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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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飲み会の翌朝。見事に二日酔いで死んでいた。予定もなくうだうだとベッド上で過ごしていたが少し落ち着き始めると体が重いこと。やっとスマホの画面を見ることが出来たのは昼前だ。うん、食欲はない。

こんな時は癒しを求めるに限る。そう未だにベッドの中でゴロゴロしながら携帯のアルバムを開く。1つのフォルダを開けば並び出る写真に頬が緩むのが分かった。

画面に映るのは愛犬の柴犬である。くりっとした黒目とぴょこんと立つ耳はふわふわ。笑っているかのようにも見えるその口から覗く舌が可愛さの全知である。

『ああ〜、可愛い〜。……駄目だ、本物に会いたい。もふりたい。』

静止画ではもの足りず動画を再生するも欲求は増すばかりで、がばりと身体を起こした。身なりを少し整え、出かける準備をして実家に向かうことにした。こういうのは勢いが大事なのよ。


愛犬エリーが待つ実家に帰る。と言っても同県在住なため電車に乗ればすぐなのだが。久々に散歩につれていこう。そうわくわくしながらたどり着いた玄関先。

『ただいま〜!』

鍵を開けて声を上げるが、返事は返ってこなかった。靴を脱いで上がるも人の気配はなく誰もいないみたい。…なぁんだ。まぁ目的は愛しのエリーだし、いいけどさ。

ドアを開ければ、尻尾を振って飛び付いてくる愛犬。全身全霊で喜びを表現する彼女に愛しさが爆発する。しゃがんで耳の後ろをわしゃわしゃと撫でてやると一層尻尾が揺れる。一通り久々の再会を喜んでじゃれ合い、もふもふを充電する。


『わーしゃしゃしゃ!今日も可愛いねぇ。』


週末の電車は人が多く、少し疲れてしまったので休憩してから散歩に行こう。ぴょんっとソファーに座った私の隣に並んで座る。ハッハッと舌が覗き歯が見える。また撫でてしまうのはエリーの魅惑のもふり加減のせいだ。






ガチャリと音と共にエリーの鳴き声で意識が浮上する。実家に帰って来たということでラフな格好でだらけながら昼のワイドショーを見ていたはずが寝てしまっていたことに気づく。外はまだ明るくてそんなに時間は経っていないみたいだ。お母さんが帰って来たかな?上体を起こして伸びをする。酒が抜けきっていなかったせいか、エリーの体温の温かさに眠気が誘われてしまったみたいだ。

玄関からリビングの扉を開いて現れたのは母親ではなく見知らぬ男性だった。


『え!?』
「!!?」


いや、こないだ携帯の画面でみた人だ!
驚いて声を上げる私に、彼も目を見開いて固まっている。な、なんでここに…てか、鍵かけたよね!?鍵開けた音したよね!?パニックに陥っている私の頭の中で疑問が嵐のように吹き荒ぶ中、真っ赤な顔の彼が沈黙を破った。

「す、すんません!!あと、服、きてもらっていいっすか!」

そう言い放ってすぐにその扉を閉じた。…服?1人と一匹になった部屋で自身の格好に目をやる。状況を理解して私の顔に熱が集まる。


『…っごめんなさーい!!!』



実家でのラフな格好とは、キャミソールとパンツという怠惰な格好だった。恥ずかしさとお目汚しをしてしまったという申し訳なさで何がなんだか!


とりあえず服を着て廊下に待ちぼうけの彼を招き入れてお茶を出す。気まずい雰囲気の中、それを打破しようとお茶に一口付けた彼が口を開く。


「あの、犬の散歩の依頼を受けてたんすけど…」
『なるほど。』


萬屋さんは犬の散歩までしてくれるのか。イケメン青年こと山田一郎くん。自己紹介をして事のあらましを話してくれる。何度かうちの母が長時間出かける時に散歩を依頼していたみたいだ。鍵は玄関先のポストに入れており、そのダイヤル番号を伝えており鍵の謎は解けた。エリーも山田くんを気に入っているのかすり寄っている。


『散歩、いきますか?』


そんなこんなで彼は彼の依頼を遂行するため、エリーにリードを付けて外に足を踏み出した。




川縁の道をはしゃいで歩くエリーとそのリードをもつ山田一郎くん。私や母と違って体力がある彼との散歩は走ったり出きる様子でエリーがイキイキしているように感じる。私を置いて走ってはゆっくり歩いたり足を止めて振り返り追い付くのを待つの繰り返し。

しゃがんでエリーをもみくちゃに撫で付ける山田一郎くん。愛犬と、じゃれる美少年。それはそれは眼福である。犬の散歩も慣れているのか、用を足した後のビニール袋での回収やペットボトルに入れた水で流したりとマナーのなった行為に感心してしまった。


『ありがとうね。』
「いえ、またなんかあったらいつでもご依頼お待ちしてます!」


か、輝いてる…。自宅にたどり着きお礼を言えば眩しい笑顔を向けられる。私がその眩しさに目が眩んでいるのに気付いていながらもスルーしているのかまじで気付いていないのか、彼はしゃがんで愛犬にまたな、と声をかけて撫でる。私の視線より下にある彼の頭につい手を伸ばし撫でた。きょとりとしたあと、頬を染めて私を見上げる彼に慌てて手を引っ込めて謝る。

『ごめん!つい…』

ついってなんだ!今日が初対面のイケメンに手を出す(?)なんて逮捕ものだぞ!私はぺこりと頭を下げる。


『…またお願いします。』
「…うす。」

ふい、と視線をエリーに戻した彼の耳はまだ赤い。かわいいなぁ、青年。とまたにやけてしまう私は懲りないやつだ。

「奥さんによろしく伝えておいてください。」
『エリーも喜んでたよ、伝えておくね。』
「はい、またご贔屓に!」


そう切り替えて颯爽と帰っていく背中を見つめてエリーと家に入る。彼女の足の裏を拭きながら、まだあんな良い子が居るんだなぁとしみじみして自分のおばさん感に絶望した。





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