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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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困った。何が困ったって。職場で今度合コンの人数合わせに呼ばれてしまったのだ。

そこで、来ていく服がどの様なものが良いのかさっぱり分からず仲の良いツレに相談した。そんな縁のないもんわかるわけねぇだろと一蹴され、相談する相手ミスったと漏らせば殴るぞと返ってきたのはテンプレート。

そうして振り出しに戻る。うんうんと頭を悩ませているのも腹立ってきたぞ。


『行きたくない〜…。』


とは言っても外面良くしているので断りきれない。最悪当日は風邪を引くことにしよう、そうしよう。そう逃げ道を作りながらも、うじうじしてても仕方ないため買い物に出ることにした。


近くにあるショッピングモールにたどり着く。服飾フロアは何階かと館内案内を眺めていると、後ろから声がかかる。


「春さん?」
『あら、一郎くん。』


爽やかなお顔立ちをしたよろず屋経営者の青年だった。久しぶりにみたその顔はやっぱり!と笑顔を浮かべて近づいてくる。ううーん眼福。


『お買い物?それとも依頼?』
「依頼っす。」


ちらり後ろに目線をやる彼。その視線の先にはいつか携帯画面でみたことがある一郎くんの弟が両手一杯に荷物を下げている。もちろん一郎くんも。


『そっか。お疲れ様。』
「あざっす。今から買い物っすか?」


弟たちは私とは面識がなく、遠巻きになんだ誰だと視線を投げ掛けてくる。依頼…そうだ、良い案が浮かんだ。ぽわんと吹き出しとアクションマークが私の頭上に浮かんだだろう。



『ねぇ、依頼って今日一杯入ってるの?』
「いや、今日はこれで一旦終わりっすけど…」
『飛び入り依頼、受けてくれませんか?』


もちろん報酬は弾むよ。と付け加えればお得意のご来光を背負う一郎くんの笑顔が見える。


「はは、喜んで!」


そう言って弟二人に荷物を預け先に帰るよう声をかけに行った。…去っていく二人に睨まれた気がしたんだけど。飛び入りの依頼はやっぱりマズかったかな…?


「お待たせしました!」
『ううん、急にごめんね。大丈夫だった?』
「?もちろん大丈夫だから受けたんすよ?」
『ならいいんだけど…。』
「で、依頼内容聞いても?」


荷物持ちっすか?と自然に腕枕する一郎くんに目眩さえ覚える。その前腕二頭筋が輝いてる。浮かんだ血管が男らしさを強調している。おおっと違う違う。本題に移ろう。

服を選んでほしくて、と伝えるとにこやかだった一郎くんの表情が一変し強張った。


「俺 女の服なんてわかんないっすよ!?」
『あ、はは!一郎くんでもそんな顔するんだ。』


困ったように眉をハの字に下げる一郎に思わず吹き出して笑ってしまう。するとむすりと口を一文字に引き結ぶ彼に慌ててフォローを入れる。


『選んでって言っても、私が選んだ服が似合うか似合わないかジャッジするだけでいいの!…笑ってごめんって。』
「…それぐらいなら俺にもできそうっす。」


顔前で手を合わせて謝れば口を尖らせたままぼそりとそう返してきた。無事に依頼を受け入れてくれたみたいだ。

マネキンに着せられた服を見ながらショッピングモールの通路を歩いていく。

『これどうかな?』
「いいんじゃないっすか?」
『…テキトーに言ってない?』
「仕事なんで真面目ですよ。」
『流石社長!』
「…からかってます?」
『いやいや、真面目ですよ。』
「真似してますよね?からかってんじゃねーか…」
『あはは〜!ねぇ、じゃあ色はこっちとこっちなら…』
「……こっち。」
『じゃあこれに決めちゃお。』
「いいんすか?」
『一郎くんが選んでくれたんだから間違いない!』


気に入った雰囲気の服屋に入って吟味し、会話も続けながら服を選んでいく。何気に冗談言い合える仲になっているのをお気づきだろうか。出会いの衝撃はお気づきにならないでください。思い出さないでくださいお願いします。


「どっか出掛けるんすか?」
『合コンに呼ばれてね。』
「…へぇ…。そんなん行くんすね、意外。」

若干言葉にトゲを感じるのは気のせいかな?

『なに、男に会いに行く服選ばされて怒ってる?』
「なっ!?そんなんじゃないっす!!」

ちょっと冗談でそういえば、真っ赤な顔で否定される。冗談に対して必死に違うと慌ててかわいいなぁ。

『あはは、冗談冗談。ただの人数合わせだし、たらふく食べて呑んで帰るだけになると思うしね。…いい買い物ができたよ。ありがとう。』


報酬は…2時間だから…この値段で合ってる?そう万屋のホームページを確認しながら伺うと、いらないと突っぱねられる。


「服選ぶぐらい いいっすよ。」
『あ、社長がそんなんじゃダメだよ〜!商売とは割りきらないと。』
「…じゃあ、お得意様割引で。」
『えええ〜お得意様は私じゃなくて私のお母さんなのに…あ、あと弾むって言っちゃったから、よかったら弟くんたちの晩ごはんも買ってあげよう。何が良い?』
「いやいや!そこまでしてもらったら困るっす!」
『こっちも助けてもらったから。ね?』
「マジでいいですって」
『…ごめん、前もそうだったし押し付けがましかったよね。』

しょんぼりとわざとらしく項垂れると、また狼狽える一郎くん。これは悪い女にひっかかりそうだぞ、危ない危険だよ一郎くん。

『じゃあ、お得意様のサービスでおまけってことにしよう!八百屋さんとかがトマトおまけにやるよ!みたいな!』
「いや、それ結局最初と変わんな…っす。あざっす。」

私の押しに負けた彼と一緒にお総菜を選び、ついでに私の晩ごはんも買って別れた。


春さんっていい性格してますねと言いながらも最後まで申し訳なさそうにしてたから、もうちょっと頑張ってる三兄弟を応援したい人たちの"お言葉に甘える"ということを覚えた方がいい。


うん、いい買い物ができたなぁ。
合コン参加は相変わらず憂鬱だが、手に下げた紙袋に入った服を着るのが楽しみになった。




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