hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
40ページ/66ページ




天気は快晴、目覚めも良好!
なんて今日は観光日和なんだ。それもこれも私の日々の行いがいいせいだな、あっはっは。はい、ごめんなさい黙ります。



─40,いざ、天下の台所─



少しゆっくりめに朝の支度をして、町に繰り出した。色んな所に行きたかったが、ちょっと全部回るとなると大変だ。お天気が良い間にオオサカ城を拝みに行くとした。

東京もまぁまぁ難解だがオオサカの駅まじで迷路なんだけど。地下と地上の行き来何回すれば済むんだ?とぐるぐる回りながらやっとたどり着いた地下鉄。地下鉄に揺られてオオサカ城公園へ。
広い公園の奥に見えるのはお城だ。

はー!!!オオサカ!城!オタクは大興奮です。
ぬいを手に、オオサカ城を背景に写真を撮りまくる。かわ!かわいいよ、ぬいちゃん!

写真に良い感じのフィルターをかけて、一郎に写真にを送る。仕事中かもしれない。ぬい用のアカウントでSNSに投稿した後も既読はしばらくつかなかった。目星をつけていた 歩いて行ける範囲のうどんやさんに向かう。関西と関東とでだしの味が違うそうだ。鳴る腹をさすりながら町並みを楽しみなから歩く。


うどんを食べ終え、今度はミナミの方へ向かう。オオサカといえば、やっぱり通天閣とグリコは欠かせないでしょ!あ、ちなみにうどんは美味しかったです。最初こそ薄い…?と思ったが出汁の香りが良くて美味しかった。これはハマる。
あ、あとは電車の中なんだけれど、関西の車内はかなり賑やかだ。1人でない限り喋りたおしていた。そんな1つの違いに、ああ旅行してるな。という気分になって楽しめた。

そうこうしてミナミの地に降りたてば、ソースの匂いがした。気がする。ナンバグランド花月の前を通れば若手の芸人だろうか、呼び込みをしているみたいだ。行き交う関西弁をBGMに闊歩していると食い倒れ人形、蟹の大きな動くオブジェ、グリコの看板と立て続けに名所が目に入る。途中たこ焼きを買って食べたが、それもまた絶品だ。外はカリカリ、中はふわっと、タコの弾力がある食感がたまらない。ソースの味はもちろん、生地には出汁が入っていて。これが粉ものの恐怖…いくらでも食べられちゃいそうだ。
くいだおれビルは欠かせないよね。お土産ここで買って帰ろう。

そのまままた地下鉄に乗り込んで今度は通天閣へ。
夕方になり、日も沈みだしてきたためその棟はぴかぴかと電飾を輝かせている。


電話が鳴り、画面をみれば一郎の文字。道の端によって通話ボタンをタップする。

『はーい!』
〈おう、楽しんでるか?〉
『うんうん、ずっと食べてる気がする…』
〈粉もんって美味いよなぁ〜〉
『あれはもはや麻薬ですぜ、兄ちゃん』
〈こっちもたこ焼き器だすかな〜。多分あったはず。〉
『ちょっとスルーやめて。』


はは、と通話口から聞こえる声。散策しているとは言えやはり見知らぬ土地で心細かったのか、一郎の聞きなれた声に安心を覚えた。


『タコパ私も混じりたい…』
〈春は本場の味を楽しんでんじゃねぇか〉
『い、いじわるだ〜!』
〈いじめてねぇよ!ウソウソ、みんなでやろうぜ。〉
『しいたけ忍び込ませてやる…』
〈俺限定のロシアンやめろ〉


珍しくたじろんだ一郎に笑い声を漏らす。どんだけ椎茸きらいなのさ。あ、と一郎が声をあげる。


〈次の依頼に行ってくる〉
『あれ、まだあるの?』
〈今日は次で最後だ。じゃあ、気を付けるんだぞ。地域によってはガラ悪いところあんだから。〉
『はぁーい、気を付けます。仕事がんばってね。また連絡する。』
〈ああ、ありがとな。春も、明日からもがんばれ。〉


プツリと切れてしまった電話。早く会いたいなー。
なんて。声も聞けたことだし、晩御飯は串カツ!ビール!いえい!と行き込んで通天閣の足元に向かっていく。


有名所の串カツやさんに入る。小さく深い銀のバットにソースが並々と入って各テーブルに配置されている。なるほどこれが二度付け禁止のソース…
揚げたての串をソースに付けて口に運ぶ。薄い衣のサクサクさ…!絶品すぎる…これは…ビールが…ああ…進んでしまう。ギルティ…。ジョッキを傾けては串かつを頬張りを繰り返しすっかり上気分。だがしかし。悲しいことに明日は仕事なのだ。そろそろやめておかないと明日酒臭いと言われたら困る。


太陽は姿を消したが夜の街はまだ賑やかな時間。そこかしこから人の声が響いている。


ホテルに帰るため、地下鉄のホームで車両を待っていると、ふと、昨日喋ったばかりの見知った姿を見かけた。昨日の今日で遭遇するなんて。オオサカっていっても広いのに…
ホームに立ち並ぶ柱で影になっており向こうは気がついていないみたいだ。

父親の声が届く。電話をしているみたいだし、話しかけずにそのまま電車を待った。

「お願いします、もう少し、もう少しだけ時間をください…っ」
「ちょっとしたツテが…はい、」
「その、たまたま娘に会ったんです…!頼んでみて、なんとか工面できそうなので…」



ああ、そうか、私はただの金づる相手か。会話の内容に、それが浮かぶ。私は振り返らない。真っ直ぐ向いて前に並ぶ人の後頭部をぼんやり眺める。私が悪かった。そっとここから離れて違う列に並べば良かった。横着したがために、さっきまでの上機嫌は消え去ってしまった。


到着した電車に乗り込んで、ホテルの最寄り駅からホテルの間にあるコンビニに寄った。酒類を置いてあるショーケースから1つ缶を取り出し会計に出す。それからホテルに戻ってすぐにプルタブを上げてそのまま呷った。


気分は最悪。


そこで携帯にメッセージの通知音が鳴った。ああ、連絡先なんて教えなければよかった。少しでも懐かしんで喜んだのがバカみたいだ。画面に浮かぶ父の名前と明日会おうという文章に、やっとそこで泣きそうになる。

きゅう、と目頭が痛み、眉間にシワを寄せる。最後に会って、これきりにしたいと伝えよう。それでけじめをつける。


返事を打ち込み、シャワーを浴びた。
その後はアルコールも相まって重くなった瞼に抗わずその日を終える。ああ、無性に一郎たちに会いたい。彼らに会って、ほっとしたい。私の居場所はそこなんだと。




次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ