hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
42ページ/66ページ






なぜこうなったのでしょう。
強面であやしい匂いがプンプンする男と、私は一緒に車に乗っている。なんだ、助けたお礼に内臓でも売り飛ばされるのか。じゃあ助けてもらわなかったほうが良かったよ…




─42,怪しい男と愉快な仲間─




天谷奴 零と名乗るその男。声をかけられてちょっと付き合ってくれとタクシーに詰め込まれた。タクシーなだけまだ運転手がいるし、防犯のためのドライブレコーダーだってある。私に何かあった時はきっと一郎たちが探してくれるはず。うん、きっとそう。

膝の上でぎゅうっと握り締める手に彼が気づく。

「嬢ちゃん、そんな気を張らなくていいぜ?ちょっと話がききたくてなぁ。」
『はぁ…。』
「このあと約束があって、そいつらのとこ向かってるだけだ。まぁ面白い奴らだから心配すんな。」

いやいやいやいや、心配しかないです。
この強面おじ様のお仲間だなんてきっとヤバヤバのヤバじゃん。こんな状況の相場はそう決まってんのよ。


「っと、着いたぜ。」


たどり着いた先は普通の住宅街に聳えるマンションだった。もっと路地裏のやばいところに連れていかれると思ったのでぽかんとそのマンションを見上げる。ああ、いや一般人に、街に擬態してる可能性もあるから。うん、そうだ。あんなことがあった後だから疑心暗鬼になるのも仕方のないことだと思う。タクシーから降りて立ち渋っていると背中を押され、のろのろと足を進めた。


一室の前で留まると、天谷奴零さんはドアノブに手を掛ける。

「おう、遅くなっちまった。邪魔するぜ〜」
「邪魔するんやったら帰って〜」

ドアの先で明るい声が帰って来た。なんだ、この和気あいあいさは。もっとドスの効いた声が飛び交うと思っていたのに。

「ちょっと客を呼んだから仲良くしてやってくれ。」
「はぁ!?おい、零!お前俺の家やぞ、わかっとるんか!?」
「いらっさーい!」

そこにいたのは男性二人。メガネを掛けた人と、細目の人。会話の内容的に、ここはメガネの人の家みたいだ。


「この嬢ちゃんが悪〜い人に絡まれてたから連れてきたんだけどよぉ、どうも警戒解いてくれねぇんだよ。」
「そらせやろ!そうじゃないほうが可笑しいわ。」
「零のおっさんこそ悪〜い人にしか見えへんもんな!」


きゃっきゃと早い応酬に私はぽかんと口を開けてそれを眺める。わ、悪いひとではないのか…?


「すまんな、怖かったやろ?俺は躑躅森 盧笙、高校教師をやってる。」
「俺はな〜!ななななんと!あらゆる人を笑わせるために生まれてきた!浪花の芸人、白膠木簓や!よろしゅう!」
「な、おもしれぇだろ?」
『は、はぁ…』

謎な組み合わせだな。教師に芸人?白膠木簓…どこかで聞いたような…。まあ座りや〜と白膠木簓さんに促されローテーブルの横に座る。

「まぁ飲めよ。あんなことがあったら酔いも覚めちまってんだろ?」
「あんなことってなんや?」
「まぁ色々あったんだよ。」
「そこぼかすんかいなぁ〜!」
「で、君の名前を聞いてもええかな?」
『……桧原、春です。』
「ようし、自己紹介も済んだところで乾杯といこうぜ」
「おい零、なに仕切っとんねん!家主は俺やゆうてるやろ。」
「かてぇこと言うなよ〜」
「はーいカンパーイ!」
「簓お前なぁ、」


関西人特有なのか、トークのスピードに全然ついていけない。促されるまま缶ビールを持たされて乾杯の声をあげる白膠木簓さんに缶をぶつけられた。

ああ、もう訳わかんない。ぐいっと缶ビールを呷れば、おおーと感嘆の声が聞こえた。





『う、うぅ…酷くないですか…?10年ぶりに会った娘にすることじゃなくない?』
「なんや春さん、泣き上戸かいな」
『父親らしいこと何もせずに、都合の良いときだけ…うう…』
「耳が痛てぇーなぁ」
「何で零の耳が痛むんや?」
「俺にも子どもの1人や2人、3人と…」
『え…』
「春ちゃん、零の話は信じんでええよ。」
『ですよね…』
「でも零のことやしあり得ん話でもないでな」
「どーだろうなぁ?」
『胡散臭い…』

はっはっは、と笑いながら酷ぇなぁ、おいちゃん泣いちゃうぜ?と言う天谷奴零。イマイチ掴めないその男の話は簓さんの言うとおり放っておいたほうが良さそうだ。


「まぁ何や、春さん。そんなやつ、最初から会わんかったと思って忘れてしまいや。嫌なことがあったんや、次はええことがある。楽しいこと考えたらええねん。」
『ろ、盧笙さぁ〜ん…』


流石と言うべきか、先生をやっているだけに励まし方に力がある。優しい声掛けに、うるっと視界が歪み口がへの字をかく。

「せやせや!女の子は笑顔がイチバンやで!特別に簓さんの超絶オモロイギャグゆうたるわ!モナカを買いに行ったらもーなかった!」
『簓さんのギャグが寒すぎるよぅおうおう』
「誰が寒いねん、大爆笑やろ!ほら、笑わんかい!」
『いひゃい!いひゃひゃひゃひゃ…っ!』
「ぶっさいくやなぁ」

ほっぺたを両側から引っ張られて伸びた顔をケラケラ笑う簓さん。あんたが笑ってどうすんねん!

『泣いてる女子にすることやない…』
「エセ関西弁やめぇや」
「はっはっは、なんだ嬢ちゃん調子出てきたか?」
『ううう、それもこれも簓さんのせい…』
「なんでや!?」
「せや、簓のせいや。」
『盧笙さん〜!』
「おい盧笙まで!?」


わちゃわちゃとなぜか馴染みつつある私はテーブルに項垂れる。私が混じった応酬を、連れてきた張本人である天谷奴零は酒を片手に笑って見ている。その大きく少し豪快さもある笑い声になぜか心地よさを感じる。


『うう、一郎に会いたい…声ききたい…』


よくよく考えたら、何で私はここにいるんだ?解放されたら一郎に電話しよ…


『明日も仕事なんで解放してくださいあまやどれいさん』
「零ぱぱって呼んでくれたら帰してやるよ」
『……簓さん、盧笙さん。脱獄計画たてるの手伝って。』
「ここは俺ン家や。牢獄とちゃう。」
「つれねぇなぁ〜」






次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ