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□カランコエ(一郎連載@)
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明けましておめでとうございます。忙しい年末を終え、萬屋ヤマダも一段落。と言いたいところだが、今日はみんなで揃って近くの公民館へ向かう。

「二郎ー!三郎ー!準備できたかー?」
「大丈夫だよ、兄ちゃん!」
「お待たせしました!いつでもいけます!」
『寒いからもっと防寒しないと!』
「春姐、十分だから…」

三郎をマフラーでぐるぐる巻きにしているとやりすぎだと手を振り払われる。もこもこに着ぶくれしたさぶちゃんが可愛い天使すぎるから許す。


─62,白くてもっちり、魅惑のおもち─


4人で歩いて向かった公民館。人が賑わっていて、老若男女がそこに集っていた。行われるのは新年恒例のもちつき大会である。商店街の米屋さんがもち米を炊いてくれ、みんなで餅をついて、和菓子屋さんが炊いたあずきやきな粉で餅を食べるのだ。

「熱いから気を付けろよー!」

米屋のおっちゃんが声を上げる。寒い気温の中、ほかほかと布巾の中にくるまれたもち米が白い湯気をたてている。臼の中に投入され、子ども達が色めき立った。

「ほれ、男ども気張って突かんかー!」

杵を掲げて腕力に自信の有るものはと男性陣が駆り出される。家族連れの父親や商店街のおっちゃん連中、それからうちの三兄弟ももちろん呼ばれて杵を振り上げた。

「おい三郎、間違っても俺の手突くんじゃねぇぞ」
「僕がそんなヘマするわけないだろ?むしろ何か?フラグか?」
「フラグじゃねーよ!ぜってぇすんなよ!!!」

三郎が振り上げて二郎が水で餅を捏ねていく。一郎は子どもに杵を持たせて後ろで一緒に持ち上げてやっている。はぁー可愛い。弟たちのじゃれあいも可愛いが子どもの面倒みる一郎も最高に尊い。年始からええもん見せてもろて…手袋を着けた手を合わせて拝んだ。ちなみに杵の重さでよろけてちょっとだけ心許ない三郎がこれまた可愛いのと二郎がそれを不安げにしながらもやらせてあげるお兄ちゃんしてるのがこれまた最高である。語彙力なくしてる。

「一郎兄ちゃん!次は俺もやりたい!」
「私も私もーっ!」
「おっしゃ、じゃあみんなで10回ずつで交代していくか!一緒に数えてくれよな!」

はぁ〜尊い。男の子にも女の子にも人気爆発してるお兄ちゃん。女の子のお父さんが君のことちょっと恨めしげにみてるよ。そらそうだよね、女の子の目が恋してるもんな〜。そらお父さん気が気じゃないよね…。女の子の気持ちも分かる。カッコいいよね。顔もよければあれくらいの子の時って年上のお兄さんがめっちゃカッコよく見えるのわかるわ〜。………ちょっと待て。小学生中学生は許す。そちらの女子高校生…それは嫉妬するぞ。一郎もその爽やかイケメンフェイスを振り撒くんじゃない。新たな犠牲者が…

「春!お前も一緒にやろうぜ!」

ぎゃあああああ私が新たな犠牲者ですぅぅぅぅぅ。満面の笑顔で突然こっち向かないで心の準備がないと貴方の笑顔は殺傷能力あるのよ。キュン死させるという特殊ギミック持ち!両手で顔を覆ってオーバーキルに耐えていると、また名前を呼ばれたので覚悟を決めて手袋を外して一郎に寄っていくと杵を渡された。

『お、重っ…!!こんな、重かった!?』
「はは、力ねぇなぁ〜」

一郎が手を離した瞬間にずどんと腕を地面に引っ張られる程の重さに驚きの声を漏らす。あまりの衝撃に驚愕の面持ちで一郎を見ると笑われた。ふらふらと持ち上げて臼に向かって振り落とす。というか重さで勝手に落ちた。

『ひぃ〜、持ち上がんない…!』
「そんなにか?よっ、」
『ひっ!』

もち米から餅に変わりかけ、粘稠度が増したお米にくっついて杵がなかなか持ち上がらない。苦戦していると、子どもたちにやっていたように私の後ろから手を回され一緒に持ち上げられる。思わず悲鳴が出たわ。嬉しい悲鳴ですよ、はい。心臓には悪いけれど。

「次待ってるから、5回な。」
『さ、三回でいい、デス…』
「もうちょっと頑張れよ〜」

心臓が持ちません。耳元より少し上。背後から囁かれて立ってるだけでもう限界きてるから許してくれ…。さっきのJKからも視線が痛いよ…ううう…でも好きなので喜んでます。喜びすぎて心臓痛いです…。

ヘロヘロになってその場を離れると三郎も終えていて次は二郎が杵を持って餅を突いていた。私と三郎は出来上がった餅を千切って丸めるチームにそそくさと離脱する。

『さぶちゃん、何で食べる?』
「まずは砂糖醤油かな。春姐は?」
『私はきな粉〜!一郎と二郎の分もとっとこうか。何がいいかな。』
「いち兄も二郎も、砂糖醤油で。」
『わ、三人とも砂糖醤油派なんだ。でも分かる〜甘じょっぱいのいいよね〜。』

ほい、ラスト!と米屋のおっちゃんが臼に米を投げ入れた。もうほとんどが食べる側に行ってしまっているのであとは萬屋で"餅を早くつく"というミッションに変わった模様。一郎が餅を捏ね、二郎が杵を叩きつけている。

「ハイ!」
「ハイ!」
「ハイ!」
「ハイ!」

な、なんなんだ あの息ピッタリな高速餅つきは…怪物か。お互いの掛け声に合わせてどんどん米が擂り潰されてあっと言う間にもちが完成する。すごすぎる…中◯堂もびっくりだよ。流石に暑いみたいで上着を脱いで腕捲りをしていた2人の筋と血管が浮いた腕にスマホを取り出してシャッターを押したのは仕方がない。もちろん高速もちつきもじろさぶのもちつきもムービーに納めている。今日の私、ちゃんと仕事してるわ。

「あっちー」
『汗引いたら寒くなるから、風邪引くよ。前開けててもいいからちゃんと上着着て。』
「はーい。お、俺らの分とっててくれてんの?さんきゅー!」
「ありがとな、三郎、春。」
「はい!いち兄の分はこちらです!」

やっと一郎と二郎も食べる側にやってきた。つきたての餅はよく延びる。一郎と二郎が餅をみょーんと延ばしたのに笑った。それから磯辺餅や桜エビの入ったピンクの餅、ヨモギ餅と色んな味を食べて楽しんだ。


「結構食ったな」
「昼飯いらねぇかも…」
『あ、最後におしるこ食べたい!』
「僕もおしるこ食べたいです!」
「おしるこ…?ぜんざいのことか?」
『ぜんざいよりおしるこが好きだなぁ〜』
「いやいや、ぜんざいだろ。」
『ええ〜!』

一郎と二郎はぜんざい派、三郎と私はおしるこ派に分かれた。まぁ分かれたからといって別に論争バトル勃発するわけじゃないんだけど。カップリング論争となるとそれは譲れないですけどね!!!

和菓子屋のご夫婦が鍋を混ぜるブースでおしることぜんざいを受け取り、花壇の縁に並んで座って餅を食べる。あずきの仄かな甘さとその奥にある微かな塩味。餅を味わいながら、汁を啜る。喉元を通っていく温かさに、幸せが膨らむ。

今年も一郎、二郎、三郎と楽しく仲良く過ごせますように。願いと共におしるこをお腹の中に詰め込んだ。






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