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□カランコエ(一郎連載@)
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「ん?乱数から電話…?」
「もしもし…ああ。は?おい、ちょっと待て!」
「はぁ…」
電話に出たかと思えばたじたじな様子を見せて耳からスマホを外した一郎がため息をついた。


─55,飛び込み依頼と萬屋ヤマダ─


そんな様子をみた弟たちが一郎に声をかける。

「いち兄、どうかしたんですか?」
「ああ、急な頼み事をされちまった。」
「急な頼み事…?それって依頼ってこと?」
「ああ。と言っても俺も詳しい内容は聞けなかったんだけどな。」


はぁーっと再度深いため息をついた一郎だったがよし、と切り替えて元々の依頼を午前中に済ませるかと依頼リストを整理する。さすが事業主だ。


『私も手伝えるのあったら手伝うよ。』
「まじか助かる。さんきゅ!」


それからは分担して依頼を昼までに終わらせるという怒涛の一日が始まった。





「お、終わった…」
「なんとか間に合いましたね」
「ああ、ほんとすまねぇ」
「謝らないで下さい!」
『お昼食べて、飛び込みの依頼に行くんだよね?』
「おう。何にすっかな…」
『……超手抜きでいいなら焼き飯とか?』
「焼き飯いいじゃん!」
「全然手抜きじゃないんじゃない?」
「米なら沢山炊いてるぜ!」
『や、優しい…』


いい旦那さんになるよ君たち…と感涙しながら冷蔵庫を開ける。そんな私は一郎がぽりぽりと頬を指先でかいて頬を染めているのには気付かなかった。

パック詰めされた焼豚もあったのでそれと野菜をちゃちゃっと細切れにして米と卵と調味料で炒めた超簡単焼き飯を作り上げる。大量のご飯が重くてフライパンは上手く振れなくて少しべちゃっとしてしまったが。食べ盛りのご飯の消費量ぱねぇ。


「ところで兄ちゃん、飛び込みの依頼って?」
「そういえば、シブヤディビジョンの飴村乱数の名前がでてましたよね?」

出来上がった焼き飯を大きなスプーンで掬い上げながら弟たちが質問する。ハムスター顔負けな頬張り方に私の頬も胸もお腹も満たされちゃうよ、まったく。そんなアホなことを思いながら、一郎の返事を聞いていた。


「ああ、内容はわかんねぇんだが、乱数の事務所に、出来ればお前達も一緒に来てくれって突然な。」
「そんな滅茶苦茶な依頼の仕方あります!?」
「まぁ、いつもあんな感じだし諦めも必要だ。それに、ちょっと切羽詰まった感じもしたから気になってんだよ。」


憤慨する三郎を一郎が諌める。


『乱数…らむちゃん…?』
「姐ちゃん、飴村を知ってんのか?」
『あー、ちょっとね。』

今さらだが聞き覚えのある名前に"ショボくれオネーさん"と呼ばれたあの日を思い出してポツリと溢せば、二郎が食いついてきた。あの日の事はちょっと思い出したくないからあんまり食いつかないで…。情けない姿の自分を思い出して少し落ち込む。言葉を濁す私に、それ以上は二郎も食い下がらなかった。優しい。なでなでしておこう。


「ごちそーさまでした!」
「ごっそさん!」
「ご馳走様でした。洗い物は僕がしますよ。」
「じゃあ俺拭くわ。」
「いいよ、俺がするから二郎と三郎はちょっと休憩してろ。」
「いえ!こちらは僕達に任せていち兄は午前中の依頼の簿記などしててください!」
「そーだよ!どうせ今から飴村の依頼済ませてからやろうとしてるんでしょ?雑用は俺らに任せて先に済ませられるのは済ませといて!」
「そうか?助かる。」


ああ、こうやってよろず屋と生活は成り立ってるんだなぁ。兄弟のやりとりに、自営業の生活が垣間見える。今までももちろん見てきたのだが、こうやって兄弟が支え合ってきたからよろず屋が成り立っているんだなぁと何度でも感動できる。まだ未成年の彼らなのに、彼らだからこそブクロの街を支える萬屋なんだ。





そんなこんなでやってきましたシブヤディビジョン。あちこちがカラフルで、ファッションもポップで夢かわな服を身に纏った人が目に入る頻度が上がった気がする。


「ここが乱数の事務所だ。」
「ケッコー立派なとこじゃん。」


事務所のインターホンを鳴らすもうんともすんともドアの向こうかららむちゃんは出てこない。

「ま、まさかいち兄をわざわざ呼んでおいて居ないってことはないよね!?」
『まぁまぁさぶちゃん落ち着いて。』
「おーい!飴村乱数!!萬屋ヤマダが来たぞ!」
「おい、二郎叩くな!」


憤慨する三郎を宥める私の横で二郎が事務所のドアを叩く。おいおい、一郎ラブラザー落ち着きなさい。一郎が二郎に拳骨を落としたところでドアが開いた。


「めんごめんご☆ちょっと仕事に没頭しちゃってただけじゃーん、弟クンこっわーい!」
「俺の弟がすまねぇ…。」
「いいよいいよ!許してしんぜよー!」
「てめぇ…」
「あはは!短気は損気だよっ?」


最初からハイテンションな乱数に、二郎はまんまと転がされている。まるでイタズラ好きなハムスターに遊ばれて振り回されているワンコだ。グルグルと唸りながらも一郎がいるからと噛みつかない二郎が可愛い。三郎は若干乱数のテンションに押されて一歩引いている。うん、ここの組み合わせは合わなさそうだ。

「で、突然呼んだのはなんの用だったんだ?」
「まぁまぁ上がってよ〜!お茶あったかなぁ?」

ぞろぞろと事務所に入っていく三人の後を追う。

『お邪魔します…』
「あっれれ〜!女の子もいる〜!って、あの時のショボくれオネーさんじゃん!」
『らむちゃん、覚えてたの?』
「ふふんっ♪ボクはオネーさんの事はみーんな覚えてるよっ☆」

三人がショボくれオネーサン?とはてなマークを飛ばしているのは置いておいて。私はやっぱり、中王区で出会った乱数と違う気がした。


「それで、本題に入ってもらえませんか?」
「んもぉ〜弟くんたちってばせっかちだなぁ」


のらりくらりとしている乱数に、三郎のこめかみでぴきりと音が鳴った。気がした。血管切らないでねさぶちゃん…。


「あのね、もうすぐデザインの締め切りが来るんだけど今回煮詰まってて、インスピレーションがピピッ!と来ないんだよねぇ〜。」


だから一郎たちを呼んだってワケ!と可愛らしく言った乱数だが、それでなんで俺たちが?と腑に落ちない三兄弟+私。


「今回のテーマが、男らしい人でも着られる可愛い服でさ〜!ちょっとモデルが欲しくって。」

ペンを顎に当ててムムム〜とへの字口にする乱数は、口調こそ軽いが仕事に対して真剣に悩んでいるみたいだった。そんな様子をみて、一郎も力になれるかは分かんねぇが手伝うと依頼を請け負う事となった。









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