hpmi 1 BB

□カランコエ(一郎連載@)
50ページ/66ページ




三人は車で迎えに来てくれていた。車に乗り込み、その車内は賑やかなものとなる。二郎と三郎との口喧嘩、一郎の鶴の一声、鼻歌から雑談。じわりじわりと、以前の日常に戻ってきた実感が私の胸の内を温かくする。

山田家に迎え入れられた時のおかえりなさいという言葉に、私は躊躇なくただいまと返す。返事を聞いた三人の表情は今までになく優しくて、私はまた泣きそうになるのだった。



─50,背負うもの─


「姐ちゃんも帰ってきたし、お祝いしようぜ!」
「そうだな、何か食いたいもんあるか?」
「ピザとかどうかな!?」
「バカ、そこは主役の春姐に聞いてるに決まってるだろ!なんで二郎が答えるんだよ」
「そ、そうだよな。わりぃ、姐ちゃん!」

テンション高くお祝いだお祝いだとはしゃぐ二郎のかわいさがマックスであり私は昇天しかける。なんておバカなの、天使すぎる。私の頬はとろける杏仁豆腐もびっくり仰天するぐらいに緩みきり、二郎の食べたいもの食べたいなぁと返す。

「二郎を甘やかさないでよ」
『だって可愛すぎるんだもん。もはやこれがご馳走です。』
「おまわりさーん」
『さぶちゃん!?!!?わかった、三郎の食べたいものも聞くから許して?』
「なんでそうなるんだよ…」

呆れた表情を浮かべた三郎が、何かを思い付いた顔をする。

「春姐の食べたいものが食べたいなぁ?」
『!!!?!?!!!?!?!!!?』
「日本語喋って。」

いや、一発KOですぜ。あざとい。あざといが過ぎるぞこの小悪魔天使!どっちだよだと?どっちもだよ!!!可愛すぎて怒りさえ生まれたわ、今。

『あーめん』
「ラーメン?」
『じ、じろちゃ…これ以上はオーバーキルだからもう黙って…。』

萌え死寸前の私を、一郎が喉を鳴らして笑う。

「お前ら面白すぎんだろ。春、さっさと食いたいもん決めろ。一生決まんねぇぞ?」
『君の弟が可愛すぎるのが原因だからね?ううーん、迷うなぁ。』
「遠慮すんなよ?」
『んー、ワガママ言って良いなら…一郎のカレーが食べたいな。』
「そんなんでいいのか?」

きょとりとする一郎。私のリクエストに、弟二人も賛同する。それがいい!と強く私が再度推せば一郎も頷いた。

「よし、んじゃカレーで決まりだ!」
「最高じゃん!目玉焼き乗っけようよ!」
「いち兄、僕も手伝います!」


私も手伝おうと名乗り出たが座ってろと促され三人の後ろ姿を眺めながらカレーを待つ。こんな時間でさえも幸せすぎて一秒一秒を噛み締める。ああ、大きな背が三人並んで料理してるの尊い。





楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、夜も深まり出した。オオサカ出張から今まで自宅に帰っていないため、一度帰ることになり一郎が送ってくれることになった。

『しばらく帰ってないから綺麗じゃないかもしれないけど、上がってく?』
「いいのか?」
『もちろん。』
「じゃあちょっとだけお邪魔する。」

久々に上がった部屋は、ある程度片付けて出掛けたもののやはりちょっと埃被っているような気がして窓を開ける。ふわりと夜のひんやりした空気が淀んだ空気を循環させ、浄化されていく。冷蔵庫にしまったままのコーラを取り出して一郎に差し出せばサンキュ、と百点満点の笑顔を浮かべた。常に二百億満点な顔面ですがね。


一息ついたあと、ぎゅっと一郎が私を抱き寄せたので私もその背中に手を回す。力一杯抱き締め返して、空気を吸い込む。一郎の体温と匂いにポカポカと胸の辺りが温かくなり安心で満たされる。


「……帰って来たんだなぁ。」
『うん、帰って来たんだねぇ。』


しみじみと、お互いの存在を噛み締める。側に居て、同じ時間を過ごせていることがどんなに幸せか。すり、と一郎の胸板に頬を寄せればより強く抱きすくめられる。存分に体温を分け合ったあと、肩を寄せてはいるものの離れる。


『あーあ、犯罪者の娘になっちゃった。』
「春…」
『母親も父親も切り捨てた。……こんな私でも一緒にいてくれる…?』

下手くそな笑顔しか作れなかった。私の罪を、一郎に許してもらおうとするのは卑怯なのだろう。それでも、こんな私が一郎の、一郎たちの隣にいていいという言い訳が欲しかった。お願い、と祈るように彼の返答を待っていると、何故か泣きそうな顔をした一郎が口を開いた。

「……春、俺の話をきいてくれ。」


真剣なその表情に、私は少しの間で覚悟を決めて頷いた。

「最初は、孤児院のために年誤魔化してバイトして働いてたんだ。そのバイト代を院に入れて、少しでも助けになればと思ってよ。……でも、信じてたヤツに裏切られて、荒れて…金になる仕事を選んだ。表立って言えねぇぐらいのこともした。多分春も、その仕事の時は気づいてくれてたと思う。……お前より、酷いことをやってきた。 それでも俺を、」


一郎の話を聞き、過去に殺気立って帰宅することがあったことなどが合致する。今までにない辛そうな表情を浮かべる彼に、私までツラくなってきた。あの時、一郎が一人で抱えていたことをようやく知る事ができた。加えて、当時の私の無力さと能天気さへの憎しみも覚えたのだが。ぐっと申し訳ない気持ちを飲み込んで私も言葉を紡ぐ。


『そっかぁ。私と一緒だね。』


気のきいた言葉をかけることは出来なかった。代わりに彼の懺悔にへらりと泣き笑いを返し、今度は私から一郎を抱き締める。ボロボロと涙が頬を伝っていくのが分かる。お互いの懺悔を吐露し、許し合う。きっと彼から何か酷いことをされた人や私の両親から許されることはないのだろう。でも、たった1人でも許してくれるならここに立って居られる。ああ、もう最近はずっと泣きっぱなしだ。寄せ合う体が、温度が、空気が、お互いを受容する。夜の静寂が、二人の息づかい、服の布の擦れる音を浮き上がらせた。



一緒に悔いながら、それでも幸せを求める私たち。
きっとそれは罪に罪を重ねているんだろう。
わかってる。

それでも罪を背負い、一緒に生きていこう。





次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ