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□カランコエ(一郎連載@)
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突然の依頼は、迷子捜索だった。この祭りで、小さな女の子が迷子になってしまったとのこと。


─24,浴衣マジック─


「マジでわりぃ。二郎は宿題が終わってなくてよ。三郎に見張りたのんでんだ。」
『じ、じろた〜ん…!』


ブブ、と私の携帯も鳴る。二郎からゴメンよ姐ちゃん〜!と泣きの絵文字。このバカのせいで春姐と一兄に迷惑を…!と追い討ちの三郎からのメッセージ。もう予想通りで可愛すぎる二人に、気にしないで宿題ふぁいと!と返事しておく。



『女の子の特徴は?』
「小学1年生で黄色い浴衣着てるみたいだ。はぐれる前にぷにキュアのお面を買ったから持ってるはずだって。」
『ぷにキュア、やっぱりぷにピンクかしら。』
「ぷにアクアかもしんねぇぞ。」


どっち推しでもいいかと二人で人混みを掻き分けて辺りを見回す。思ってはいたけどゆっくり歩いていたためそこまで気にならなかったが、人が多い!!


『一郎、これじゃきりないよ。』
「とは言ってもな…。分かれると合流すんのが…」
『きゃっ…!』
「春…!」


ドンッと肩に衝撃を受けてその拍子に繋いでた手が離れる。二人の間には沢山の人が既に入り込んで垣根が出来てしまった。
ああもう、なんてベタなシチュエーション!

確かに一郎がいうことは正しい。この人混みじゃ電波の回線だって花火の打ち上げ時刻が近付くにつれパンクしかねない。とぼとぼとだいぶん小さくなった一郎の後を追いかけながら周りに気を配った。



小さい子どもが、この人混みに紛れている可能性は少ないだろう。端によっているか開けた所にいそうだ。

道を進んでいけば、道幅が少し広がった所に出た。人の流れから少し外れ、再度辺りを見回した。


「おねぇさん、一人?誰か探してるの?俺のこと探してたとか〜??」
『えっ、いや、』
ぐいっと腕を捕まれて振り向けば見知らぬ男。
い、一郎かと思った…。


離してください、と言おうと思えばどこからか女の子の泣き声が耳に入ってきた。ばっと男の存在を無視して声の方向へ顔を向ければ黄色い浴衣を着てぷにキュアのお面を着けた女の子。捕まれた腕を振りほどいて女の子の方へ駆け出す。


「『なゆちゃん!!』」


駆け寄った先に、一郎も向かってきていた様だ。お互いに目をぱちくりさせ、そして なゆちゃんも見知らぬ二人に名前を呼ばれてぱちくりと涙で潤んだ瞳を私たちに向ける。



「なゆちゃん、もう大丈夫だ。」
『お母さんから、探してくださいって頼まれたの。』
「お母さんに連絡して、連れてってやるからな。」


わしゃわしゃと一郎が女の子の頭を撫でた。
そしてなんとか電話は繋がり、防犯のために直接なゆちゃんとお母さんとで電話で会話してもらう。


「じゃあ行くか。」
「うん!」
『今度ははぐれないように、お姉さんと手を繋ごっか。』


お母さんと話せて安心したのか涙はすっかり引っ込んで、笑顔で話してくれるなゆちゃん。うん、本当に何もなくて良かった。


ちなみになゆちゃんが選んだお面のぷにはぷにイエローだった。私と一郎と女の子が並んでぷにピンクとぷにアクア、ぷにイエローの推せるところを話ながらお母さんの元へ向かった。(もちろん相手は小学生なのでコアな話は避けてますよ、安心してください。)


出店も減り、合流しやすいよう祭り会場から少し外れたところで待ち合わせ。



「なゆ…!」
「ママ〜!」
「心配したんだから!…本当にありがとね、一郎くん。」
「いえいえ!何かある前に見つかって良かったっス!」


またご贔屓に〜!と、親子と分かれた。
敬語(もどき)の一郎もいいなぁ。出会ってすぐを思い出す。まぁ、距離が縮んだ証拠でもあるのだから贅沢は言わない。むしろ喜ばしいことだ。


ふぅ、と任務完了に息をついた。もう時間は花火が打ち上がる15分前。今から近くで見ることはできないだろう。


「やっぱ間に合わねぇよな…。春、こっち。」


ほんの少しだけ落胆していると、一郎は私の手をとって歩きだす。

「足元気を付けろよ」
『うん。』


人も街灯も少なく薄暗い細道を歩き、川縁につく。すこしの段差に腰かける一郎に続いて並んで座った。汗臭くないかな…。結構女の子を探すのに汗をかいたし、気になるところ。


そんな乙女の心配をよそに、ひゅう、と遠くから聞こえる音。顔をあげると、少し小さいが花開く火花たち。遮る橋もなく、まん丸く打ち上げられるそれに感嘆の声が漏れた。


『ここからでも見えるんだぁ。』
「打ち上げる方角を考えたら、見えっかなと思って。」
『キレイだねぇ。』
「ああ。」


ふらりと隣の影が動いて、肩に重みを感じる。腕を肩に回されてぐっと抱き寄せられた。ドッと血が回り心臓が騒ぎだしたのがわかる。顔だけじゃなくて、全身が熱い。


次々と打ち上がる花火の遠い明かりで中途半端に浮かび出る輪郭。ち、かい。

『い、ちろ。』


汗かいてるし、着崩れしてるし…!焦りもあり思ったよりも掠れて心許ない声が漏れる。

「ん。」
『花火みようよ。』


私の方に顔を向けており肩に顔を埋めているような体勢になっている。我ながら可愛くない物言いだ。
汗かいてるし、ともぞりと身動ぎするも一郎は頑なだった。


「かまわねぇ。…ずっと、うなじがエロいなぁって」
『ひゃ、』



みてた、と下腹部に響く低音で囁かれる。回された腕の指先が私の喉を擽り、反対側のお顔はイタズラにすり寄って首筋にちゅ、とリップノイズ。



キャパオーバーキャパオーバー。エマージェンシー、エマージェンシー。オーバーのオーバーキルだ。思考回路を奪われた。



「そろそろ、クライマックスじゃね?」

何事もないようにふ、と一郎の顔が花火の方に向き直る。爆弾落としておいて、今さら集中できるか!と心のなかで罵倒する。

そんな私をほったらかしに花火は次々と短い間隔で夜空を照らした。距離があっても圧倒的な感動をもたらすそれに夜空は白み、今さらとか言っていた私も感嘆の息を漏らして見入る。


最後の火花も煙のなかに消えて、突然の静寂と元の闇が戻ってきた。しばらく余韻にひたり、どちらからともなく立ち上がり帰路につく。



綺麗だった、最後の迫力がすごかった、と興奮冷めやらぬままにぽつりぽつりと会話がすすむ。
人もみんな帰りに向かうのか駅の方へ人が流れていく。すこし外れた所で見ていたせいもありラッシュよりかはマシなのだろう。



無言になり、駅へ向かって歩く。今日は祭りの前から楽しくて、迷子捜索というハプニングもありながら買い食いしたりヨーヨー釣りだったり射的でとってもらったぬいぐるみ、だったり。楽しかった時間を脳内でリフレインする。

うん、すごく楽しかった。このまま、わかれるの寂しいなぁ。ふつふつと湧き出る寂しさに、少し自己嫌悪。少し前まで、守る対象が増えてお荷物になりたくないと、嘆いていたというのに。与えられた幸せに、もっともっとと欲張りになっていく。




立ち止まり、少し前を歩く一郎の袖を掴む。不思議に思った一郎が振り返った。



『………………』
「春…?」
『……うちに、少し寄って帰りませんか。』


雑踏にもかき消されそうな声量を絞り出して、言った。豆鉄砲を食らった鳩みたいな顔を浮かべたのに、照れ臭そうに一郎が笑った。


そうやって、求めれば受け入れてくれる一郎。
どろどろに甘やかされて、どんどん腑抜けになって、これからどうなっていくのだろう。



でも今は、自分の卑しさにへこむよりも与えられる幸せに浸っていたい。この楽しい時間を、もっと共有できますように。


一郎は、喜んでと袖のつかんだ私の手を握り返した。この私のネガティブ思考を吹き飛ばすように、一郎は瑠榎ちゃんてば大胆(はぁと)とからかってくる。


『このままわかれるの寂しくなっちゃった。』
「………素直な春、可愛すぎな。」
『照れながら照れること言うの禁止でーす。』



お互いに照れてる状況が可笑しくて、笑って二人で私の家への帰路を辿るのだった。










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