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□カランコエ(一郎連載@)
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暑さもまだまだ佳境の中、夏も終わりに近付いてきた。 夏の風物詩である花火大会のチラシがあちこちに張り出されており、夏だなぁと今さらながらに実感する。

って、そんなぼんやりしている暇ではないのだ。
何故かって?その花火大会を一郎と一緒に参加するからです!!! はいつまりデートってことです!!!



─23,デートスチルゲットに奔走?─




問題です、その花火大会はいつでしょう?はい、今日ですね!?
何年か前に柄が気に入って購入した浴衣を引っ張り出した。濃紺に流水紋が浮かび、おおぶりなヒレの長い真っ赤な金魚が泳いでいる。うん、やっぱりかわいい。


19時から打ち上げるとのことで、出店を回るために18時に待ち合わせ。昼頃からそわそわして落ち着かない。出店で食べるといっても帯の締め付けであまり食べられないだろうし、今のうちだとガッツリお昼ご飯を食べる。
携帯が揺れ、着信を知らせる。一郎だ。

『もしもし?』
[おー、春!仕事は予定通り終わりそうだぜ]
『よかった!暑いけどだいじょぶ?』
[まぁな。今日は軽めの依頼だし大丈夫だ。]

じゃあ、浴衣楽しみにしてる、と言い残されて電話が切れる。電話を耳に当てたままフリーズする私。カーッと顔に熱が集まり悶える。なんだその不意つき!好きだバカ!


実は浴衣を着るのは一郎のリクエスト。この歳だし、あまり浮かれるのもどうかと人混みで動きやすくラフな格好でいいかと思っていたのだが浴衣着てくれるよな?とかあのイイ声で言われてみ?はいもちろんですとしか言い様ないよね、仕方ない。


きっと汗もかくだろうとくずれない様薄めに化粧を施して、浴衣に袖を通す。遠い記憶を手繰り寄せて着付けを進めていく。一応スマホで検索をかけて最終確認。くるりと姿見に向かって、よし大丈夫。

ドキドキと高鳴る胸に、楽しくなってくる。ああ、好きな人と過ごせるのってこんなに幸せなんだな、と噛み締めて待ち合わせ場所へ。






ちらほらと浴衣を身に纏う女子を見かける。じわりと感じる暑さと、祭りの高揚感があたりを満たしていた。

待ち合わせ場所に到着し、ふと空を見上げるとまだうっすらと明るい。ざわざわと人の声が飛び交う隙間に、小さな風の音と随分と減ったセミの鳴き声を拾う。そんな中で私の鼓膜を揺らしたのは、


「春!」

駆け寄る一郎の姿に、頬が緩んだのが分かった。

「お待たせ。」
『待ってないよ、ついさっき着いたの。』

仕事お疲れ様、と伝えるとおう、さんきゅとニカリと白い歯をみせて笑い私の頭に手を伸ばす。

「おっと、つい癖で。」

アップにしていているセットした髪を気遣って寸でのところで手がピタリと止まった。代わりに、簪に付いてる飾りを指先で鳴らされる。


「似合ってる。」
『あ、ありがとう…』


その真っ直ぐな誉め言葉に顔を赤く染めた私。その様子を見て満足そうに一郎は笑った。


「じゃあ行こうか」


はぐれんなよ、と繋がれた手にまたドキリと心臓がスーパーボールのように跳ね回る。勘弁してくれ、もたないから。


タンクトップを身に纏う一郎。その腕にはしっかりと筋肉がついており、夏場の仕事で日に焼けたのだろう健康的な小麦色。だめだ、変態目線でしかみれない。今日も推しがカッコいい。



「なに食う?」
『イカ焼き!』
「渋いな、腹減った〜!」
『たこ焼き!』
「いいな、あそこにあるぜ。」

歩きながら食べたいものを探していく。たこ焼きを一舟頼み、手に持つ。爪楊枝に1つさして息を吹きかけて冷ましていると、斜め上から顔が寄ってきてあ、と思ったときにはパクりと大きな口の中へ。

『とった…!私のたこ焼き…!』
「油断すんなよ〜、うめぇな。」


へへっと笑う一郎にもう!と怒って爪楊枝を新たなたこ焼きに突き刺して再度冷ます。自分の顔の熱も冷めろ。くっそ。心臓麻痺起こさせる気ですか一郎さん。きっと今日が終わるまでには私の心機能はがた落ちだ。心エコーあてたら右心負荷所見がみられるだろう。いやもはや心停止している可能性もなきにしもあらず…??


たこ焼きを全部食べ終え歯に青のりついてねぇ?どれどれ、ついてる。と嘘を言うと口を閉じてもごもごと動かして取れた?とイーっと歯をみせて聞いてくる一郎が可愛すぎた。嘘だとも言い出せず、とれた!と満面の笑顔で返しておいた。


『ヨーヨーつる!』
「金魚すくいじゃなくて?」

ほれ、と私の浴衣を指差す一郎に はは、と笑って飼えないから可哀想だと答えた。見事に赤いヨーヨーをつり上げて、次には射的に目をつける。

「よぅし、任せろ。」
『あれ!あれがほしい!』
「あ、あれか…?」
『?うん、可愛いよね』
「可愛い…?」


わかんねー、と一郎は呟きながらも、台に肘を固定し照準を私が指定した小さなぬいぐるみに合わせた。…くっと軽く力が入って腕に陰影がつく。まって、この角度。瞬きと一緒に心のシャッターをきる。スチルゲットしました、今日という日よありがとう。



見事に小さなぬいぐるみを撃ち取り、私の手の中にいるぶさかわなパグのぬいぐるみ。綿菓子がほしいと並んで歩き、綿菓子の袋の柄を選んでいると携帯が鳴ったようで、携帯を開く一郎。




「………春、わりい。」
『どうしたの?』
「依頼、受けていいか?」


私は頷いて返した。





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