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□カランコエ(一郎連載@)
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「おい二郎!僕のプリントに落書きしたの、お前だろ!」
「ああ!?何もしてねぇーよ」
「すぐバレる嘘つくなよ、こんなブサイクな絵書くのなんて二郎しかいないじゃないか!」

ふとテーブルの上に置かれたプリントを持ち上げた三郎がきっと目尻を上げて声をあらげる。その矛先は二郎であり、彼は思い当たる事がないと目を眇た。



─63,画伯の正体─



「なんだよ、このへったくそな絵…」
「だ、か、ら!お前がかいたんだろ!」
「だ、か、ら!俺じゃねぇって!俺でもまだマシに描けるぜ」
『あ、あの…』

三郎がプリントをずいっと二郎の眼前に押し出すもやっぱり知らないと言い争う。そのプリントに描かれた絵を二人はけちょんけちょんに貶す。その都度私の心のHPはガンガン削られていっていることに誰か気づいて。悲しき獣が生まれる前に。
そっと私が口を挟むと、二人の視線が私に突き刺さってう、と言葉を詰まらせた。

『ごめんね、さぶちゃん。それ、私が描いちゃった…。』
「えっ!?春姐が…?」

「「『………』」」

先ほどぼーっとしている所にペンと紙が置いてあったのでつい手癖でくるくるとお絵描きをしてしまったのだ。ふざけたつもりは無く、ちゃんとそこには可愛いウサギとクマと、人間の男の子を描いたつもり。なのだが。
まさか私が生み出した絵だとは思ってなかった二人は言葉を失い、言い争いの元凶だった私は居たたまれず口をつぐむ。そうすると必然的に流れる沈黙を破ったのは二郎の大きな笑い声だった。

「あははは!!!姐ちゃんまじかよ、っ、はは!めっちゃ絵下手…っ!」
『ひ、ひど、可愛いじゃん!特にこのウサギ』
「え、これウサギだったの?」
『さ、さぶちゃんもヒドい!』

どっからどーみてもウサギでしょ!と熱弁するも何かの妖怪にしか見えないと返される。確かに自分は絵が下手だと自覚はしていたものの、現実を突きつけられてつらい。

「こっちは?」
『…クマ』
「っ、ははは!どーみても、クマにはみえない…!」
『もー!そんなに言うなら2人も描いてみてよ!』

あまりにも笑って馬鹿にしてくるので、むっと言い返せば三郎がコピー用紙を取りに行ってくれた。ガチじゃん。
出来上がった二人の絵をみて絶句。

『さぶちゃん、これパソコンで素材拾ってきたでしょ』
「目の前で描いてたでしょ。線なんて所詮公式で記した点を繋げれば…」
『多分その先聞いても私分かんないな。でもその話によると、さては決まった向きしか描けないな?』
「うっ…、」
『二郎ちゃん…私とどっこいどっこいじゃない?』
「はぁ?どこがだよ!まぁ確かに上手いとは言えねぇけど、姐ちゃんよりかはマシだろ?な、さぶろー」
「まぁ何を描いてるかは分かるね」
『うわぁん、二人がいじめるー!』

いじめてない、と言う二人の顔は笑っている。やっぱり私を馬鹿にして。
昔から絵はさっぱりなのだ。頭に浮かんだものをいざ描こうとするとてんでダメ。世の中の神絵師さんには頭が上がらないのはこのためでもある。
同人誌を描く夢も学生時代にはあったのだが、絵をみたオタク友達が全力で止めにかかったので諦めた歴史もある。代わりに文章を書く方にすすめられたのだがどうしても語彙力を失うタイプのオタクである私にはそれすら困難で今や与えられる公式と創作物の恩恵にあやかるオタクに成ったのです。

「まさか姐ちゃんが画伯だったとはな〜」
「練習、すれば、まだ上達するんじゃない?」
『さぶちゃん、いつまで笑ってるの?』

肩を揺らしながらいう三郎にジト目をくれてやる。ちなみに練習してこれだと付け足すと涙を浮かべるほど笑った。くそ、そんなに笑ってるの多分初めて見たぞ。天使じゃん妖精さんじゃん許すしかないじゃん。その濡れた睫毛を乾かすのはこの私以外許さん。なんてアホなこと考えていると察知したのかうって変わって冷たい視線を向けられてきた。温度差に風邪ひいちゃうよぅ…。

「なぁ、絵しりとりしようぜ!」
「春姐の絵を読み取る自信ないんだけど」
『三郎、私をなめすぎでは?』

たった3つの絵で力量を測るだなんて、まだまだだね。ラケット少年よろしくそう言って二郎の提案に乗った。
じゃんけんで決めた順番は三郎、私、二郎の順番だ。こらじろちゃん、絶望の顔しないで。

「僕からだね。[り]から始めるよ。…はい。」
『よしよし…はい!』
「???」
『絶望の顔しないでじろー。』
「多分これだろ。…ほらよ。」
『当てずっぽうじゃないよね?ね?』
「…はい。」
『ええ…?…ああ、おっけーおっけー、…はい。』
「……姐ちゃん、難易度下げてくれ…」
『難易度なんてないよ!?』
「く、これだと思う。…はい。」
「二郎、繋がりが全く分かんないんだけど…」
「とりあえず繋げとけば大丈夫だ!俺を信じろ!」
『仲間外れよくないよ!』

あーだこーだ言いながら5巡した所で二郎がギブアップしたため一旦終わり答え合わせに入る。

『りんごでしょ?』
「そう、で、春姐が…これなに。」
「多分ゴリラだろ」
『合ってるけど、多分って…』
「二郎がラッパで、僕が…」
『パラソルでしょ!一瞬出てこなかったよ。』
「んで、これ何?勝手にルビーで繋げたけどよ…」
『ルビー!?ルンバだよ!』
「…ルンバってあのお掃除ロボットの?」
『そう。』
「この黒い丸が?」
『………ルンバです。』
「ルビー(イ)、イルカ、カラス、」
『ルンバだって。』

答え合わせはカオスであった。結果は以下の通りです。

りんご→ゴリラ(予想で正解)→ラッパ
→パラソル→ルンバ(ルビー)→イルカ
→カラス→雀(予想で正解)→メダカ
→カモメ→目(これは分かった)→綿棒
→うさぎ→?→ギブアップ

「いやこれなに?マジでわかんねぇよ。」
「[き]と[ぎ]、どっちで描いたの?」
『[ぎ]。』
「「……」」
『餃子!』
「ぎょうざ…か?」
「芋虫にしか…」
『言わせねぇよ!?』

もうほぼ言ってしまいましたがね!食べ物が虫って…うう、ごめんよ餃子…私は君を芋虫にしか出来なかった…。

「ちなみに、最初の落書きのこれは何?人、だよね…?」
『ああ、それは一郎を描いてみた』
「姐ちゃん、それはダメだよ。」
「いちにいをこんな姿にするなんて許さないぞ」

ポロリと溢せば、二人から真顔で責められた。ちゃんとホクロも描いてあるのに。その紙上の一郎で笑ったのは君たちだぞ。

『ご、ごめんなさい…?』

一郎ガチ勢、ラブラザーの強い圧に負けてなぜか私が謝ることとなった。
仕事から帰って来た一郎にその絵を見せようとしたら全力で二人に憚られる。そのやりとりにはてなマークを浮かべた後、お前ら仲良いなとニカリと笑った一郎の笑顔が眩しいのなんの。

どうしてもやるせなかった私は二郎と三郎の教科書にこっそりそれぞれの顔をいくつか描いてやった。

授業でそれに気づいた二人が吹き出して周りからなんだなんだと見られるのは数日後のお話。






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