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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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仕事終わり、鞄を肩に掛けて歩いていると悲鳴と共にけたたましいブレーキ音が真後ろから響いた。え、と思って振り返るとヘッドライトの眩しさにぎゅっと目をつぶった。


「すみません!だ、大丈夫ですか!!?」


直前で停まった車体はぶつかりはしなかったものの、私は驚いて転んでしまい地面と仲良しこよし。鞄の中身もそこらに散らばってしまっている。ああ、ファンデとかシャドウやら粉々だろうな…。化粧品の無惨な姿を想像していると、車から慌てて降りてきた男性が私に駆け寄ってくる。

『ええ、転んでしまっただけで…い"っ…!』
「怪我してますか…?きゅ、救急車…!」
『救急車は大丈夫…だと思います…』


何ともないだろうと思って立ち上がろうと手をついた時、左手首に激痛が走って腕を抱えてうずくまってしまう。そんな様子に慌て男性がスマホを取り出すもそれを制止する。腕以外は大丈夫そうだ。周りが呼んだのか、パトカーのサイレン音が近づいてきてまだ暫く家には帰れそうにないなと思った。





街を歩いていると、見知った彼を見つけた。彼も私を視界に入れたようで、その綺麗なオッドアイが見開いた。


「春さん、どうしたんすか!?」
『あはは。ちょっとドジっちゃって…』

そう、彼も驚くはずだ。私の左腕は手首を固定するギブスが巻かれて一見物々しい。数日前に事故でと簡単に経緯を説明すると、きゅっと痛々しそうな眼差しを浮かべた。


「…相手から医療費もらってるんすか?」
『ええ、第一声それ?』

心配が身体じゃなくて医療費が先って…。まさかの切り口にくすりと笑ってしまった。

「身体は大丈夫じゃないって見たら分かったんで。」
『心配しなくても、医療費は流石に折半してもらってるよ。』
「は?全額じゃなくて?」
『こっちの不注意もあるしねぇ』


実は鞄と反対の手にはスマホを持っておりその画面を見ていた私にも非はある。警察にも聞き取りをうけ、ぶつかってもいないということで個人同士で話を付ける事になった。

そんな私の対応にいやいや…と呆れた顔をされる。19歳に呆れられる成人女性ってどうよ?


『まぁ向こうもしっかり謝ってくれてるし、私も納得してるからそれでいいのよ。』
「そっすか…」

若干納得してない顔をされたが、それ以上は何も言ってこなかった。そんなに頻回に会ってもない私をこれだけ心配してくれるなんてなんていい子なんだ…。


『心配してくれてありがとう。』
「当たり前っすよ。てか、その手じゃ結構困ることあるんじゃないっすか?」
『まぁ、そうね…。』

でも治るまでの辛抱だから。と言えば何かあったらすぐ言ってくださいね、駆けつけますから!と今度はいつもの爽やかフェイスで明るく言ってくれる。はぁ、なにこの子尊い。なむなむとギブスと反対の手だけで拝んでると、何してんすか?と笑われた。商売上手なんだから。なんでも依頼してお金落としちゃうよ、オネーサンは。



優しいねぇ、と漏らせばフツーっすよ。と返してくる彼がおもむろにきゅっと、私のギブスと反対の手首を捕んだ。


「こんな細っこいから、すぐ折れるんすね…。」
『い、ちろーくん?』

その手のひらの大きさと熱さに声がつまる。


「もっと、頼ってください。」


ぱっと手を離され、次の依頼行ってきます!絶対に何かあったら言ってくださいね!と手を上げて颯爽と去っていった。私は呆然としながら手を振り返すのだが、その手首に残った熱がじわりと私の胸を蝕んだ。なんだか、色々ずるいぞ一郎くん。




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