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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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土曜日で人が多くざわつく昼下がりのファミレス。おやつ時のその時間に一郎くんと私は座っており、机の上にはデザートが並んでいる。


「春さん、こんな食うんすか?」
『え?一郎くんのも含まれてるよ。』
「…当たり前かのように言うの止めてください…」


きょとりと返せばまた呆れたように漏らす一郎くん。君もそろそろ諦めなさい。甘いもの嫌いだった?と伺えば嫌いじゃないっすよ、と大きなパフェのスプーンを取った。好きなものを選べるようにと5個並べておいたのだが、選んでくれて良かった。


「3つは春さんのっすよ。」
『私は2つでお腹いっぱいになっちゃう』
「じゃあなんでこんな頼んだんすか」
『一郎くんなら食べれるかなって。』
「食えっけどさ…」


どれがいい?と選ばすと春さんは?とまだ私を優先するもんだから私はどれも食べたいから何でも。と返した。食べたいもの食べなよ少年。


「んで、本題なんすけど」
『そうだったそうだった。』
「本来の目的忘れないでください…」
『忘れてはないよ〜』


一郎くんを困らせてばかりだけど食べさせたい欲が勝ってしまったんだから仕方ない。笑って誤魔化して、それで?と促すと彼がこくりと頷いて封筒から書面を取り出した。


『う、わぁ…しっかりしてる…』
「はは、仕事なんで。」


資料のように捜査報告とまとめられたそれに感嘆の言葉を漏らす。ちゃんとした報告書にぴしりと佇まいを正すと彼が笑った。うーん可愛い。


「常良 昌孝(つねよし まさたか)、30歳 会社員。目星がついた後に男の尾行してみました。会社に行く日もあれば、休んで春さんに付いて回ったり家の周辺を彷徨いてたっす。もちろん郵便受けに手紙入れてたところも贈り物置いてたとこもバッチリっすよ。3回目の見張りン時は仕事帰りに近いあそこのコンビニから家まで付いていって外から春さんの部屋の電気つくのを確認してました。」
『うへぇ…』


やっぱりあの時のは犯人が近くにいたんだと一郎くんの話を聞いて確定した。そして一郎くんが写真を数枚取り出す。そこに写っていたのは一見普通の男性サラリーマン。ストーカーしてるようには見えないんだからやっぱり人は見かけによらないなぁ。自分も含め、ね。


「見覚えは?」
『ううーーーーーーん… あるよーな、ないよーな。』


顔写真を受け取り、改めてまじまじと脳ミソをフル回転させる。脳裏に様々な出来事を思い浮かべて登場人物と照合していると、ぴこんっと1人一致した。


『あ。』
「あったんすね。」


そうだそうだ、コイツはアイツだ。多分。あんまり人の顔見てないからうろ覚えだけど。


『多分なんだけど、前に人数合わせで参加した合コンにいた人だ。…でも私は食べて飲んでばっかであんまり喋らなかったんだけどなぁ。』
「ああ、あん時の。」


一郎くんが選んでくれた服を着ていった合コン。一郎くんもあの出来事を思い出したみたいだ。男の子に選んでもらった服を合コンに着ていくってかなりやる気ないよね、あはは。なんて言ってる場合じゃない。

でも、職場関係での参加だったから私はおしとやかな女性の猫を被ってたので彼が外面しか知らずに言い寄ってきているのに納得できる。

本当はビールとハイボール、日本酒ときめたかった所だがその日はサングリアやピーチオレンジなどワインとカクテル系のみに抑えた。そして時折会話に相づちを打って小さく口元を押さえて笑う。そして食べる。それの繰り返しでお開きまで粘って二次会には行かず、さっさと帰ってビールのプルタブを開けたあの日の夜はこんなことになるなんて思ってなかったよ。


『まぁ、なんか次の休みに会いに来そうじゃない?』
「次の休みって…」
『今日か明日かなぁ?』
「春さん、危機感もってくださいよ」
『持ってるって〜』


ここ最近の手紙の内容も二人でチェックしていると、そんな気がしてきた。そのまま言葉に出すと、一郎くんが私を叱る。あははと手を振って否定すれば本当かよと疑いの目を向けられた。なんだよ信用ないなぁ?


「今日と明日と、見回り強化するっす」
『大袈裟な…』
「いや、割りとしびれ切らしてる感じがするっつーか。」


真剣に、顎に手をあてて手紙を見つめる一郎くんに、じゃあお願いしますと頭を下げた。私よりしっかりしてるかもしれない…。


「今日はそのまま帰る予定っすか?」
『そうだね、特に予定もないし。』



そう返して別れたはいいものの、その後友人の由羽華から連絡がきて夜に飲みに出ていくもんだからまた一郎くんに怒られそうだ。一応、見回りをしてくれている一郎くんには連絡をいれておく。ごめんよ、お酒の誘惑に弱い大人で…。






久々に会う由羽華と積もる話もあり、酒も進んでいく。最初に落ち合った時にサポーター付けてる私を笑ったことは許さん。


『まーじで、ドラマとか漫画でしかないと思ってたわ〜』
「そのストーカーも、よりによって春に目をつけるかねぇ?御愁傷様だわ。」
『はぁー?可哀想なのはわ!た!し!なんでストーカー哀れんでんのさ。』
「声でかっ!」


もちろんストーカーの話題は出てくる訳で。こんな面白いネタ話さない選択肢はないでしょ?酒もはいり、自然と声も大きくなる私を由羽華が笑う。


「いやいや、フツーならこわーい!つって自分ちでガクブル震えてっからな?哀れむのもバカらしいわ。」
『まー、確かにそこまでダメージ受けてはないかも。キモいけど。』
「まじでキモいよな。…でも本当に気をつけなよ?流石に相手は男なんだし。」
『…ありがと。』


ぎゃはぎゃはと昔のノリで冗談を言い合うも、結局は心配してくれる親友に素直にお礼を伝えた。やっぱりサイコーの連れだわ。


「ねぇ、しかもいつの間にイケブクロのリーダーと知り合ってんの?」
『それが、カクカクシカジカ…』
「いやわかんねぇよ。誤魔化すな。」
『あはは、実は私のお母さんが萬屋ヤマダの常連客だったみたいでさ』
「まじ?つーかそれなのにヤマダ知らなかったのウケる。」
『それな。てか由羽華は結婚式の準備忙しいんじゃないの?』
「それ。まじそれなんよ。決めることありすぎて発狂しそうだわ。」
『楽しみにしてるからさ。』
「うんうん!人生最高の式にするために頑張るしかない!」



しばらく会ってなかった間にあった出来事を話しているとあっという間に夜も深まり、お開きにしようと二人で席を立つ。週末ってこれが楽しいのよね。もっと若い時はオールとかしょっちゅうだったけど、流石にそれは無理…。自分の老けを感じる午前0時の1時間前。

さあ、シンデレラガールなので12時までには帰らなきゃ。なーんてね。


電車から降りて、家までの距離を徒歩で帰る。冷えた空気が頬を撫で、酒気帯びた体温を宥めていく。吐く息も白い衣装を身に纏って夜空に消えた。


『もーいーくつねーるとークーリースーマースー』


ぽそぽそと口ずさむ。ああ、これは酔ってんなー。なんて自分の事なのに客観的に考えてしまう。クリスマスも、まだ1ヶ月も先の事だし。ざりざりと、わざと足音をたてながら遊んでいると、突然声をかけられた。






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