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□カランコエ(一郎連載@)
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「二郎、三郎。ちょっと頼まれてくれるか?」


違法マイクの件だ。学校があるため協力を頼むか悩んだが、俺一人じゃ時間がかかってしまう。出来るだけ早く春をなおしてやりたいし、こいつらだって同じ気持ちのはずだ。


協力を仰げば、勿論だと二人とも頷いた。




─31,大捜査線─





夜、春が風呂に入ってから3人集まって作戦会議をする。寝てからだと春が目が覚めたとき不安にさせちまうと思うから。ここに居る限り、そんな思いはさせたくねぇしな。



「さて、どうやって探すか…」
「シンジュクの駅近くですし、人通りは多くて被害も多数あったとなれば目撃者も多かったんじゃないでしょうか」
「とりあえずは聞き込みからするしかねぇのかな」
「手当たり次第といっても限界がある。ある程度的を絞らないといつまで経っても情報があつまらないだろ、これだから低脳は!」
「ああ!?いちいち一言余計なんだよ!じゃあどーすんだよ!具体的に言ってみろ!!」


ぎゃーぎゃーと目の前でケンカが始まる。はぁ、とため息をついて拳を二人の頭に落とすとその声は止んだ。


「お前らケンカすんなって何度も言ってるだろ?とにかく、三郎の言うとおりシンジュクは人が多すぎる。手分けして情報を集めよう。寂雷さんからの依頼にもなってっから、被害者の人から話を聞く協力してくれるみたいだしな。」
「その場にいた人が被害者なら、被害者にきいていけば確実ってこと…?」
「そうだ、二郎。俺と二郎はそれぞれ被害者に聞き込み。三郎は近くの防犯カメラのチェックを頼んでいいか?」
「はいっ勿論です!」
「じゃあシンジュクに行こう、兄ちゃん!」



相談した寂雷さんも、春はもちろん他に症状が残る患者も治したいからと違法マイクの捜索を頼まれた。自分の目的でもあるため、もちろん引き受ける。協力もしてもらえるし、助かった。あの日の被害者の多くは受診していたようだし、寂雷さんなら他の病院との横の繋がりあり情報を得やすい。



患者の事は守秘義務があるみてぇだから、話を聞いてもいいか寂雷さんが確認してくれたあとに許可を貰った人の名簿をくれるみたいだ。本格的に足で情報収集するのはそれからになる。





昼間は二郎と三郎は学校のため、他の依頼の合間には被害者の名簿から連絡をしたり行けそうなときは直接話を聞きに行ったりしている。事件現場の地図を拡大印刷し、被害者の位置を目撃情報があるかないかでチェックしていく。夕方は三郎が帰ってきたら防犯カメラで怪しい人物が映っていないか確認しながら春の様子を頼んでいる。そして俺と二郎は遅くならない程度に二郎と手分けをしていくと、目撃情報がちらほら出てきた。




「あ、もしもし──すいません、山田一郎です。神宮寺先生からお話があったかと思いますが…」
〔ああ、あの事件について調べてるんだってね。お力になれるといいけど。〕
「ありがとうございます、もう耳の調子はなんともないんすか?」
〔もうすっかりよ〜。最初はどうなるかと思ったんだけど2日ぐらいでなおったわよ。〕
「そうなんスね、良かったです!んで、当日はどの辺に……」



寂雷さんが先に話をつけてくれていた分、聞き取りはスムーズに行えている。当時いた場所と、期間、怪しい人物を見なかったか伺う。



〔確か、身なりが結構ぼろぼろで、髭や髪がかなり伸びてた男がマイクみたいなのを持っていたような気がするわ。私も急に頭痛がして蹲ってしまったから確かかは言えないけど…〕
「いえ、貴重な情報ありがとうございます!助かります…また追加で聞きたいことがあれば連絡するかもしれません……はい、はい。ありがとうございました。」



通話を切り、地図を眺める。かなり情報は絞れてきた。不審人物との距離とマイクの影響が出ている期間は特に比例していなさそうで、バラバラだった。目撃情報が集中している所は瑠榎がいた場所からは少し離れている。解決方法は見つからないが、違法マイクには近付いていってるはずだ。



「目撃情報が多いのはこの辺だね、兄ちゃん…」
「ああ、それに見た目もかなり特徴が重なってるな。…三郎、追えそうか?」
「はい、目星はつけていました!防犯カメラが途中で途切れてしまいましたが、こっちの方面に自転車で逃げたみたいですね。」
「格好的に、ホームレスっぽい感じだな…」
「だな。こっち方面のホームレスが集まってそうな場所は…」
「こっちだと、この公園やここの河川敷が多いみたいです」
「さんきゅ、三郎」



地図を三人で囲んで話し合う。あとは総力戦でホームレスに当たっていくしかないな。これで見つからなければまた初めからになるが、できれば避けたい。



あとはひたすら目撃情報に似通った人物に声をかけていく。

「知らないなぁ。そもそもそんな代物、俺みたいなんが手に入れられる訳ないしな。…そういや、あの河川敷のおやじさんが、最近様子が変だったな。」
「え!ホントか!?」
「詳しく教えてもらってもいいっすか?」
「ああ、一つ先の橋の下のおやじさんはよく自転車で彷徨いてたのが最近はぱったり。俺らみたいなんは寒暖での垂れ死んでることもあるから心配したんだが、段ボールまわりには出てきとるから生きてはいるのは確認出来とるよ。見かけて声をかけようとしたら慌てて中にはいっちまうから会話はしとらん。」
「あざっした!」



有益な情報を手に入れた。丁度委員会で下校がまだだった三郎から今学校から帰っていると連絡が来ている。現在地と情報について返事をして春を頼んだ。二郎と二人で一つ先の橋を目指す。



「今度こそ見つかればいいね」
「そうだな…」
「あんな姐ちゃん、見てらんないよ…」
「でも、一人でいるよりかお前らと過ごしててきっとあいつは救われてると思うぜ。」
「そうかなぁ、」


向かいながら春について話す。そう言うと、照れ臭そうに笑みを浮かべる二郎。やっぱり二郎と三郎も春に頼ってもらいたいはずだ。


「…でもやっぱり兄ちゃんがいてくれるから姐ちゃんもこの状況でまだ笑えてるって思うよ。」
「、」


そう二郎が溢した言葉に、嬉しいけれどかなしいような、虚しいような気持ちがないまぜになる。素直な嬉しさと、頼ってもらえない情けない自分。かっこわりぃ。そう言ってくれた二郎の頭を撫で付けて髪をぐちゃぐちゃにしてやった。



「あ、兄ちゃん あそこ…」
「よし、逃げられないよう気を付けるぞ。」
「うんっ!」



橋の下にぽつんと廃材と段ボールで建てられた小屋とも言い難いそれに近づき、声をかける。


「すいませーん、聞きたいことがあるんすけど!」


声をかけてしばらく待つが返事はない。イラつきを見せる二郎を一瞥し落ち着かせる。相手は違法マイクを持っている可能性がある。変に刺激して俺らまで耳が聴こえなくなると厄介だ。ここは慎重に確実にいくしかねぇ。
そろり、と入り口らしきところを開けると、隅に蹲る人影があった。再度声をかけると目が合う。



「ひ、ひぃ!ごごごごごごめんなさい、ごめんなさい!!」
「無断ですんません。危害を加えるつもりはねぇから、落ち着いて話せねぇっすか?」
「っ……!」
「……、外で話聞いた方が安心っすよね。」


刺激しないように。乱暴にはしないことを伝えて落ち着くよう促せば、こくりと頷いて話をしてもらえるようだ。




「この日、お前がシンジュクで違法マイクつかったのか?」
「っ…す、すみませんっ」
「すみませんじゃわかんねぇだろ!」
「おい二郎、あんまり大きな声出すな。…すんません。あの、もしあんたが違法マイクを使ったんなら、そのマイクが欲しいんだ。」
「…………つ、かいました。」
「そのマイク、まだ持ってるんすか?」
「あ、ああ。と、とってくる…」


小屋に入る男の背中を見ながら、ほっとする。やっと見つけた。二郎と顔を合わせ、拳を合わせた。


「これはどこで手に入れたんだよ?」
「…拾ったんです。……使う機会もなく、ずっと持ってただけだった。でもあの日。何日も食えてなくて、俺はこんななのに、みんなキレイにして笑ってて、羨ましくて、腹立たしくて。思わず使ってしまったんです…。でも、使いなれてなくて周りの人が蹲ったり倒れていく姿をみて…」


一度使ったがあまりの被害の大きさに怖くなって段ボールハウスに引きこもっていた。と俯いて震えながら自白していく男。反省しているようにみえるが、被害者だってでているし苦しんでる春の姿を間近でみているため納得はできない。なぜ今まで引きこもっていたのか。自首してマイクを提出していれば、もっと早くに解決出来てたんじゃないのか。
考え出すと止まらない。でももうみつけたから、いいんだ。一緒についてってやるから、自首する気はあるか聞けば頷いたため明日一緒に最寄りの警察署に向かうこととなった。それまで段ボールハウスの整理をするよう伝える。逃げるなよ、と二郎が睨みをきかせている。


なぜすぐに出頭しなかったかというと、証拠品としてマイクを渡さなければならないからだ。一度寂雷さんに見てもらってからじゃないと調べるのが更に遅くなりそうで。一旦マイクをあずかり、寂雷さんのもとに向かう。病院につき、少しだけ寂雷さんと話す時間をとってもらい、マイクを渡した。明日また受け取りに来て犯人の自首に付き添うことも伝えた。急がして申し訳ないが、寂雷さんは自首するのは早い方がいいと理解を示してくれ、明日までには返事をするとのこと。あと、もう少し。





あともう少しで、春の音を取り戻せる。



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