と三郎をぎゅうっと抱き締めた。後から降りてきた一郎に、そんな私の頭を撫で付けられる。


「ただいま、春」
『おかえり、一郎、二郎、三郎!!!』
「「ただいま!」」


ご飯つくるから、と家の鍵を開けるように促す。一郎は車を少し離れた駐車場へと止めにいった。
靴を脱いで、手を洗いに洗面台に向かう。ほら、二人も手洗いうがい、と声だけで促して私はキッチンの方へ。背後の気配は、洗面台に向かわず止まったままだ。ぽつり、と三郎が言葉を漏らす。



「…春姐…ごめん、」
『何謝ってるの。全力で頑張ったんでしょ』


振り返ると、うつ向いた二郎と三郎。
ふう、と息をついて返す。


「でも。負けた。」
『うん。まだまだ、弱かったね。…でも、それで終わり?』
「そんなわけねぇ!次は、ぜってぇ勝つ!!!」
「負けたままなんて、僕の辞書にないね!」



しょぼくれた二郎に発破をかければ、すぐ元通り。そうそう、君たちはそうでなくっちゃ。



『よしよしっ!かっこよかったのはほんとだよ。これ私の弟たちですー!って叫び回りたかった。』
「いや弟じゃねぇし。」
『ノリ悪いな〜。あと、わりとウチの可愛い弟たちになんて口きいてくれてんだとも思ったり。』
「ばーか。ラップっていうのはね…」


ポンポンと、テンションが戻った二人に会話が進む。はい、三郎の毒舌も復活してきたね。キッチンに向かう途中の体を二人のもとへ引き戻す。ぎゅうーっとそのまま抱き締めた。何度でも抱き締めてやるさ。ううむ、二郎やっぱりでかいな。抱きついてるの間違いになるぞ。


『よく頑張った!』


わしゃわしゃと二人の髪をかき混ぜてから、今度こそ、手をあらっておいで、と洗面台に向かわせる。疲れたみんなを持てなそうとキッチンへ向かった。




豪勢とまではいかないが、昼食を作ってみんなで食卓を囲む。中王区での出来事をきいたり学校が憂鬱だと話したりして、まったりといつも通りの空気が満ちる。



「アイスたべたくなってきたので、ちょっとコンビニ行ってきます。一兄、 春姐もいります?」
「おいなんで俺だけ聞かねえんだよ」
「なんでお前のをわざわざ僕が買ってこなきゃいけないわけ?ありえないんだけど。」
『私パペコ〜!』
「俺はピロ頼むわ。」
「俺はゴリゴリ君」
「わかりました、ピロとパペコと、ゴリゴリ君ナポリタン味ですね。」
「なんでだよ!!!」
『あっはは!二郎、味の感想よろしく!!』
「くっそ、こいつに頼むと何買ってくっかわかんねぇから俺もいくわ」
「はぁ?ウッザ。ついてくんなよ」
「おめーら、いい加減うるさいぞ。」

ワーワーギャーギャーと騒がしい2人の声が遠ざかっていく。







「春。」
『改めて、お疲れ様。』


一郎が座ったソファーの横に、私も淹れた緑茶を持ち追って腰かける。


「おう…ほんとは、勝って、帰ってきたかったんだけどよ。」
『ううん、とびっきりかっこよかった。』
「…勝って、言いたかった。」


するりと頬を撫でられ、キレイなオッドアイに見つめられて周囲の音が消える。お互いの息づかいだけが、部屋に響く。

「春には情けねぇとこばっか見せてるし、いつも支えられてる。俺だけじゃねぇ。二郎と三郎も、きっと。」

まるで、この世界に二人しか居ないみたい。頬に添えられた大きな手のひらの熱に加えて赤と緑に捉えられ、次は私の心臓の音が一郎の声を邪魔するように高鳴っていくのがわかる。


「春、好きだ。俺と、付き合ってくれ。」


一郎の重低音だけは、私の耳に直接届いた。きゅうっと、心臓が締め付けられる。苦しい。泣きそう。熱くなってくる目頭にきゅっと唇を引き締めた。


「年下で、頼りねぇかもしんないけど。」
『ばか、』


そんなことあるわけない。


『大好き。』


胸がいっぱいで、私が答えられる言葉はそれしかなかった。滲んだ目尻の涙を、頬に触れている手の親指で拭われる。そのまま、その双眼との距離が縮まっていく。私の視界まで赤と緑に染まりそうだ。距離がゼロに近付き、整った顔に耐えられず視界はブラックアウト。聴覚と触覚だけが、情報を得る手段となり、玄関先から音がする。


……音!!?




「たっだいまー!」
『っっっ!!!!』「ぅおっ!?」
「??どうかしたんですか?」


『ああ、いや、その、なんでもない…』

お、思わず一郎突き飛ばしちゃった。
ソファーの端にへたりこむ一郎は、肘掛けに顔を埋めながらひらりと二人に手を振る。
若干怪訝な顔をしながら二人はガサガサと袋を漁りだした。あれはアイスだけじゃなくてお菓子やジュースも買ってきているな。




少し気まずい雰囲気で一郎と目を合わせるも、今起こった状況に自然と笑みがこぼれる。



「このシチュエーション、漫画だけかと思ってたわ。」
『それな。』



さぁ、みんなでアイスたべよっか。





*1部終了*





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