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□カランコエ(一郎連載@)
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今日は平日のお休み。昼間は二郎と三郎は学校だし、一郎はお仕事だ。忙しくて家に引きこもってばかりだったが、夏のボーナスも入ったことだしと街に繰り出したのだった。
─21,美人と逃避行(前)─
ピロン、と携帯がメッセージアプリの通知を知らせる。何してんの、と一郎から連絡が。ヨコハマでショッピングなう、とお互いの最近熱が上がってるキャラクタースタンプを添えて返信を済ませてショッピングの続きに勤しんだ。
寂雷先生との熱愛報道も誤解が解け職場で仲良くしているスタッフなだけだと、終演を迎えた。うん、誤解が解けるまではやはり外来ナースの視線は痛かったです。
そんなハプニングがありながらも梅雨が明け、歩くだけで少し汗ばむ季節になってきた。
これからは夏の季節だ。夏休みも5日間もらえるんだ、やっほー。弟たちと何して遊ぶか今からソワソワする。夏らしいことしたいなぁ。
と、夏の季節がやって来ると言うことで涼しげなワンピース数着とミュールサンダルを購入した。
かさばる荷物に、ちょっと無計画すぎたかと反省。一休みしようかと適当なカフェをブラブラ歩きなから探す。
「や、やめてください」
「いいじゃん、ちょっと一緒に歩くだけだって。」
コロリと小鳥が囀ずるような可愛らしい声と、男数人の声が耳に入る。ふと視線をそちらに向けると、ふわふわと羊のような毛並みをもった女の子が男に絡まれているようだった。
回りを通りすぎる人たちは巻き込まれたくないと言わんばかりに素通りしていく。
「おら、行こうぜー」
「い、いや…」
きゅ、と細い腕が男に捕まれた瞬間、私はカバンで男を殴り付け、今度は私が女の子の腕をつかんで走り出す。
『走って!!』
「えっ…!」
「オイコラ待ちやがれぇ!!!」
土地勘のない私はとにかく走って男たちを撒くことに専念する。ああ、ヒール高くなくてよかった。
適当に左、右にと角を曲がっていく。
追いかけてきていた男たちも殴ったせいかしつこい!一発ぐらいネチネチすんな!
半泣きになりながら必死に足を動かした。
やはり女二人の足では撒ききれず、追っ手は迫るばかり。左に曲がり、すぐ近くにあった細い路地に逃げ込む。急に消えたとなるとこの道しかないとすぐに気づかれるだろうとそのまま細い道を突き進むと大きい道に出た。これでどっちに行ったかは誤魔化せそうだ。近くにあった下着ショップに入り、商品の棚越しにさっきの男たちが通りすぎるのを確認した。
やっと撒けた。
今度は荒くなった息を整えるのに必死になる。あまり運動と言う運動をせずに引きこもり生活を送っている私を今だけは恨む。年か。歳もあるのか。
はぁ、となんとか落ち着き店をでて確認すれば男たちの姿はなかった。
あのアマ次会ったら容赦しねぇとか言われてそう。しばらくヨコハマにくるのやめようそうしよう。
静かに心の中で決意表明をしていれば、背後に人の気配が。女の子も店の外に出てきたみたい。
「あの…」
『ああ、ごめんね 急に。大丈夫だった?』
「はい!大丈夫です、ありがとうございました。」
きゅっと胸の前に両手を握って答える女の子の手は震えている。うん。怖かったよね。分かるよ。似たような経験をしていることもあり、最悪の事態にならなくて良かった。助けられて、良かった。無理しないでと意味を込めて、その華奢な肩に触れ瞳を見つめて笑いかける。すみません、とそのルビーの瞳が陰った。
しばらくすると、ばっと顔を上げて今度は私の両手をぎゅっと握ってきた。おっとなんのイベントだ。この後スチルゲットコースですか???
はてなマークを浮かべると、キラキラと光る赤が私の顔を映す。
「なにか、お礼を、」
『いやいや、そんな大層なことしてないし。』
「いいえ、大層なことです!
私の気がすみませんっ」
『…それじゃあ、走って喉も乾いたしお茶でもしませんか?』
ぜひ!と笑った顔はそれはそれは五分咲きが満開になるような花のようだった。
近くのカフェに連れていってくれるとのことで、土地勘のある彼女に任せることにした。
カフェにはいるまでにみつかりませんように。
そう切に願ったのは内緒の話。