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□カランコエ(一郎連載@)
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「じゃあ早速、一郎はこの服で弟くん1号はこれ、弟くん2号はこれ着てみて!」
「誰が弟くん1号だ!」
「ちゃんと三郎という名前があるんです!」



─56,シブヤのファッションリーダー─



素早くハンガーに掛けられている服を少し考えながらも選んで各々に渡して奥で着替えさせられる三人。広げなくても分かるカラフルな色味の服を渡されており、私は彼らが出てくるのをワクワクと期待を胸に膨らませて待つ。え、まじでどんな雰囲気になるの?普段は原色を白と黒を合わせたり、デニムなどラフな格好ばかりしている彼らだから、全く想像がつかない。


「何か新鮮だな…」
「これ着方合ってんのか…?」
「僕だけちょっとテイスト違いません?」
『っ!!!!』


一郎は無駄にベルトが付いた赤のタータンチェックのサルエルに、黒地にビビッドカラーのペイントが飛び交うTシャツ、無地なのに光沢のあるパステルカラーなせいで目立つスカジャンを羽織っている。ひぇ…サルエルなのに足の長さが尚も隠されないってどーゆーこと…?でもやっぱりちょっとパステルカラー似合ってない、かな。いや見慣れないだけ?

二郎は青を貴重としたギャラクシー柄の上に穴まみれのパステルカラーのパーカーを着ている。どこに腕を通したらいいのか分からなかったみたいだがきっと正解、大正解です。黒のスキニーと相性バッチリですありがとう…!良く分からないキャラクターのアップリケも付いてる。

三郎は、白地にオレンジのチャイナ風の留め具があしらわれたシャツをハイウエストのジーンズにinしてオーバーサイズのアウターは黒地にリアルなテディベアが何匹もプリントされている。オーバーサイズがまた指先をちらつかせて可愛さを爆発させている。可愛い。きっと三郎はウィメンズ寄りの路線なんだろう。


「イー感じ!流石ボクだねっ☆ちょっと写真撮るからそこ立って!」


取り敢えず最高であることには変わりない。乱数がデジカメを取り出して、三人を少し角のスペースに案内する。らむちゃんが撮ってる後ろで私も携帯を取り出して連写する。癒しフォルダがまた補充されたよ、やった!やったよ〜!


「じゃあ次は〜♪」


また衣装を選び始める乱数。それから何着か着せ替えられ、三人の表情にも疲労が見え始める。


「ちょっと一郎、結構その服イイ感じじゃない?」
『うんうん!すっごい似合ってる!二郎もショートても良いと思う…!さぶちゃん、サロペット最高にかんわいい!!!』
「だよね〜!!!」


一郎は黒と赤のオーバーチェックの細身のパンツとぴったり目の白Tシャツ、だぼっとした黒のカーディガンを肩落としスタイルで羽織っている。オーバーサイズのカーディガンがTシャツとのコントラストで身体の分厚さを際立たせている。パンクっぽいのに手の甲まで隠している袖がまた可愛いのなんの。格好いいのか可愛いのかどちらかにしなさい、めっ!
て言うか本当にこんなコーディネートの一郎が見られるなんて、どんな神の思し召しか。本人はなんだかコスプレしてる気持ちだと言っているレベルで彼自身では選ばない服装だ。

後ろかぶりのキャップとバンドカラーシャツに膝上のショート丈パンツを合わせた二郎も最高。そのやんちゃな膝っこぞうと筋肉が輝くふくらはぎを晒して私をどうしてくれるの…?

三郎はコーデュロイでアイボリー色のサロペットにブラウンのフード付きの肩だしパーカー…しかもサロペットの裾はロールアップされて愛しのくるぶしがあらわだ。ああそんな肩の絶対領域…さてはらむちゃん天才か。プロだったわ。本人はなんでこんなところ出てるんだとぷんすこだが。


合間合間で乱数もスケッチブックを描き出したりして、時間はどんどん過ぎて日はすっかり沈みかかっていた。5着目にかかり、三人の顔も魂が抜けかかっている。そんな時に、乱数が私に標的を変えた。


「あ。ねぇねぇ折角だし、春も何か着ない?」
「確かに、春姐もこういう服着てるの見たことないね。」
「モノトーン系が多いよな〜。」

二郎と三郎が乱数の発言にそう言えば、と言葉を漏らす。

『えええ似合わないって…』
「俺だって正直そう思ってっけど、どうだったんだ?」
『よぉーくお似合いでした。』


渋る私に一郎のもう一押し。眼福です…と拝めば、じゃあ春も着てみろよと三人がごり押してくる。おやこれは休憩を求めている三人の必死な視線も含まれているのではなかろうか。


『…らむちゃん、見繕ってくれる?』
「もっちろん♪とびっきり可愛くしてあげるよっ☆」


それからタッチ交代で私がめかし込まれる。シャーベットカラーのマーブルに染められたオーバーサイズのパーカーにダメージの入ったショートデニム、白の網タイツと底の厚いミディアムブーツ。うわぁ、絶対に自分では選ばない服だ。髪も高い位置で三つ編みにしてまとめたらお団子が2つできあがり、メイクも少し変えられる。

着替えて出れば、呆気にとられる三兄弟に泣きたくなった。どうせ似合わないよ!直ぐ様着替えブースに戻ろうとする私をらむちゃんが引き留める。


「えー!超似合ってるよ!写真撮るからこっちきて〜」
『うう、やっぱり、この年齢で老け顔にはこの系統厳しいって…』


職業柄なのか、年齢の割には落ち着いて見えるみたいで老け顔というのと、ゆめかわいいふわふわなのにパンチのある服は10代の特権ではなかろうかと気が引ける。そんな私の発言に、乱数は口をむっとへの字に曲げた。


「何言ってんのさ〜!もちろん、似合う似合わないはあれどファッションなんて所詮自分の趣味!年齢や性別なんて関係なく、好きな服を着るのが最高にキュートでクールなの!…確かに日本では周りの目を気にしすぎる性格があるけど、海外なんて80になってもビキニだって着るし、そんな女性はチョーかっこいいしキレイなんだから!」

「自分が好きで、テンション上がる服を着る!それがお洒落がくれるハッピー&ピースなんだよっ☆」


そう締めくくった乱数に、感嘆の息を漏らす。流石ファッションリーダーでもあるデザイナーの言葉だ。私の発言が似合う似合わないの関係ではなく、偏見であったことに反省する。


「それに、ちゃーんと似合ってるから大丈夫!新しい春の誕生じゃん?♪」
『…らむちゃんがそう言ってくれるなら、』
「おう、全然変じゃねぇよ。」
「うんうん、新鮮だっただけだよ!」
「たまにはそういう色も良いんじゃない?」
「ほらねっ?とゆーことで、ほらほらこっちに立って!」


多分、自分では今後も選ばないかもしれないけど、こんな可愛い服を着られるんなら楽しむしかないよね。そう思い直してこの機会を目一杯堪能することとした。


そして、私の3着目には三兄弟もまた参戦させられて4人とも最後の方はげっそりしていた。モデルさんって、すごいなぁ。こんなに何着も着回して表情を作ってポージングするなんて。体力仕事なんだと新たな発見が別にあったのは別の話。



「すっごくインスピレーション湧いちゃった!一郎たちに頼んで正解だったよ☆ありがとねー♡」
「力になれたんなら…よかったぜ。」


本当にそう言ってもらえたなら良かった。ガンガン削られた4人のHPだが、人の役に立つのが萬屋の仕事であり三人も満足気にお礼の言葉を受け入れる。
それから一郎と乱数が依頼料の話に移り、弟たちと着終わってソファーや着替えスペースに山積みとなった服たちをハンガーに掛けていって仕事を終えた。


「じゃあ、みんな また見たことない自分に会いたくなったらボクのとこにおいでよ!春も、また一緒にお酒呑みに行こー!まったね〜!☆」
『うんうん、また誘って!』
「もう当分はいいよ…」
「だな…。」
「おう、乱数またな。」


どっぷりと日が沈んで、街の灯りが賑わったシブヤディビジョン。流石に今日の夕飯は外食となった。







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