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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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私はしがないOL。ストレートの黒髪を後れ毛なしに纏め上げ、スーツで出勤している。月曜から金曜日、定時できっちり仕事を終わらせて帰宅するだけの20代後半にさしかかる至って一般の女である。

今日も今日とて仕事が終わり帰路に着く。花金だというのに予定はない。家で冷えたビールが私を待ってくれているのが救いだ。帰り道でコンビニに寄り、ビールのお供ことおつまみを選ぶ。おつまみの内容がクリームチーズとかミックスナッツなどではなくするめや味付き卵なのが私の枯れ度を物語っているのだろう。でも好きなんだ、仕方ない。


ビニール袋片手に待っててねビールちゃん、と足を踏み出した所で携帯が着信を知らせる。画面に表示された名前は昔から仲良くしている友人だった。

『はーい、もしもし〜?』
[おつかれ〜!もう帰って来た?]
『今帰り〜』
[まじ?今香代子と呑んでるんだけどこねぇ?]
『え、向かう。どこ?』
[春、来るってさ〜!場所はいつものとこ!]
『おっけー!』

通話を終え自宅に向かっていた爪先をいつもの居酒屋に進路変更した。学生時代からのツレで社会人になってからもこうしてその場のノリで連絡を取り合っている。貴重な気の合う仲間との時間に思いを馳せて足取りは軽かった。




「いやぁ、マジ春が真面目にスーツ来て仕事してるとかウケる。」
『なによ、てかその話何回目?』
「何回でも言えるぐらい信じられないんだもん。」
「それな!夢ですって言われても受け入れるわ。」
『どんだけよ?それに二人とも真面目に働いてるじゃん。』
「いやぁ、その清楚系の皮かぶってんのあんただけよ?」
『皮かぶってないし!』


今でも明るい髪の友人二人に、私の黒髪が逆に目立つ。ここで友人の紹介でもしておこう。グレーアッシュで青のインナーカラーを入れた派手髪なのはネイリストをやっている電話をかけてきた由羽華(ゆうか)、もう1人明るい茶髪をしているのは先にも出てきた 学生時代に妊娠、結婚をして今では二児の母でパートをしながら主婦もこなしている香代子(かよこ)だ。

20代後半に差し掛かり、どうしても話題に登りがちなのはやっぱり結婚のことだ。友人二人は花のある話があるのにも関わらず私には全くと言って良い程ない。なぜだ。


『香代子は2人目も産んで育てながら働いてるし、由羽華も結婚するじゃん?そっちのが信じらんない。』
「確かに!由羽華と結婚する人とかマジ神。」
「ひっど!まぁいい人だけどさ」
『うっわ惚気られたんだけど。由羽華、家事が壊滅的だもんな〜』
「うっ…」
「彼料理人だっけ?いいじゃんいいじゃん。」
「フツーにキッチン担当なだけだっつの!」


合流して1時間半ほど経ち、テーブルの上には空のグラスが立ち並ぶ。へべれけになりぽやぽやとした頭は口を無意識に動かして騒いでいる。


「ちょ、みてこれ」
『うっわ、黒歴史!!!』
「やば!やっぱ春は金髪っしょ」


香代子が携帯のアルバム画面を見せてくる。そこに写っているのは特攻服を着た柄の悪いヤンキーだ。地べたに座り込みカメラを睨み付けて中指を立てている私たち。そう、私たちは荒んだ学生時代を送ってきた元ヤンなのである。今みるといきり加減が恥ずかしいったらありゃしない。


『若気の至りって怖い…』
「ほんとそれな。ぜーったい流出すんなよ〜?」
「分かってるって〜。懐かしいなって絶対見せようと思ってさ。」


ケンカとバイク、バカやって笑って、恥ずかしいもののその過去はこうして親友とも呼べる存在をもたらして私たちの一部となっている。


『私はこんなんだから彼氏できないんだよ〜!』
「いやいや、今は真逆って感じだから想像もつかない!」


酒が入っているせいか、わーわーと騒ぎ立てる。強くて頼りがいのある男性がタイプなのだがいかんせん自分の気が強く、最初の外見のイメージとは違うと結局捨てられるのだ。世の中か弱くて可愛い女子が求められてるのさ…。だからといってそれを演じることもできないのだから仕方がない。励ますように二人が私の肩を叩く。嘆いてたって仕方がない、今日は呑むぞ!とまたグラスを合わせる。

がやがやと騒がしい店内にはBGMとしてラジオで音楽が流されていたのだが、ふと曲の合間のCMが耳に入ってきた。


〜困った時は我々にお任せ!
ブクロの街を俺らが支えます!
安くて早くてたくましい!
ハイクオリティ!萬屋ヤマダ〜♪〜


『萬屋ヤマダ?』
「え、何知らないの?」
『いやぁ、名前は聞いたことあるけど。』
「つまり何でも屋さん?」
「まぁそうなるのかな?」
『あ〜、困ったときは我々にお任せ?はぁ、男紹介してくんないかな』
「ばっか、そんなの受けてくれるわけないじゃん」


分かってるよ!言ってみただけじゃん。ぶーと口を尖らせてスマホで検索をかけるとホームページがでてきた。仕事内容の例や、料金表、依頼フォームが並んでおりちゃんとしてるんだと感心する。

『へぇ、イケメン君じゃん』
「そうそう、三兄弟でやってるんだって」
「まって、全員未成年じゃん!」
『まじ?わっか!てかその歳で起業…すごすぎる。』
「それな。」
『爪の垢煎じて飲ませてほしいレベルだわ』


ホームページ以外では顔写真も出てきた。三人の顔の整った男の子たち。あまりの若さに眩しささえ感じる。


「ああ、依頼内容例に男の紹介はないね〜」
『当たり前じゃん。』
「残念だったね…」
『ちょっと、慰めないでよ。』


冗談に決まってるでしょ!とまた笑う。ふと時計をみた香代子が、そろそろ帰ると言い出した。飲み会を開始して2時間ちょっとだ。


『子どもたち、旦那さんがみてくれてるんだっけ?』
「そうそう、たまには息抜きしておいでって。」
「ほんとできた旦那だね〜」
「うん、すっごい楽しかった!ありがと〜!」
『今度は子どもも一緒に遊びに行こうよ。』
「いいじゃん、楽しみ!」




こうして久々の会合はお開きとなった。




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