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□カランコエ(一郎連載@)
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診察の合間に個人携帯のチェックをする。仕事のことは院内PHSや院内メールで来るが、プライベートでも一二三くんや独歩くんから連絡が来ていることも少なくない。今日もいつも通り空いた時間に確認すると、珍しい人物から連絡が来ていた。
「おや、一郎くんから連絡がくるなんて…」
元チームメイトで今はイケブクロディビジョンのリーダーを勤めている山田一郎からの連絡であった。彼から連絡がくるなんて余程の事だろう。着信履歴からコールを鳴らす。電話の先で聞こえた声は心なしか高い音に聞こえた。
「なるほど、わかりました。」
事情を聞き、仕事が終わり次第向かうことを伝える。そうだ、一応、彼女にも伝えておこう。
─37,ちるどれんパニック─
日勤を終えて先生から連絡をもらい、一緒に山田家に来た。チャイムを鳴らして開かれた扉の先には誰もいなかった。
「え!?」
『え!?』
声がした方、もとい足元に視線を下ろすとくりくりなお目目が見開いている。しばしの静寂がそこに落ちた。
えええええええええ、かわいすぎるんだけど。鼻血もんです。私、この日のために生きていたと言っても過言ではない。
私は口元に手をあてて崩れ落ちた。
「ふむ、こんな春さんを見たのは初めてです。
…ふむ、興味深い。」
『観察しないでください。』
「じゃくらいさん…なんで春を連れてきたんすか」
「すまない、三人ともだと大変だろうと思ったし、
彼女なら君たちの力になってくれると思ったんだけど…」
『ありがとうございます、寂雷先生…』
ぐっじょぶです…!!
そう、私の目の前には身長が縮んだ男の子3人が並んでいた。なんでも違法マイクで襲いかかられたものの返り討ちにしたが、家に帰ってきて急な眠気に見舞われ起きた時には身体が小さくなってしまっていたとのこと。元の年齢は関係なく、三人とも一律で4歳ぐらいの子どもになっている。
だぼだぼの服の袖から覗く子どもならではのぷくぷくした手の甲と、頭が大きめな頭身、さらにはいつも見上げていた人たちから見上げられてしまっては私の中の愛しさと萌えが爆発するのも仕方のないことだ。
その場には鼻血をおさえる私の姿をふむ。と顎に手を添えて伺ってくる寂雷先生と、呆れたような恥ずかしそうな何とも言えない表情を浮かべた三兄弟。
かなりシュールである。
ミニマム山田…!べいびーふぇいす…!おお神よ…!
「さて、一通り診察をしようか。」
『服とか、昔のは残ってないよね?』
「さすがにねぇな。」
「きれいなものは しせつに寄付してますし…」
「この年でちいさい服はひつようないもんね」
『じゃあ寂雷先生に診てもらってる間に買ってくるね』
「ええ。こちらは任せて、お願いします。」
『…看護師の仕事は医師の診察の補助…』
「…さっさと行ってきてくれ…」
暗に診察を手伝おうとする私に一郎が促し、邪な考えは一掃される。うう、こんな機会ないのに…
サイズ確認のために身長だけ測って財布を持って、子供服を買いに出た。
◇
帰宅して服を渡して着替え終わった三人。小さいな、と思いながら購入した服は彼らにぴったりで、何とも言えない感情が溢れだす。
『かっ…!』
「ねえちゃん……」
「よこしまな目でみないでくれる?」
『かわいいは罪って、こういうことですね』
「おちつけ。」
悶える私に三人の視線は冷ややかだ。ただ一人、寂雷先生は微笑ましくその光景を見ていた。
「身体には異常がなさそうです。どれくらいかまでは分かりませんが、まずは3日間様子を見ましょう。」
「あざっす。」
「はやく元にもどれたらいいんですが…」
「なんか、このめせんの低さがしんせんだな」
「また身体に異変があれば連絡してくださいね」
寂雷先生が山田家を後にし、私たちは今後のことを相談することになった。
まず、学校は休んで、依頼も急ぎのものはキャンセルの連絡をする。生活面では、身長の低さから火や刃物を扱う料理は私がサポートすることにした。というより、洗濯などの家事も出来そうにないため私がしばらくの間面倒をみることを強制で決定した。
一郎は申し訳なさそうにするが、今の姿形では飲み込むしかなく頼む、と受け入れてくれる。
『さて、とりあえずお腹空いたでしょ。晩御飯にしよう。』
冷蔵庫の中身を確認し、簡単にできる焼き飯を作って食卓を囲む。が、それも身長がたりずリビングのローテーブルで夕食をとった。口いっぱいに詰め込んだ二郎が可愛いのなんの。幼児化によりぷっくりとしてしまったほっぺたがパンパンだ。けしからん、もっとやれ。
さてさてやってきたのはお風呂の時間だ。一緒に入る(私は服着たままです。)のを恥ずかしがる男の子3人。いやいや4歳の子どもだけでお風呂は危険すぎる。まぁ中味は思春期から結婚できる年齢を越えた男性だから嫌なのはわかるんだけど。ノズルの位置も浴槽も高いし、椅子を足場にするだなんて滑って転ぶ可能性もある。
「ちょ、まだ開けんな…!」
『あはははごめん〜』
「用がすんだらはやくでてってよ、ねぇちゃん!」
『よいではないか〜って、いててててさぶちゃん痛いよ引っ張らないでぇぇぇ』
「じろうのガードが弱いからってちょうしに乗らないでよね」
『ごめんごめん〜』
「さ、さんきゅー三郎…」
「春ねぇ、のぞいたら………分かってるよね?」
『は、はい……』
下はタオルで隠してもらい、身体は自分で洗う。
私がお風呂に入るのはノズルの開け閉めだけで浴室前にスタンバイ。呼ばれてから私は扉を開ける。
今の身体の間は湯には浸からない。
と、お互いの妥協点をつくり なんとかお風呂も済ませることができた。
弟3人でお風呂に入ってるの見たかったんだけど…
だって大きくなって一緒にお風呂入るのなんて銭湯や旅行での大浴場だけだもんね。三人は仕事もあって中々そういう機会がないし、この状況利用して裸の付き合いすればいいのに。
ベッドにはなんとかよじ登れるとのことで就寝はそれぞれの部屋となった。
『じろちゃん、一緒に寝ていい?』
「ええ!?」
『二郎、寝相悪くてベッドから落ちちゃいそうで心配で…』
一郎と三郎は止めてきそうなのでこっそり二郎に打診するとしぶしぶ頷いてくれた。可愛い幼児弟と一緒に寝たいだなんて下心とかそんなそんな。
おやすみ、とそれぞれの部屋に別れる21時。身体は幼児だからか、みんなうとうとと眠そうな様子だった。
『じゃあ二郎は落ちないように壁側ね。』
「う、うん」
ころんと寝転がって一緒に布団を被る。じわりと体温が布団に移って眠気を誘う。向かい合って、薄暗い部屋では何となくの表情は伺える。
「だれかといっしょに寝るなんて、ひさびさなんだよな」
『施設では、みんなで一緒に寝てたの?』
「そうだな…一人部屋をもらえるほど子どもはすくなくないし、しせつも広くなかったから何人かでいつも寝てたんだ。」
『そっかぁ、じゃあ折角だしくっついて寝よう。二郎が嫌じゃなければだけど』
「うーん、兄ちゃんに怒られないかな…?」
『あはは、こんなんで一郎は怒んないよ。』
もし怒られたとしても、私が全力で庇うし。
腕を二郎の頭の下にまわし、ぴとりとくっつく。
さらさらの髪を反対の手で撫でてやれば、とろんとした緑と黄色の宝石は瞼に覆われてしまった。
明日は休み、明々後日は日勤でその次は夜勤だ。明日は、買い物をして食材を買い込もう。そうプランをたてると二郎の子ども体温に私の眠気もピークを迎えて目を閉じた。