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□カランコエ(一郎連載@)
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私は中王区の職員の単身寮のような所に連れていかれ、一室を宛がわれた。行政職員寮のためかすぐそこに中王庁があり直通の通路があるみたい。
これに着替えろ、と手渡されたのは中王区の制服だった。




─46,行政中王特区雑用係─




着替えたら出てこいと部屋につっこまれたため嫌々それに袖を通す。紺地にピンクのラインが入ったジャケット、パンツと中王区のロゴが入った腕章。
よくニュースとかででている勘解由小路無花果みたいなミニスカじゃないのがせめてもの救いか。

まだ着古されていないそれは糊でぱりっとしている、部屋の扉の近くに設置されている姿見で確認すると、なんだかコスプレみたいに思えてくる。自分の顔、身体で中王区の制服を着ているのにすごく違和感しかない。

ナース服もそういった界隈では人気だ。メイドと同じく奉仕されるという観点からか。実際に入院したことがあれば分かるかもしれないが、ナース=奉仕はそこまでない。生活習慣病の患者に対しては、食生活、酒やたばこといった嗜好品について教育的立場にもなる。もちろん必要とあれば日常生活上の介助をするのでそこがピックアップされているのだろうが、実際はスパルタだ。白衣の天使どころか、白衣の兵士とも言えよう。


……私は、やっぱり看護師の仕事にやりがいをもっているし誇りもある。簡単に、連れてこられてハイ辞めますなんて納得できないし看護師という職より行政職員のほうがちゃんとした道、と実母に言われて腹が立たないわけがない。かといって母親に反抗して罵詈雑言並べ立てた後どうなるかなんて想像が容易く、とりあえずは従うことにした。


部屋をでるとその前で職員が待っていた。ついてくるよう言われて付いていき辿り着いた部屋に白背景の壁とカメラが置かれている。免許証の更新する撮影場所を彷彿させるような所に立たされ、説明もなく撮影が始まる。いや、説明ぐらいしてくれ。イラつきをそのままに目線をカメラに向けずに大人げない態度をせめてもの抵抗で貫き通す。撮影者の怒りオーラを感じたが、知らん。私の怒りも感じ取ってくれ。

なかなか折れない私と撮影者のせいで何枚写真を撮ったことか。先に折れたのは向こうで、数十枚撮った中でマシなのを選ぶことになった。ざまあみろ。

……いやホントに大人げないな、私。自分の態度を振り返ると笑えるぐらいに大人げない。かといって被写体の許可もなく撮ってきたので曲げたくはなかった。小さいことだけどね。






それからは中王区での生活が始まった。中王区の制服をみにまとい、書類整理を押し付けられている。


「この書類の数字に間違いがないかチェックして部署に振り分けて届けてください。」
『………』
「おねがいしますね 」


こんなもん誰がやるか。と適当にやってるが案の定書類が返ってくるので放置する。そしてお叱りを受けるの無限ループだ。


「書類の不備があったのでここに置いておきます。」
『………。』
「置いておきますね。」
『…はい』


念を押され、しぶしぶ返事をしておく。毎日毎日文字や数字とにらめっこ。看護師の仕事も検査データなどにらめっこすることはあれど、今はよく分からない予算案の確認や納税書類の処理、書類のサイン漏れがないかなどの確認でもう飽き飽きしている。山積みとなった書類にさらにやる気をなくしてデスクに項垂れた。


『うーん、』


デスクのひんやりした感触を頬に感じながらこの状況を打破する方法はないかと思考を巡らせ唸る。今、私には連絡手段がないのだ。一郎に連絡をいれた直後、母に携帯を壊された。てめぇアプリにどんだけ課金して推し集めたと思ってんだくそが…!と心の中で発狂したのは回避しようがない。引き継ぎコードはパソコンにメモで残してるから無事だけど…それでも推しを消されたように感じたし、なにより一郎と一生連絡を取れないのかもしれないとぞっとした。


『…ちがう。』


そんなことはどうでもいい。私のなかで一郎の声がリフレインする。動揺し、戸惑うような怒っているような声。理由を問いただす隙も与えず突然の別れと一方的に私の気持ちだけを押し付けた。きっと一郎を傷つけただろう。私も突然最後に連絡させてやると言われて言葉がでなかったにしろ、最低な言い草だった。

連絡がとれなくてもいい。彼が楽しくラップして二郎や三郎と仲良く元気で過ごしてくれればそれだけで。でも、きっと彼らは私を探してくれているのだろう。自意識過剰?うん、そうかもしれない。けれど、彼らと過ごしてきた時間と彼らの性格を知っていればそう思わずには居られない。じゃあどう伝えれば良かったのか、突き放さずに迎えに来てとすがれば良かったのか、最善は何だったのか皆目見当がつかない。後悔が私の中で渦巻いて心が潰れそうだ。


しばらく考えて、視点を変えてみる。一郎の気持ちを考えたって私が言ってしまった言葉がなくなることはない。引き返せない。ならば私の気持ちはどうだ。


『…あれきりなんて、絶対に嫌。』


そうだ、私はまだ諦めてなかったんだった。現状を打破して直接謝ろう。単純なことだったのだが、自分がしたいことを見つめ直せば目標が定まって希望を持てたように感じる。
どうにかしてここをでる。でもその前に母をなんとかしてからじゃないと私が逃げた後三人にどんなことをされるかわかったものじゃない。うんうん唸っていてもすぐ何かいい案が思い付くわけもなく、大人しくしながら何か手はないか探っていくしかない。そう思い直して書類と向き合いなおした。





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