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□カランコエ(一郎連載@)
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たどり着いた先はお洒落なカフェ。すごい、すぐに案内できる雰囲気のいいカフェなんて私知らない。これが一般女子か。スペックちげえ。
カランとドアを開けば鈴が鳴る。クーラーの効いた室内の空気が気持ちいい。



─22,美人とティータイム─


アイスのカフェオレを2つ頼み、一息つく。
『涼しいね〜!』
「はい、本当にありがとうございました!
私、碧棺合歓といいます。」
『気にしないで。無事でよかった。私は桧原 春。よろしくね〜』


ねむちゃんかぁ。かわいい子は名前も可愛いんだなぁ………ん?

『あ、あおひつぎ…?』
「やっぱりご存知ですよね…」
『いっ、妹ちゃん!?』
「はい、そうです。」

ヤから始まりザで終わる家業に後ろめたさがあるのか表情を曇らせる合歓ちゃん。

『ねむちゃん、私は気にしてないからね?
こんな可愛い子とお友だちになれたら嬉しいな〜!』
「春さん…、はい、私も美人さんに助けられて、お友だちになれたら2倍ラッキーです!」

ぱぁっと花開くように笑ったねむちゃん、天使か。天使って三兄弟以外に三次元にいたんですね、おお神様。


『もー、美人だなんてないからね。お世辞言っても何もだせな…お金なら出せるから貢がせて。』
「、?ここは、お礼なので私がだしますからね??」

おっと、天使すぎて思わずATM発言しちまったわ。あぶないあぶない。

そういえば、しばらく携帯みてないや。一郎に返事を返してから携帯を見ていないことに気づいて通知ランプが光る携帯の画面を開く。

『!』


メッセージアプリの通知が20件を越えている。不在着信も5件。発信先は全て一郎だ。なんだなんだ、私そんな携帯中毒かと思われてる?ちょっと触らなかっただけで心配メッセージが並んでいる。いや、まぁ確かにイベント走ってる最中だから休みの日に携帯を長いこと触らないことはないんだけど。それを知ってるからか。

先頭のメッセージから、徐々に口調が荒くなっているのに思わず頬が緩む。きっと仕事の合間に気にしてくれてるんだろう。仕事中に電話するのもなんだしと、無事だよと返事をしておく。店名と、テーブルに届いたお洒落なカフェオレの写真を添付しておく。

ふと顔を上げれば少しにやけたねむちゃんが。私がにやけてると犯罪者さながらなのに美少女、もといねむちゃんがにやけてると可愛いのは何故だ。解せぬ。

『な、なに?』
「春さん、すごく可愛い顔をしてたので、好きな人から連絡来てたのかなぁって。」
『か、かわ…!?』

ど、どんな顔だ、それは!てか携帯みてニヤついてる顔見られてるとか何それ羞恥プレイ!
恋人の話や、仕事はなにをしている、最近気になったことなど、女子特有のとりとめのない話が膨らんでは弾け膨らんでは弾けていく。


「おい、大丈夫か。」


話に夢中になっていると、背後から男性の声がかかる。突然の呼び掛けに思わず肩が跳ねた。私たちに向かって声をかけてきたのかと確認するために振り返ればそこには向かいに座っていた女の子と同じ髪色を持った美形が。


『さ!ささささささ……!!』
「あ"?」
『ひっ…!』
「お兄ちゃん!」


ガンつけないで!とねむちゃんが諫めると舌打ちをひとつして私から目線が反らされた。ほ、本物だ…!


四人掛けの席、ねむちゃんの隣にどかりと腰をおろした美形。碧棺左馬刻。美人が並んで向かいに座られるなんて…!どどどどどどうしましょう!?私の目のやり場が…!視線が泳ぎまくってもはや不信感を与えてしかいないのでは。


「妹が世話ンなった。」
『へ?…ぁ、いえいえ!』


カチリとタバコに火を点ける左馬刻さん。えっと、ここ、禁煙席かと。泳いでいた視線が左馬刻さんにロックオン。あああ、肌キレー…睫毛ながー。

「なんでここがわかったの?」
「クソどもが、知らねぇ女と逃げ回ってるっつー情報もってきやがったからGPS入れた。」
「……」
『……』
「……すみません、兄が過保護で。」
「なんかあったときにしかONにしねぇよ。」

恥ずかしそうに言うねむちゃん。
それに対し素知らぬ顔の左馬刻さん。

『大切な妹さんなんですね。』
「……」



そう微笑んで言えば、じっとこちらを見つめたかと思うと目をそらす左馬刻さんと嬉しそうに微笑んだねむちゃん。幸せ空間か。

左馬刻さん、怖いイメージしかなかったけど、こんなシスコンだったなんて…。…私も、弟たちにつけようかしら。うん、だめだ。逆に私に付けられそう。困る。如何わしいところに居るときにONにされたら死ねる。



「春!」
『え、一郎!?』
「あ"?」
「連絡してんのに返事がねぇから……左馬刻、なんで春といやがる。」
「てめぇこそヨコハマに何の用だ、ああ!?」


聞きなれた声が聞こえ、振り向くと一郎の姿が。何でこんなところに、と思っていれば連絡がないからと心配して来てくれたみたいだ。

二人は仲が悪いみたいでバチバチと睨み合いと言い合いがはじまる。碧棺左馬刻と山田一郎が並んだこの構図。え、なんだかスゴい光景見てる気がするんですけど。



「春さん、一郎くんとお知り合いだったんですね。…もしかして…?」
『あ、うん、実は付き合ってて…』


そうなんですか、とキラキラとあからさまに目を輝かせるねむちゃん。恋バナとか好きなのかな、女子だなぁ。私は恥ずかしくて自分の話はできない…推しは語れる。任せろ。
おっと、ギャンギャン言い合ってる二人を忘れてた。これじゃあカフェの営業妨害になるぞ。いやでも誰がコレ止められる?死を覚悟できた者からどうぞ。


「別にここに用はねぇよ、用があるのは…
つーか春、こんな治安のわるいとこ一人で来んな」
「ああ?そっちもかわんねぇだろうが!?
つーかなんだいっちょ前にクソガキが女つくってんのかよ」
「もうガキじゃねーよ!」
「ハッ!たかが19のダボが大人ぶってんじゃねぇ」



テリトリーバトルの時の殺気のぶつけ合いではなくきゃんきゃんと言い合う一郎と左馬刻。

『っ、』
その二人の姿に笑いが込み上げてきて思わず声を漏らせば、一郎がじとりと睨んできた。
「なに笑ってんだ、」
『いや。かわいいなって。』
「はぁ!?…っ 帰るぞ!」

意識が左馬刻さんから逸れたのか、出口に向かう一郎の背中を追う。

『あ、ねむちゃん、またね。』
「はい!またお茶してください。」
『これ、お金…』
「いらねぇよ。ウチの妹が世話ンなった礼だ。」
『あ、ありがとうございます…お言葉に甘えて。』

流石に本当にねむちゃんに出させようとは思っていなかったため財布からお金を取り出そうとすれば彼女のお兄様が軽く顎を上げて言いはなったものだから素直に頷いておく。

「あ、あの、春さんっ!」
『?』
「連絡先教えてもらってもいいですか?」
『喜んで!』
「やったぁ」


なんだ可愛いな。情報売られても許しちゃうかも。いや、極力やめてほしいけど。てゆーか売る情報もなければ合歓ちゃんはそんな事しない。断言できる。メッセージアプリを開いて、ふるふると端末を揺らし合えば友人欄に増える名前。

『今度はゆっくりお話ししようね!』
「私からも、連絡します!」


今度こそまたね、と別れを告げる。ひらひらと小さな手が振られているのに胸が暖まる。うううん、あまりの天使さに変態の中核が滲み出そうだ。左馬刻さんの視線に気を付けよう。変態不審者じゃないですよ〜アピール必須だ。






カフェを出れば、入り口で待ってくれている一郎。お待たせと声をかけて並んで歩き出す。


「まだニヤついてんの」
『だっていつもはお兄ちゃんな一郎があんな風に言いあってるのが新鮮で。』


三兄弟では1番上でも、年上の左馬刻さんから子ども扱いされているのも可愛い。なんてのは口に出さず。

「くそ、ガキっぽいとこみせた。」

恥ずかしくなったのかそっぽ向いたかと思えばん、と手を差し出された。荷物を寄越せと。
逃げ回っている間にベコベコになった紙袋を持ってくれる。


「送る。」
『ありがと!』


紙袋を持ってくれている反対の腕に私のそれを絡める。目線が合い、微笑み合う。大変だったけど美少女と友達になれたし美人を拝めたし、一郎とも並んで歩ける素敵な1日だった。



たまには外に出てみるもんだね。
…しばらくはお腹いっぱいだけど。





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