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□カランコエ(一郎連載@)
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大きな荷物を持って新幹線に乗り込んだ。自分の座席を見つけ、荷物やらなんやらを整えて一段落。メッセージアプリの山田+αのグループにお土産なにがいい?と送っておいた。

これからカンサイに仕事のため、出張です!




─39,思わぬ再会─





4泊5日の出張、ちょっとした小旅行だ。2日目、つまり明日は1日オフだし観光もしっかりできる。もちろんその日は休み扱いですからね出張の日程扱いじゃないヨ!

と、そのままキャリーケースを駅のロッカーに入れて持参した自分のナース服と荷物を持って研修先に向かった。


会議室に集い、院内での取り組みや患者の特徴、最新医療の運用について話を聞いた。
自分の働いているのは呼吸器と循環器内科の混合病棟なのだが、違う科の話も中々興味深く聞くことができた。そしてグループに分かれて、それぞれの病院のことについて話す。


「うちは治験者数が多くて…」
『それってやっぱり説明上手な先生がいるからでしょうね』
「たしかにそれもあるかな。いやでも患者さん次第だから、患者層がいいのかも。」
「患者さんの恐怖心に寄り添うスタッフの看護アプローチも気になります」
「そうですね、それは…」

治験とは治療の臨床試験の略と言われ、医薬品など承認を得るために行われるものだ。実験ではないのか。ということも挙げられるが、それで治る可能性もある。という患者さんにとって一縷の望みになることもある。臨床データがないだけで、結果が増えれば実用化されるかもしれない、それで患者を救える医薬品のために、という人も少なくはない。
ただリスクはもちろん伴うのだが。

その治験が行われるのはどこでも出来るわけではなく、認定のある病院だけなので特殊性があり体験談など耳にすることは少ない。そのためグループの数人が活発に質問を投げ掛けていく。


そして院内見学のためゾロゾロと並んで巡回していく。先導するのはこの病院のスタッフなので、患者は顔見知りなせいか、声をかけてくる。さすがカンサイ、距離感が近い。


「佐々木さんやないか〜!ぞろぞろ引き連れて、偉いさんにでもなったんか?」
「清水さん、久しぶりやね〜。そやねん、今日だけ限定でトップやってんねん。明日は元の平に戻るんやけどね。寒い日も多くなってきたから気を付けてよ」
「あいよ〜」


「べっぴんさんようけ連れて〜。新人さん?」
「研修に来てくれてはるんよ。べっぴんさんばっかやろ?私は?」
「佐々木さんはな〜…その、あれや。」
「ちょっと、傷つくやんかっ!」
「ははははっ」


もちろん佐々木さんと患者さんとの関係性があってのものだろうが、それにしても距離が近いし話しかけられる回数が多い。院内は忙しないのに、話しかけられると絶対に言葉のやりとりを数回交わしている。カントウで育った私には少しキツく感じる言葉尻も、ここでは普通でアットホームな感じなのだろう。

そのまま検査室やICUでの設備説明を受ける。
手術の様式も最新のものを取り入れたりしているドクターもいるのだとか。
それから病棟でのナーシング様式を見学させてもらうなどした。



見た機械は透析機と人工呼吸機だ。
透析機は、かなり回収が楽そう…今度独歩さんにこの機種について聞いてみようかな。……いや、やめておこう。彼の事だ、きっと完璧にプレゼンをまとめてくるだろう。余計な仕事は増やさないに越したことはない。






研修の感想文のようなレポートを提出し、病院を後にする。ぐーっと伸びをして緊張で凝り固まった体をほぐす。仕事とはいえやっぱり知らない人と話すのは気を遣うし、気疲れしてしまった。
朝の新幹線も早かったため早くも身体が重く感じている。今日は大人しくホテルで過ごそう。駅のロッカーに預けたままの荷物を取りに向かった。



一番下の大きなロッカー。そこからキャリーケースをよっこらせと取り出す。重い。荷造りしたのは自分だが一体何が入ってるんだ。着替えとスキンケア用品、化粧品。あと推しのぬいたちが入っているのは秘密だ。明日は一緒に連れていくからね、よちよち。


「春…?」
『はい?』

名前を呼ばれ、声のした方へ顔を向ければ男性が1人。その面影はどこか懐かしい。

『え、…っと、もしかして…』
「春、大きくなったな。」
『お、とう…さん?』
「ああ、覚えてくれてたのか?」


幼い頃の記憶は朧気だったが、なんとなく分かる。大きかった父の姿は、母によってどんどん縮こまっていた記憶。今みると、ちゃんと男性らしい身長で私よりも当たり前だが、大きかった。


「こんな偶然あるんだな。」
『うん、ホントに…元気?』
「ああ。まぁぼちぼち、やってるよ。こっちに住んでるわけじゃ…ないよな?」
『うん、仕事で。』
「そうか、仕事は…」
『看護師になったよ。』
「、立派な職業に就いたんだな。」
『よしてよ。』

ぎこちなくだが、続いていく会話。
なんだか少し、くすぐったい。


「まだオオサカにいるのか?」
『うん、今日来たばっかだからね…』
「…もしよかったら、こっちにいる間でゆっくり話さないか?」
『いいけど…』

携帯を開き、メッセージアプリで連絡先を交換する。いいのだが、1つ気がかりなことがあった。

『……女性は、平気なの?』
「ああ、最初こそはあれだったが…もう何年も前の話だ。彼女相手じゃなければ大丈夫。」

彼女とは母親のことだろう。そりゃそうだ。彼女のしたことは、心の傷となって父親に残り続けるのだろう。それに、と父は言葉を続ける。


「もうこんな年になるんだが、新しい家庭を築こうかと思ってな、」
『…いいんじゃない?幸せになるために、年齢なんて関係ないよ』
「、そうか。」

ありがとうと小さく父は微笑んだ。私ももう大人だ。親の再婚うんぬんに口出しする気もなければ、ましてや安否も知らず何年も会ってなかった親子だ。権利すらない。

『っていうか、そういう相手がいるなら、私とは会わない方がいいんじゃ…?』
「…でも、うれしいからさ。」
『…そっか。』

「引き留めて悪かった。また、連絡するよ」
『、うん。』


父と別れてホテルに帰宅(?)した。ぼふり、とコートを羽織ったままベッドに背中から倒れ込む。
ぼんやりと天井を眺めた。

まさか、こんな所で父親と会うなんて。正直、驚きで感動もなにもなく、そっかぁ。元気かぁ。と思うばかり。幸せに暮らしているなら、それでよかった。


このままだと背中から根っこが生えてベッドから動けなさそうだったので、荷解きをしてホテルのレストランへ身体を動かした。ぬいちゃんもこっそり忍ばせて。

満腹になった後は、シャワーを浴びて今度こそベッドにダイブする。明日は休みだ。オオサカといえば天下の台所。明日は食べ歩きと観光でもしようかな。そうスマホで観光先を検索してから眠りについた。






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