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□カランコエ(一郎連載@)
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年末が近づき日が落ちるのも早く、雪が降る日も増えてきた。そんなある日の夜に家のインターホンが鳴った。迎えでるとフードを目深にかぶった一郎が立っていた。



─61,にゃんこパニック─



フードの頭の部分が2つ盛り上がっている、と思えばそれがもそもそと動き、ぴょこんっとフードから飛び出した。え、嘘でしょ。

『い、一郎それ…』
「あーくそ、まじでしくった…」
『ねこ耳っ…!!!』

フードから覗く人間のものではなく紛れもない動物の耳はピクピクと動いている。違法マイクによる闇討ちに合い、しばらくしてからムズムズするなと思ったら生えた、と。

「こんな姿、二郎と三郎にみせらんねぇし…わりぃけど泊めさしてくれ」
『いいよいいよ!それで…触っても良い?』
「聞きながら触ってんじゃねぇか」
『こんな擬人化イベ…いや擬ニャン化…?まさか現実で起こるんだ』
「イベントいうな。俺も思った。」
『思ったんだね』

多分長毛の種別なのだろう耳はふわふわとして私を誘惑してきたので仕方がない。指先から逃げようとまた耳がぴくついてる。しばし堪能してからホットコーヒーを出して落ち着いた。冬の部屋にはちいさいけれど炬燵をおいており二人ではまる。

録画しているアニメを見ていると、ぽすんと肩に一郎の頭が乗った。頬にぴたぴたと動く耳が当たってくすぐったい。

『なに、どうしたの?』
「んー…」

こんな風にくっついてくるのは珍しく、思わずドキドキと鼓動が早まる。笑って指摘するも有意な返事は返ってこなかったのでその頭を撫でてやると、どこからともなくゴロゴロと聞こえてきた。え、嘘そんなとこまで猫になっちゃってるの…!?本人は気付いていないのか撫でる手にすり寄ってくる。何この可愛い生命体は。心臓止まるかと思った。

「にゃんか、眠たくにゃって…」
『にゃ…!?』

拳でぐしぐしと目を擦る一郎が猫語(?)を喋っている。待って待って、理解と心臓が追い付かない。ドッドッと慌てて心拍を早まり頑張っている。もっと頑張れ私の心臓、止まるな心臓。とろんとした目が閉じられ、肩にあった頭はぽすりと膝の上に落ちてきた。あの、キュン死するんですが。さっきから殺されにかかっているとしか思えない。

この激ウマな状況を写真に納めたいのは山々なのだがスマホは充電器に繋がれており手が届かない。充電器に繋いだ過去の自分を一生恨む。仕方なく諦めてその頭を撫でながらアニメの続きに目を向ける。この時間を堪能しよう。

─────…

はっと目を覚ます。炬燵の温かさと一郎の体温につられてうたた寝していたみたいだ。アニメの再生はEDが終わった頃でそんなに時間は経っていないことが分かる。ふと視線を膝上の一郎に向けると、膝の上には黒い塊が。

『え!?一郎!?』

驚きの声を上げると、膝の上の毛むくじゃらがびくりと跳ね上がった。真っ黒なやわらかな毛並みを持ったそれはまるっきり猫の姿をしている。まんまると瞳を見開いた黒猫が一声にゃあと鳴いた。某有名マンガの小さな名探偵の誕生よろしく、一郎が着ていた服から覗くその身体の前足の下に手を差し込んで抱き上げると赤と緑のガラス玉のような瞳が私を見つめ返してくる。

『この目の色…やっぱり一郎、だよね?』
「にゃあ〜」

返事をするようにまた鳴いた。まってまってまって、一郎が猫になっちゃった。待ってって何回言ったか分からないが、無情にも状況はどんどん先を行って待ってくれない。可愛いを通り越して戸惑いと焦りが私を襲ってくる。
と、とりあえず吸おう。抱き上げた黒猫の首もとに顔を埋めてすーはーと所謂猫吸いを堪能する。獣の匂いと、ちゃんと一郎の匂いがする。ぺしりと前足で頭を叩かれる。少し覗いた爪の先がさくりと頭皮を刺したが可愛いので許す。許さないわけがない。身を捩って私の手から抜け出した一郎が不満げに鳴いてしっぽをゆらゆら揺らし訴えかけるのでごめんごめんと謝った。

とりあえず今晩は遅いので様子を見て、戻らなければいつもお世話になっている寂雷先生に助けを求めることを決めて寝ることとした。ベッドに入って布団をめくり一郎を呼べばぴょんっとマットレスに上ってくる。布団には入ってこずうろうろする一郎だが寒いから、と促すと渋々潜り込んできた。

『おやすみ』
「にゃあ」

返事と共に丸まる一郎。人とは違う温かさにすぐに夢へと誘われ意識が遠退いた。





ピピピ─ピピピ─
アラームの音で目が覚める。もそりと身動ぎして近くの体温にすり寄ると、違和感に一気に微睡みが吹き飛ぶ。目の前には、人の姿形に戻った一郎。

「…さみぃ…」
『ま、って待って一郎!ステイ!!』
「?」

冬の冷気に身震いする一郎が寝る前は、猫の姿で当然服なんか着てなかったワケで。つまり、一郎は全…

『服着てー!!!』
「うお、まじか!!」


朝から恥ずかしがる一郎と私の悲鳴が木霊する。
一晩だけの夢物語、ということで事態は終息したのだった。




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