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□カランコエ(一郎連載@)
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春が拐われて一週が経つも、見つけ出すことは出来ていなかった。その間、寂雷さんから連絡がきて出張先で少し話をしたというナゴヤの看護師からわずかだが情報を得ることが出来た。オオサカで父親と久しぶりに会って食事をすると言っていたそうだ。父親と…あいつの家族の話しはきいたことがなかった。お互い家族のことは特に話しておらず、唯一知っていることといえば兄弟の有無だけだ。

オオサカで何かあったとすれば、父親がキーとなるだろう。たったそれだけの情報だか進展のなかった状況の中では大きく感じる。




─48,例え憎まれようとも─




「いち兄!」
「どうした三郎?なんか見つかったか?」
「はい、これを見てください。」


三郎から声がかかり、三郎のタブレットの画面を三人で囲んで覗く。そこには中王区の職員データが並んでおり、その中に桧原 春という名前を見つける。そのページを開けば、個人情報と制服を着た春の姿が写っていた。

「え、これ…姐ちゃん、中王区の制服着てるじゃねぇか…っ!…ま、まさか…」
「二郎、その先言ったら僕が一生喋れなくしてやるからな!」

二郎の狼狽えて春が中王区サイドだったと疑うような言葉を吐く前に三郎が制した。二郎はぐっと言葉を飲み込んで頷く。

「そ、そうだよな…姐ちゃんに限ってそんな…じゃ、じゃあコスプレ…?」
「お前は馬鹿か!?そんな訳ないだろ、この低能!」
「うるせぇ!じゃあなんで姐ちゃんが制服を着てんだよ!?」
「そ、それはわかんないけど…!でも春姐はそもそもコスプレはしないし、冗談でも中王区の制服を着るはずがないだろ。あれだけコスプレイヤーはキャラクターやその作品への尊敬だの愛だのいってる人が。」

春の評価は分かった。わかったからそれぐらいにしておいてやれ。二郎と三郎の会話の内容と春の言われ様にちょっとだけ気分が和らいだ気がする。一人だと重苦しい雰囲気にしかならなかったことが想像でき、二人の存在に感謝する。

「ああ、俺もそう思う。それに見ろ、この顔…」

証明写真のはずなのに、正面を向かず写っている。不機嫌そうな顔で、目線は右下方に向いておりどうみても本意じゃなさそうだ。…なら、どうして?

「いち兄、まだ情報があります。春姐の名字でしらべると、母親の情報がみつかりました。母親は中王区の幹部みたいです。」

また新たに分かる情報に、これほどまで春のことを知らなかったのかと事実を叩きつけられて吐き気すら感じる。そんな負の感情を表に出さないように、三郎にそれで?と続きを促す。


「それとこの母親、桧原英枝が結構汚いことをやっていると情報を見つけました。行政に消されない内に、とコピーをとってまとめてあります。」
「流石三郎、やるなぁ!」
「なら犯人はこの母親かもしれねぇな。」
「ええ、その可能性が高いかと。それに、父親も10日ほど前に捕まっているみたいです。すぐに釈放されたみたいですが…」

オオサカでの出来事が繋がった。父親と、母親。その二人の浮上が関係しているのだろう。春からの離別の言葉を思い返す。あいつがあんなことを言うはずがねぇ。考えられる状況とすれば…脅しか?中王区が春を揺するネタといえば…俺ら、かもしれない。

そうだとすれば春が俺たちを守るために大人しく中王区に拐われたままになっているのに、俺たちが春を探している事は彼女の優しさを踏みにじる行為になるのだろう。でも、俺はあの言葉が震えていたこと。泣きそうな声だったこと。それがあいつの本心ではないことを表していると信じてあいつを助けだす。間違っていたら謝ろう。それほどに、俺は春にそばにいてほしい。


俺はこれから、自分のために春の母親を………


「もしかしたら、憎まれるかもしれねぇな」
「…その時は、俺らも一緒だよ。兄ちゃん。」
「ええ。許してもらえるかは分かりませんが、一緒に謝りましょう。」

ぽつりと溢せば、二郎と三郎が背中を押してくれる。いや、一緒に背負ってくれると言ってくれた。その言葉たちのお陰で、俺も決意を固める。

「…っし、いっちょやるか!」
「うんっ!」「はいっ!」



母親の汚職についてリークの準備を始める。同時に調べを進めていくと悪事には中王区外部の協力者がいるみたいだ。


「俺と二郎はそいつらをどうにかするか。」
「オッケー!兄ちゃん!」
「三郎は、リークの準備を進めておいてくれ。」
「はいっ、任せてください!いち兄!」





「なぁおい、また拠点移動しろってよ」
「またかよ?お上さんは警戒深いっちゃいいことだがめんどくせぇなぁ。」
「人も寄越さず一言いやぁテレポートできるとでも思ってるんかねぇ…」
「まぁバレて捕まるよりかはマシだろ。」
「だな、さっさと段ボール組み立てるか」


ある雑居ビルの一室で柄の悪い男たちが文句を言いながら動き出した。こここそ、桧原英枝が管理している事務所だ。表向きはIT企業なのだが、そこに駐在する人物達はどうみてもSEぽさとはかけ離れている。桧原英枝はこの会社の運営資金として税金をくすめており、実際は指示のみ与えその資金は横領しているそうだ。その指示、とは詐欺商法ときて悪事に悪事を重ねている。探りが入っていることを悟ってか拠点を移そうと動き出したようだ。そうは、させねぇ。

「おいてめぇら!一体どこに行く気だ、あぁ!?」
「ああ!?何だ、てめぇら!?」
「お、おい…こいつらってバスターブロスの山田一郎と山田二郎じゃねぇか!?」
「な、なんでお前らがここに!?」

二郎が先陣切って乗り込めば、戸惑いを見せる男たち。きっと意味は無いが一応確認しておく。穏便に済ませられるに越したことはねぇからな。

「大人しく自首する気はあるか?」
「は?何言ってんだ?悪いことしてねぇのに何で自首なんてしなきゃなんねぇんだ。」
「テメェ…俺らがなんも知らずに乗り込んで来るわけねぇだろうが!」
「へっ、証拠がねぇだろうが、このクソガキ!!!」
「…俺らも舐められたもんだな。そんなに欲しいならくれてやるよ。」


証拠ってやつをな。


かき集めた詐欺の証拠の山を並べ立ててやれば、一度は余裕の表情に戻った男たちの顔色が青ざめる。

「な、なんでこんなもんをお前らが…!?」
「あとはここにある偽装契約書やら紙媒体のデータが証拠になるぜ?」
「ハイクオリティー萬屋山田、舐めてンじゃねぇぞ!」
「く…っ」

ぐしゃりと証拠が並べられた紙をぐちゃぐちゃに握りこんで現場を捨てて逃げようとする男たちに立ちはだかると、拳が飛び交った。結局力で勝てないと悟ったのか、桧原英枝から横流しされたであろう中王区製のマイクを取り出してくる。そうなりゃこっちも容赦はしねぇと対抗しマイクを起動した。

「俺らから逃げられると思うなよ!」
「大人しく自首すりゃ大目に見てやったんだがな…」

使いなれていないのか、猫パンチにも満たないリリック攻撃に二郎とコンビネーション最高のリリックで切り返せば一瞬で勝負はついた。






「よし、データの移動は済んだ!これであいつらはアクセスできずに揉み消すことは不可能だね。」

エンターキーを押し込み、三郎は一息ついた。

不正していた経理のデータと偽装会社への指示内容を別ファイルに移動し、削除や書き換えできないようアクセス権を制限したのでこれで一安心できる。上層部へのリーク準備はこのファイルを送信するだけで完了であり完璧だ。足のつかないよう海外サイトを複数経由し、送信ボタンを押したところで兄二人が帰ってきた事に三郎は気づいた。

バタバタと駆け上がってくる音が近づいてきたと思ったら、二郎が三郎の部屋の扉を開いた。


「三郎!こっちは押さえたぜ!」
「僕も完璧にできたよ。そりゃあ そっちはいち兄が一緒だったんだから出来ないわけないだろ。」
「ああ!?あんなザコ共、俺一人でもヨユーだったに決まってんだろ!?」
「ハイハイハイハイ、そういうことにしといてやるよ。」

帰ってくるなり口喧嘩を始める弟たちにため息をつく。ほんとお前らは良い意味でもいつも通りだな。ぐっと拳を握りしめて二人の頭に落としてやる。

「おいお前ら、ケンカやめろ。」
「いてっ、ごめんよ兄ちゃん…」
「うっ…いち兄、お疲れ様です!」
「おう、ただいま。三郎、そっちも完璧だって?」
「はい!上層部へのリークが済みました。」

送信できたか最終確認のためにパソコンに向かい直す三郎。さんきゅ、と頭を撫でてやるとこれぐらい任せてください!と笑顔が返ってきた。横で俺は俺は?と待つ二郎の頭も次いで撫で付けるとへへへとはにかんで頬を染める。本当に頼りになる弟たちだ。

画面に向かっていた三郎が何かに気づいて声を上げる。

「あ、内部からの告発もあったみたいです…って、春姐です…!」
「っ、まじか!やっぱり姐ちゃんは敵じゃなかった!」
「よっしゃ!二郎、三郎!春が帰ってくるぞ…!」
「うん!」「はい!」



戻ってくるために春も内部で動いていたことが分かり、男のくせに思わず泣きたくなった。

やっと、やっとだ。片隅に追いやっていたものの、二度と会えないかもしれないと頭のどこかでちらついていた。そんな不安も吹き飛び、今はただただ喜びを噛み締める。


ぐっと拳を握り、三人でぶつけ合った。





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