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□カランコエ(一郎連載@)
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萬屋ヤマダの依頼は本当に様々だ。
電機系統の修理や屋根の補修や水道トラブルなどちょっとした建築系であったり買い物や畑仕事などの力仕事だったり接客や草野球の助っ人、ペットの迷子捜索など探偵のような仕事まで、その名の通り【よろず】屋なのです。


─57,眩しすぎる─


『まって無理。』
「何がだよ、似合ってねぇか?」


思わず漏れた言葉に一郎が不満げに返す。いやいや、違います正反対です。

『似合いすぎてニヤける。』
「はは、そんな言う程かよ。」


一郎はスーツを着ようとカッターシャツにジャケットを羽織ってネクタイを結ぼうとしているのだがその姿に私は口許を押さえていた。依頼の内容とはホテルのキャスト兼警備だそうで、正装での出勤だそう。依頼した人は神です。(断言)

普段はラフ目な服が多い彼のギャップに私は鼻血をふきそうだ。

『鼻血でそう…』
「ばーか」


あまりにも褒めたせいか照れたようにそう言って小突いてきた一郎に、私は笑みを溢す。また一郎がネクタイを結び出すが、なにやら納得いかない様子。


「なんか曲がってる気がすんだよな…」
『貸してみて』
「出来んのか?」
『私、高校の時ブレザーでネクタイだったから結べるよ』
「へぇ」


向かい合って、一郎の首から垂れ下がったネクタイに手を伸ばすと屈んでくれる。久々に結んだけど、案外覚えてるもんだね。きゅっと首もとまで結び目を上げて顔を上げれば、至近距離に見えた赤と緑。そのまま軽く爪先を立ててちゅっと唇を奪ってやる。


「お、おま…っ!っ〜…!」
『んッ…』


あまりの不意打ちに少し目を見開いて頬を染める一郎に、してやったりと笑えば今度は倍にしてやり返されてしまった。


『気を付けてね、いってらっしゃい』
「おう、行ってきます!」

もし一郎がサラリーマンだったなら、毎朝こうやってネクタイを結んで いってらっしゃいって言ってたのかな?そんな甘い妄想をしながら、彼を送り出した。






『ちょっと一郎?!』
「春。どうしたんだ?」
『これ!聞いてない!!!』


携帯の画面をずずいっと一郎の顔に見せつけると仰け反る一郎。その画面には、私が参加する予定のアニメフェスのスペシャルゲストが載ってある。その欄にイケブクロディビジョン MC.BBという文字が並んでいた。

「今日発表だっけか。」
『そー!もうびっくりした〜。』


2ヶ月ほど前に当選したと喜んで報告した時にはまだ決まっていなかったみたいで、その後決定した時からサプライズを考えていたそうだ。まんまと驚かされた私に、ふふんと得意気に笑う一郎の二の腕を小突く。





それから迎える当日まで、私も仕事と彼はイベントの準備や練習、その他の依頼で中々会えないまま時間は過ぎていった。

当日、人で賑わっておりSNSのフォロワーさんと会ったり語ったり、推し作品ブースでのコラボドリンクを2回並んで購入しコースター集めに勤しむ。ええ、推しは自引きができなかったもので交換にて無事にお迎えしました。ようこそ推し…!!!


「ゲストイベントそろそろ始まりそうですね」
『あ、ほんとだ…!時間が経つの早すぎます〜』

フォロワーさんと一緒にドリンクを飲み干すのに戦っているとゲストイベントが始まる時刻が近づいていた。ずずっと飲み干して、行ってきます!と肩に鞄をかける。

「私も行きます〜!」
『そうなんですね!一緒に行きましょ行きましょ。』
「今日、ビッグブラザーも来るみたいなんでこれは絶対行かないとと思って!」
『あ、そうですよね…!』


一郎は推し作品のイベントなどに積極的に参加しているため、イケブクロディビジョンのビッグブラザーがオタクであることは知れ渡っている。そのためオタクは一郎のことを身近に感じている人は多いみたい。もちろん他のゲスト目当てもあるだろうが一郎もその中の1人であることに密かにドキリとしてしまった。




「みなさーん!盛り上がってますね〜!でも全然足りてないぞ!もっと行けるよなぁ〜!?!?」


会場の盛り上がりは最高。MCも参加者を煽ってさらに盛り上げていく。


「さあお次のゲストはー!この人だぁー!!!」


そのコールの後に、ウーハーの効いたビートが刻まれる。乱れ踊るライティングと共に登場する一郎に、会場で歓声が巻き起こった。リズムを刻んでハンズアップする彼に観客が合わせて手を振る。


「みんなぁ!まだまだ盛り上がって行こうぜー!!!」


一郎がヘッドホンを耳に当ててディスクをスクラッチして今季のアニメ作品の主題歌がクールにMixingしていく。一定のビートに落ち着くと、作品と絡めた韻でラップを披露し会場を沸かせた。


汗がライトに照らされ、楽しそうにラップする一郎とライティング、歓声に目が眩んだ。最高にカッコ良すぎる。


「はは!マジで最っ高に楽しかったぜ!ラップもアニメも大好きだ!残りのステージもアがっていってくれよな!!」


最後まで観衆の目を惹き付けていた一郎。
最高のライムとパフォーマンスだった。
私の目、早く録画機能付いてくれないかな。


彼を少し遠くに感じた私はなんて醜いんだろうと、熱に浮かされてぼんやりとした頭で捌けていった一郎の背中を見つめていた。そんな考えを頭を振って押し退け、残りの時間を楽しく過ごそうと切り替える。だって、彼が折角盛り上げた会場の熱を無下にしたくはなかったから。


その後、さらに合流したフォロワーさんとイベント限定イラストの尊さや一郎の作品を絡めたラップが最高だっただの声優さんのトークショーはこうだっただの語り付くし、最後まで楽しみ会場を後にしたのだった。






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