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□カランコエ(一郎連載@)
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私が弱っている時、彼はいつだって私を甘やかしに来てくれた。彼が弱っているとき、私に甘えてくれるのだろうか。私は、気付いて甘やかしてあげられるのだろうか。


一人で苦しんでいるのだとしたら、私は自分の不甲斐なさに死にたくなるんじゃないかな。




─28,どろどろに とろかして─





花の金曜日。ついに連勤が終わり、久々の休みだったため安定の山田補給のためイケブクロに遊びに来ている。土日が休みであり、弟たちの学校も休みとのことで結構遅くまでトランプで大富豪をして盛り上がり、そのまま安定のソファーで夜を越した。




朝日が差し込み、ぼんやりと意識が浮上する。上体を起こせば、ダイニングテーブルにぽつりと人影が腰かけていた。あまりにも静かで、まるで誰もいない空間と勘違いするほどに。


テーブルの上にはコーヒーの入ったマグカップ。一郎が頬杖をついて空を眺めている。おはよう、と声をかければぴくりと肩を揺らして彼の視線が私に移った。


「おう、春。おはよ。」

表情は笑っているが、何処と無く覇気がみられない。顔色はそこまで悪くはなさそうだけど…

『一郎、どうかした?』


なんか元気ないねと問いかけるもまたなんもねーけどと誤魔化される。嘘だぁ、と懐疑の目を向ければ今度は手招きされて呼ばれたため隣の椅子に腰かける。


「そっちじゃなくて、こっち。」
『えええええ……』


手を引かれ、一郎の膝にぽすりとお尻がついた。そう、一郎の上に座ってます。朝から刺激が強すぎますよ、一郎さん。と顔を赤く染めるもお構い無しにぎゅうううう、と後ろから抱き締められる。なになに、やっぱり何かあるじゃん。



『どうたの』
「んー、なんか、今日はやる気が出なくてよ…」


ぽんぽんと抱き締める腕に手を添えて聞けば、返答が返ってきた。こんなこといってちゃ経営者失格だな、と首筋で自嘲するのが分かる。
その内容に、ムッとして腕を振りほどき一郎に向き直る。そして両手で一郎の頬を挟んでじっと見つめて言ってやった。


『 ばかね、人なんだから疲れるのは当たり前だし私だって、仕事にやりがいは感じていても朝どうしてもいきたくない時もあるよ。』


「……でも、ダメだな、おれ。俺が弟たちを守らなきゃいけないのに。」


あ〜っもう!この、分からず屋!


『こら。二郎も三郎も、家族でもあるけどチームメイトになって大きくなった。まだまだ子どもかもしれないけど着実に大人になってきてる。

ねぇ一郎。私だってね、甘えてほしいよ。一郎がツラいとき、一人で耐えて私に連絡してこないんじゃないかって怖い。頼って、甘えてよ。

それに一郎が我慢することで彼らも我慢することを覚えてしまうよ。
子どもは背中を見て育つもの。甘えたって、あの子たちが一郎を見捨てることなんて天と地がひっくり反ってもないに決まってるんだから。』


「………」


まだ、不安の色に揺れる瞳。そりゃぁそうだろう。父親代わりになろうとしたって彼自身、父親がどんなものか知り得ないのだからこれが正しいのか迷いながら、悩みながら今まで突っ走ってきているんだもん。自分が揺らいでいいのか分からないんだよね。そうだよね。



『絶対、大丈夫。』

でも、あなたがあの二人にしてきたこと、二人が一郎をどう思ってるかなんて一目瞭然だし、言いきってあげよう。


「春がそう言うのなら、そうなのかもな。」

『そうだってば。』


にこっと笑って言ってぎゅう、と抱き締めれば力強く抱き締めかえされる。少し苦しいけど、分かってくれて甘えてくれている喜びのほうが強い。


にへにへと抱擁を甘んじて受け入れていると、ぱちりとある人物と視線が合う。起きてきたのだろう、そこには三郎がいた。私たちのこの状況を目撃して次第に顔を真っ赤に染め上げていく三郎。


え、なにウブですね。かわいいですね。ちゃんと中学生。やだ興奮する…ゲフンゲフン、慌ててこの場を去ろうとする三郎に声をかけて引き留め、手招きでこちらに呼び寄せた。


三郎を呼ぶ声に一郎の肩がぴくりと上がるが気にしない。一郎の背中をぽんぽんと撫でてそのままで居させる。


『一郎がお疲れなので弟パワーを注入したげて』

は?って顔で見られるけどいつもと様子が違う一郎に不安の色を浮かべる三郎。ほら、かもん。一郎の背中に回していた手を広げて待てばおずおずと私と一郎に意を決したのか一拍置いて抱きついてくる。


すると一郎の片腕も私から三郎の方にまわり、三人でぎゅうぎゅう抱き合う。朝から幸せ空間できてんじゃん。一郎だけじゃなくて私にもパワー注入されてるぞこれ。



「あー、今日仕事したくねぇ。」



ぽつりと漏らした言葉に三郎が目を見開いた。抱き締めた腕の力がゆるみ、お互いの顔が見える。三郎にへらり、と眉を下げた笑みを向ける一郎。続けて兄ちゃんなのにかっこわりーよな。ともらす一郎に、三郎が再度抱きついた。



「…っ!……今日の依頼は雨漏り修繕と坂の上お婆さんの買い物と庭の剪定ですよね?
…僕と二郎でやります!いち兄は今日は春姐とゆっくり過ごしてください!」

そう言って一郎から離れて、続ける。


「…あ、あの…いち兄はかっこ悪くなんてないです。おかしいかもしれませんが…うれしい、です。」


そう頬を染めて言ったかと思えば二郎起こしてきます!と、どたばたと二郎の部屋にかけていった。
リビングに残された二人で、その背中を見届けた後顔を見合わせる。


『あまやかされたね。』


そう微笑めば、一郎もくしゃりと笑う。んーっと伸びをした一郎の表情はどこかスッキリしたようだ。


「おー、やる気出てきた。」

『弟たちに甘えて、休めばいいのに。」

「春と三郎の二人からパワーもらったからな。
じゅーぶんだ。」

『ふーん。……ならいいけど。』


あんな甘やかし程度で満足して貰っちゃ困るよ。もっと、もっと。どろどろに溶かして甘やかしたいのにね。なんて言っても一郎は受け入れてくれないかも。



『私が言ったこと、忘れないでね。』
「ああ。さんきゅな。」



そうやって太陽みたいに笑って私の髪をかき混ぜるように撫でた。結局仕事は3人で分けて早く終わらせて4人でどっか行こうと話になったので上手く甘えてもらえたのかもしれない。



次はどうやって甘やかそうか、今度弟たちと作戦会議でもしようかしら。






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