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□カランコエ(一郎連載@)
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元気なことは良いことである。スポーツなどで出来た擦り傷などは青春の思い出であり絆創膏を貼られたりしたらやんちゃさが出てそりゃもうかわいいのなんのって。あ、二郎の話ね。でもそれとこれとは違います。

『じ、じじじじじろちゃん!?なんですかこの傷は!!!』



─58,夢見る将来 輝く未来─


まったりとまた山田家にお邪魔して弟たちの帰りを待っていたのだが、事件です!いつもより遅くに帰ってきた二郎の頬が腫れており唇の端には乾いた血が滲んでいた。その他にも細々した擦り傷もある。その顔を見るなり、私は絶叫。


「あ、姐ちゃん…ちょっと絡まれてよ」
『結構血がでてるよ!?』
「ん、もー止まってるしへーき。」
『いちろー!!!じけーん!!!』


ごし、と袖で口の端を拭いながら何でもないように言う二郎。その拳にも血がついているのを見つけて私は叫びながら定位置にある救急箱を準備する。冷凍庫から保冷剤を取り出していると夕飯を準備していた一郎がなんだなんだと寄ってくる。二郎の姿に一郎の声も低くなった。


「おい二郎、何があったんだ?」
「もう、姐ちゃんが大袈裟なんだよ…ちょっと絡まれてさ。でも大丈夫!ちゃんと返り討ちにしてやったよ!」


えっへんとでも文字が浮かんで見えるぐらい誇らしく言う大型犬、もとい二郎。はぁ、と一郎がため息をつく。


「無事なら良かった。でも、何かあってからじゃおせぇから出来るだけ一人で立ち向かうんじゃねぇぞ。それに、春が大袈裟とかじゃねぇよ。お前を心配して言ってくれてんだからな。」
「う、うん…わかったよ。ごめんね、姐ちゃん。」


一郎が呆れたような、でも良くやったというように二郎の頭を撫でながら諭すと二郎も眉を下げて私に謝ってくる。


『分かればいいの。ほら、座って。』
「春、頼めるか?」
『お任せあれ〜』


一郎は二郎の様子を見てあとは私に任せて戻っていった。消毒液を準備している私に、優しくしてください、とソファーに座る二郎に昇天しかける。ぐう…それは反則だぞ!


『ついこの間も、怪我して帰って来たばっかなのに…』
「それはサッカーの練習試合でタフプレーが多かっただk、いてててて!!いてぇよ姐ちゃん!」
『怪我は怪我でしょ!?殴られても平気な顔してたくせに消毒液で泣かないの。』
「なっ、泣いてねぇよ…」


ぬるま湯で流した傷口に容赦なく消毒液を吹き掛けると騒ぐ二郎。口答えするなら知りません。涙目の二郎も可愛いが過ぎるな。邪な私の感じ取ったのか、ジト目で見てくる二郎に即座に謝った。でも君が可愛いのが悪い。なんて責任転嫁したりして。

口の端は動かした拍子に開かないようにテープを貼って、擦り傷は消毒するだけ。あとは拳の傷は結構皮がめくれているので洗ってよれた皮膚を戻し、止血作用と炎症を抑える軟膏を塗ってガーゼと包帯で保護しておく。


『マイクは使わなかったんだね。』
「うん、向こうがマイク持ってなくてフツーに殴り合いの喧嘩って感じだったから。」
『他に殴られたり蹴られたりは?』
「んー、そういや足に蹴り入れられたっけか。」
『どれ…うわぁ…』


ズボンをまくりあげると、色が変わった脹ら脛。


『ちょっと今からでも遅くないから皆で相手を再起不能にしてこようか。』
「ね、姐ちゃん…大丈夫だって。俺が再起不能にしてきたからさ」
『わぁん、よくやったよ二郎!!!』


わしゃわしゃと頭を両手で撫でてやる。愛しの二郎の身体をキズモノにするなんて絶対許さない…。きっとそいつは地獄に落ちる。


『…絶許。』
「つめてぇ。」


普通に歩いてるし多分骨は大丈夫だろうと湿布を貼って手当ては終わり。


「おお、やっぱプロは違うな〜。包帯もきれいに巻いてほどけなさそう。」
『最近じろちゃん怪我ばっかして私は気が気じゃないよ…』
「元気な証拠ってな!」
『か、かわい…』


手に巻かれた包帯に感嘆の息を漏らしているのが微笑ましい。それでも救急箱の蓋を閉じながら心労を苦言を呈した私に二郎はにかりと笑った。ノックアウトだこんちくしょー。タオルで巻いた保冷剤を渡して頬に当てるように持たせる。


『二郎は元気に世界のあちこち飛び回りそうだよね。』
「え、何のはなし?」
『んー、何となくふと思った。止めても止まらなさそう。こんな小さな世界に押し留めとくのはもったいないなぁ。』
「いや良くわかんねーよ。」


突拍子のない話に、はてなマークを浮かべる二郎。そうだよね、突然。でも彼のハツラツな笑顔が爆裂して世界を感じたんだもん。ブラコン?なんとでも言ってくれ。


『ふふ、海外とか興味ないの?』
「海外かぁ!楽しそうだな!」
『アメリカとか似合いそうだね。』
「アメリカ!ニューヨークとか?」
『はは、安直〜。』


自由の女神見てみたい!と目をキラキラさせる彼に思わず笑う。そしてふむと二郎が真剣に考え出した。


「でもそうだな、ラップの聖地っぽいし行ってみたいなぁ。姐ちゃんは行ったことあるの?」
『海外はいくつか行ったことあるよ。世界遺産見て回りたくて、友達と一緒に。』
「へぇ!」
『色んな文化があって、日本にはない造形もたっくさん。』
「なんか楽しそーじゃん、めっちゃ気になる!」


行った国の名前を並べて話をすると、にこにこ話を聞いてくれるじろちゃん。ワクワクとした色を浮かべた黄色と緑の瞳に私も飛び回る二郎の姿を想像してしまう。きっと一郎を越えるでっかい男になりそうな二郎は、日本という小さな世界からはみ出てしまいそう。


『大きくなったら、その目で見ておいでよ。』
「それもアリだな〜。」
「世界共通語も喋れないくせに何言ってるんだよ。」
「三郎ぉ…てめぇ…」


話に花を咲かせていると毒舌が飛び込んできた。あーさぶちゃんお風呂あがったの?ほかほかさぶちゃんマジ安定の天使。


『髪乾かしてあげようか?』
「自分でやったからいいよ。」


下心丸見えなんですけど。と付け足される。腕を上げたな…それとも私が下心隠すのが下手になってきたのか。


『私も外国語なんて話せないけど、楽しめたよ?』
「こう、心でいけんじゃね?」
『そうそう、パッションがあれば以心伝心!』
「春姐まで…」


なんて、私はツアーとか利用してたし通訳が付いてくれたから安心してまわれたんだけど。呆れる三郎に、問いかける。


『三郎はやりたいことないの?』
「別に、やろうと思えば多分できるから考えてないかな。」
『…神童が言うと説得力ある…』


ぐぬぬ、と言い返せない。でもまだ中学生だし、これからどんどん世界が広がってやりたいことも見つかるかもしれない。


「最近はネットで事足りるし」
『ええ〜知識と実際に見るのとじゃ全然違うよ?』
「そうそう!いっけんはひゃくききにしかるってな!」
「一見は百聞にしかずだよ馬鹿。」
「そんな変わんねぇじゃねぇか。」
「これだから低能は…母国語もろくに使えないのによく海外なんて言えるよ。」
『もー、』


また始まった口喧嘩に私が制止を入れようとするともっと強力な鶴の一声。


「なんだお前ら喧嘩してんのか?」
「してないですよ!」
「三郎…お前猫かぶりやがって…!」
「なんのことだよ」
「喧嘩じゃねぇならいいけど、飯できたぞ。」


はーい、と三人揃って返事をする。4人で食卓を囲み、また他愛ない話が広がる。

この幸せで温かい空間が、私たちの世界の中心であることは間違いない。輝く未来を夢見て、ただ今を噛み締めておかなくちゃ。






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