hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
18ページ/66ページ




4連休があけ、仕事に明け暮れることとなった。
仕事の多さもさながら、私の病院は別の意味でも忙しくなっている。今日も、病棟だって忙しいのに外来の処置室、採血担当のヘルプにでるのだった。






─18,ライバル─



『こんにちは、ファイルをここの篭に入れておいてください。順番にお呼びしますね!』


ラップバトルが終わってからというもの、寂雷先生は一躍有名人となり、いや、元々有名ではあったのだけど。是非受診したいと老若男女問わず外来受診がパンク状態となっているのだ。ラップバトルからしばらくは 優勝し地方ディビジョンを治める権利を得た彼らはそちらの手続きなどで出勤されはしなかった。それを知らずに受診した患者はなんでいないんだと文句を言ってくる人もちらほら。知らねーよ!

患者さんが待っているからと神様のような考えを持つ寂雷先生は休む暇もなく出勤される。彼の腕の良いと評判の内視鏡の予約もパンパンだ。


ただひたすら、やってくる患者さんの腕の血管と格闘する。ここの血管だととれるから、ここで、と指定してくる患者さんもいるがそこでとれなかったらどうするんだ、プレッシャーだよ!?病棟の患者さんよりかは採血しやすいため世間話や日常で健康に気になっていることなどの話もそこそこに流れ作業の如くスピッツに血液を流し入れていく。私の表情筋もつりそうだ。


夕方に差し掛かってくると、増えてくるのは学校終わりの若い女性たち。数人で連れ添ってきている女子高生や仕事終わりのOLさん。


「寂雷センセーに会いに来たのに、指名できないってひどくない!?」
「ホントそれ〜。採血とかしなきゃいけないとか痛いし嫌なんですけど〜。」
「たまたま私が寂雷センセーの枠に入れても恨みっこなしね」
「写真とってきてよ〜」


はぁ、自分の健康に目を向けるというのは大切なことではあるが、ミーハー心で受診する人によって本当に具合が悪くて入院が必要な患者さんが後回しになってしまうのは如何せん私の心にモヤモヤを生み出す。写真を撮るな、何しに来てんだ、病院に。














はぁ、とため息をついた。病棟も忙しいが、外来は外来特有の忙しさがある。慣れない患者もそうだが、慣れないスタッフの中で気疲れもした。何度脳内で三兄弟のことを思い出してヒーリングしたことか。尻尾をふる二郎、愛のある毒舌三郎。そしてあの大きい手のひらで頭を撫で付けてくる一郎。ああ、会いたい。山田不足。わーにんぐわーにんぐと警報がなっている。深刻だぞ、これは。


外来受診も午後診の受け付けも終わり、人数もはけていき一段落。あとは使った物品の補充と事務作業となる。少しの休憩をもらい、外の空気を吸いにいこうと病院の外へ向かった。





自動販売機でコーヒーでも買おうと向かっていると、複数の足音が駆け寄ってきたのに気づく。

「あの!こちらの病院スタッフの方ですよね、すこしお話よろしいでしょうか?」
『え、っと…』
「雑誌の取材でして、簡単なインタビューをおねがいしたいです。題材はもちろん、神宮寺先生について…ー!」


迷惑な顔を浮かべているのにも関わらず、グイグイとマイクを向けてくるリポーターに眉間のシワが深まるのが分かる。気づけ。
有名人が入院した時もそうだが、今回寂雷先生がメディアにでるということで同じ様な対応指示がでている。とどのつまりインタビューには答えない、ということだ。華麗にスルーをお見舞いする。


『すみません、私に話せることは特にございませんので。』
では、と一礼して去ろうとするも食い下がってくる記者。うっぜぇ。こっちは貴重な休憩時間!わかる!?
『休憩ももう終わってしまうので、失礼しま』
「少しだけだけど、お礼もしますから」
そっとちらつかせたのは無地の白い封筒。あまりにもひどい。呆気にとられて返す言葉が見つからない。こうまでして追いかけ回される彼らを思うと、心が痛む。


「失礼。」

結構です、と振り切ろうとした所で甘いテノールが響く。え、と私もその記者も聲の発信源へ目を向けると薄い紫の髪をたずさえた話題の中心の寂雷先生がいた。


「インタビューなどは、正式な場所を通して行ってもらいたいものです。このようなしつこく、職場に迷惑がかかるようなことはしていただきたくない。そちらの出版社には今回のこと、お話させていただきましょう。」


普段は温厚な寂雷先生の凍てつくような眼光に、記者たちのみならず私まで固まってしまった。記者は慌てて謝罪の言葉を羅列して逃げていく。おとといきやがれ!って私なんもしてないけど。寂雷先生のおかげだけど。

「春さん、大丈夫でしたか?」
『はい、ありがとうございます。』

しつこくって、と苦笑を漏らせば寂雷先生が謝罪してくる。

『寂雷先生は悪くないです…!
…それぐらい、すごいことを成し遂げたんですね。』

「ええ、強敵ばかりで過酷な戦いでしたが。」

これも独歩くんと一二三くんのおかげですとにこりと笑みを浮かべる。はぁ、キレイに笑うものだとついうっとりしてしまう。これじゃあ確かに一目見たくはなるわ。納得。でも写真目当てでは来ないで。切実に。


『外来は終わったんですか?』
「ええ、先ほど。丁度医局に用がありまして向かっていたところに春さんがお困りのようでしたので。」
『そうでしたか。引き留めてしまってすみません。』
「いえ、私も少し気が張りつめていたようで、気の許せる春さんと少し話したお陰か幾分か楽になりました。」


またお世辞を。じゃあゆっくりお話ししたいですね。と、次回の湯飲み会を企画する。そういえばしばらく見ていないシンジュクディビジョンの二人は元気か、と少し世間話。するとバトル後、三人で集まったとの話が広がる。


「春さんも交えて、またお話でもしましょう。」
『ええ、いいです…ね…』
「?」

軽く返事をしようとしたが、少し考える。三十路を越えた先生が可愛く首をかしげた。おっと、軽々しくキュンとする私の心臓やめなさい。節操なしか。

『…じ、つは。私、イケブクロを応援していまして。』
「おや。」
『いえ、だから先生方のディビジョンを嫌いになったとか、そういうのではないのですが、』


ううん、これは言わない方が良かったかも…。段々と話に終着点を与えることができなくなり、こうなりゃやけくそだ、と。


『なんといったらいいか…
その、ライバル!なので!
麻天狼の三人の中に私が混じるのは、なんか違うなって。もっと他の方がいたり、三人と私、とかでなければ全然問題なくて、むしろ嬉しいですけど…素敵なチームなので、私が浮気しちゃいそうですしね!』

まとまってなくてすみません、と謝罪でしめる。

「いえ、充分伝わってきました。」

イケブクロディビジョンを一生懸命応援してるんですね。と続けられると、少し体温が上がった気がする。うん、そうなんです。山田三兄弟が、大事で。

『次は!負けませんから! 』
「はい。今回はイケブクロと当たることはありませんでしたが、彼らも強い。楽しみにしています。」


私が戦うわけではないのだけど、と溢してまた笑い合う。休憩時間もとりすぎた。そろそろ戻らないと。



「さて、一郎君たちとの関係の詳細はまた湯飲み会の際にとっておきましょう。」
『え"』


では、と医局に向かう先生に慌ててお疲れ様でした、と頭を下げて私も慌てて外来へ戻るのだった。コーヒーは、仕事終わりまでお預けだ。









次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ