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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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午前中の依頼の処理が終わり、次の依頼まで時間が空いているため一回家に帰って簡単な家事を済ませようと向かっていた。

『ちょっと、やめてください…!』
「いいじゃん少しだけだからさ」

耳に入った声にただならぬ様子がうかがい知れ、そちらに目を向けると細い路地に女性が連れ込まれるのが視界の端に見える。

このイケブクロで好き勝手にクソみてぇなやつらが幅を利かせないため治安維持、と言っちゃなんだが目に入る入る悪事には介入するようにしている。

ちらりと見えた女性が見知った人物でもあり、俺は慌てて後を追う。きっとそれが見知らぬ人であっても放っておけない性分でもあるが。




ああ、もうしつこい!今日は仕事が休みで枯れた私は安定のお一人様ホリデーを楽しもうとお洒落して出掛けたのだが運悪くナンパ男に捕まってしまった。なんでだよ…!もっと若くて可愛い子いるだろが!

事を荒立てないように物腰柔らかく断るも頭の悪い男は余計に付け上がって私の腕を掴んで暗がりに連れ込んでいく。お昼間なのになんでこんな暗いんだ、と心の中でゴチるが私にとっては好都合。何故かって?

人目につかず正当防衛ができるから!

ぐっと足に力を入れて引っ張られた腕を引く。肩幅程度開かれた足と男の引っ張っていく力を支点にそのまま捕まれていない方の腕に勢いを乗せて男の顎に拳を叩きつけた。


『いい加減にしつこいんだよ、ああ"!?か弱い女狙って卑怯な事してんじゃねぇよクソ野郎が!』
「ぐっ…!てめぇ…!」


地面に蹲った男が立ち上がって反撃しようとしてきたため、その腕をいなしヒールで思いっきり腹部を蹴りあげる。息を詰まらせた男は再び地面に膝をついた。

『てめぇまだ分かんねぇのか?さっさとどっかいけや』

拳と掌をパンっと威嚇するように合わせれば、男はそそくさと逃げていった。みっともない真似してんじゃねぇよ、だっせぇな。と吐き出して明るい道へ戻ろうと振り返った。その先に居たのはぽかんと口を開けて立っている山田一郎くん。

誰か嘘だと言ってくれ。


「春さん…めっちゃ強いんすね…」
『お恥ずかしいところをお見せしました…』


やっぱりバッチリしっかり見られてた。韻踏めたよやったー!じゃない、現実逃避しないで私。あああ、ドン引きされたに違いない!ついつい好条件であったため昔の私が顔を覗かせてしまった。それを偶然見られるとかどんな確率ですか、教えて下さいお偉い先生。私なんか悪いことした?


「いや、めっちゃかっけーっす。でも危ないんで、気を付けてくださいね?」
『え…』


きゅん。引かれると思いきや、まさかのキラキラした目で褒められた上に男らしく心配の言葉を口にした青年に思わずときめいてしまった。


『…口止め料として、お茶でもいかが?』
「いいんすか?」


にかりと笑う彼に私の財布は緩むばかりだ。口止めしなければいけない人物ら(主に会社関連)と一郎くんと接点はなくただの口実であり、先ほどの男のことを言えない。私も彼をナンパしてしまった。まぁ私は成功したんだけどね!どやぁ!!!





とりあえず近くのカフェに入り、メニューを覗き込む。

『お昼近いし、お腹空いてたら食べていいよ。』
「いや、弟たちの飯作らないといけないんで。」


わぉハイスペック男子。私だけ軽食を頼むのもどうかと提案するも彼はコーラだけを頼む。私はカフェラテと軽食のサンドイッチを頼んだ。
先にドリンクが届いて一息つき、何気ない会話が始まる。


『料理できるんだ。』
「メシ作れるっつーほどのもんじゃ…。」
『いやいや十分だよ。えらいねぇ〜。』
「…ガキ扱いしてます?」
『え?いやそんなつもりはない。本当にすごいなって思っただけで。』


私の言葉尻がゆるっゆるだからか一郎くんは子どもを褒めるような口調に感じたみたい。慌てて否定すると、ならいっすけど。といじけたようにコーラのストローを吸う彼にノックアウトされた。か、かわいい…。おっと危ない道を歩むところだった。彼の可愛さは置いておき、会話を続ける。


「春さん、なんか格闘技でもやってたんすか」
『う"…その話掘り返すの?』
「いやぁあの身のこなしは素人じゃねぇなと思って。」
『ド素人です。かよわいしがないOLでござーます、はい。』
「無茶な言い分っすね?」
『あはは!』
「誤魔化した…」

それから他愛ない話を広げていく。愛犬エリーの話や彼の兄弟の話などしているとあっという間に時間が過ぎ去った。時計をみた一郎くんは慌ててそろそろお暇します!と立ち上がった。


「あの、ほんとにいいんすか?」
『なーに遠慮してんの。もちろんだよ。その代わり、あの事は秘密だからね?』


遠慮がちに私の顔色を伺う彼はきっと奢られることにあまり慣れていないのかもしれない。しかも女相手だもんね。交換条件をちらつかせると、彼も眉を下げて納得した様子。


「じゃあ、ごちそうさまでした。」


しっかりお礼を言える彼に好感を抱く。よし、お姉さんがまた奢ってあげようじゃないか。そう心の中で決定した。




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