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□カランコエ(一郎連載@)
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外部からの汚職の情報のたれ込みがあり、上層部が慌ただしく動き出し、党内のデータの捜索と聞き取り調査を始めた。そこで私は天谷奴さんからの情報のリークをし、ついに母親とその一派は懲戒免職に追いやられることになった。

母が重要参考人として連行される前に私の部屋を訪ねて押し入ってきた。半狂乱に私を罵る言葉は、重くのし掛かってくる。

「あんた、なんで私を…!!お前なんか産むんじゃなかった!折角ここに連れてきてやったのに!この疫病神!恩知らず!!!」

鬼の形相で捲し立てる彼女を私はただ見つめることしか出来なかった。周りに押さえつけられ連れていく姿が、あまりにも小さく見えて私は下唇を噛んだ。
今までのようにあなたが私と関わらなければ。私の大切なものを奪わなければ、そのまま悪事を隠しながら幸せに暮らせていただろうに。



─49,抱えた幸せ─



幸せだった幼い頃の記憶。もう昔すぎて多くは思い出せないが、家族3人で手を繋いで遊園地に行った事を覚えている。そこではみんな笑顔だった。中王区政権に入党し、地位を確立していった母のDVによりその幸せを奪われてしまった。優しさに満ちた家庭、そして私が今得た壁外の幸せすら また奪おうとした。


───ごめんなさい。


こんな自分の幸せのために母親を捨てた娘で。ごめんなさい。母[あなた]を幸せにできなくて。ごめんなさい。ごめんなさい。罪悪感が今になってどんどん私の首を絞めていく。


でも、ありがとう。

私を産んでくれて。ありがとう。

子どもは勝手に育つというが、生まれてすぐなんてそうは言っていられらない。数時間おきのミルクに授乳。オムツを変えて、風呂に入れてやり離乳食をつくって食べさせて。そうして大人が守って育てないと容易に赤ん坊なんて死んでしまう。記憶にも残らない頃。ずっとそばにいて、愛情をもって抱き上げて抱き締めてくれた。育ててくれたのは間違いなく私の両親なのだ。

中王区で私に宛がわれた部屋で、年甲斐もなくわんわん声を上げて泣いた。


やっと中王区の壁の外へ、帰れる。
あともう少しだ。




ぎゅうと握り込んだ手の中にあるのは取り上げられた携帯だ。画面は割れているものの、データは無事だった。なんとか画面は見えるのでその携帯で一郎に連絡を入れる。

[春…!]
『い、ちろぉ…!』

通話口越しで聞こえる一郎の声に、私の心は歓喜に震える。何から伝えるべきか、胸が一杯で言葉は出てきてくれなかった。

[無事で良かった。]
『っ、ありがとう。ありがとね、一郎…。』
[ああ。二郎も三郎も、お前が帰ってくるの待ってるぜ。]
『ひぃ、天使…』

そんなことしか言えない私を笑う声が聞こえる。ああ、やっぱり好きだ。声だけでこんなに幸せを感じられることってある?笑わないでよ、と言った後に一呼吸置いて、やっと絞り出す言葉。


『ひどいこと言ってごめんね』
[……ああ。]
『一方的に言うだけ言って、一郎の話も聞かずに勝手に居なくなろうとしてた。それでも、やっぱり私は帰りたくて。カッコつけたくせに、結局三人に助けられちゃった。』
[うん。正直、すっげぇ迷った。助ける事が春の為になるのかって。…俺のエゴだろうが、お前にここに戻ってきてもらいたくて俺も諦めなかった。諦めたく、なかったんだ。]
『…一緒に戦ってくれて、諦めてくれなくて、ありがとう。』
[おう。]


彼の声も震えていたのは、気のせいにしておく。だってそれは悲しいことじゃなかったから。



それから数日後、私は連れ去られた時の荷物だけを持って壁外へ出る手続きをしていた。名簿に名前を書き込み、どうぞと促され薄い扉をくぐって薄暗い壁の中の通路を真っ直ぐ進んでいく。その先にある大きな扉が開かれる。やっと中王区外の地に足を踏み入れた。



「姐ちゃん!」「春姐!」

名前を呼ばれた方を向けば、三人が立っていた。私は手に持っていた鞄やキャリーケースの持ち手を離して駆け出す。弟二人に飛び付けばしっかりと抱き止めてくれる。


「「お帰り!」」
『ただいまっ!!!!』


満面の笑みを向ける二人に私の涙腺は緩みきった。かわいい。かわいすぎる。ここが天国。れすといんぴーす!!!!そう泣きながら喚く私に二人は更に破顔したため、一旦抱きついていたのを離れて抗議する。

『なんで笑ってんの!?』
「いや、姐ちゃんは姐ちゃんだなって。」
『なに、どゆこと…』
「相変わらずドン引きしてるってこと。」
『ひっやださぶちゃんの毒舌久々すぎてドキドキする…』
「はぁ…」
『あっ、冷たい視線…!これもまた…』
「姐ちゃん、変態臭いよ」
『ぇ、待ってちょっと会わない間にじろちゃんまで毒舌になったの?私のわんこどこ行ったの?』
「…ワンコじゃねぇし!」

わしゃわしゃと撫でてやるとへにゃりと笑う二郎をみて、まだワンコだったと安心する。その様子を見てバカ二郎…と呆れている三郎の頭も撫でれば照れながらも黙って受け入れてくれた。ああ癒されてます。現在進行形で。

再びぎゅうっと2人を抱き締める。合わせて屈んでくれてありがとう。

『ありがとう、ありがとね。』
「もう、あえないかと、思った…!」
『うん、』
「もう春姐は家族みたいなもんなんだから、勝手に居なくならないでよね…」
『、うん。迎えにきてくれて、ありがとう。』

そんな私たちの様子を優しい表情でみている一郎に気付く。視線が合い、微笑みを交わす。


「家に帰ろう。」

一郎のその一声に、私たち三人で返事をした。






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