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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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なんだか最近一郎くんが更に可愛くてかわいくて仕方がない。やばくない?やばい方向に行ってる気がする。

私は仕事を終えて花金を安定の一人で缶ビールを開けてテレビを流し見しながら頭を抱えた。

19歳で事業を立ち上げて成功して、一家の大黒柱としてしっかりしている彼が弱っている姿を見せてくれているのだ。それも意外と年相応に悩んで、数多くの大人の中で私を頼ってくれるんだからそりゃあ可愛く感じてしまうのももはやこの世の理ではないでしょうか。

ぐびっとビールの喉越しを感じてはぁ、と息をついておつまみのスルメをがじがじと奥歯でしがむと旨味が口の中に広がる。

最初こそ大人びた男の子だと感じることも多く甘やかしたくて、(というかほぼ無意識だったのだが)ご飯を食べさせて上げたくてあの手この手でご馳走したり頭を撫でたりして余計なお世話を焼いてしまっていた。爽やかな好青年であったり、時に悪ガキそうに笑ったり、ワンコの様に目を輝かせたりする彼がある日、頼りなげに笑うので水族館に連れ出した。

勝手な想像ではあるが、あのしっかりして正義感が強く、自分で生活を成り立たせている彼は大人への頼り方が分からないのではないだろうか、そして周りの大人たちはいい人ばかりではなかったからこそそうなってしまったのではないか。ただの憶測なので決めつけるのは良くないと思う。それでも、あのどっしりとして支えなんかいらなさそうな身体がちょっとでもよりかかってもらえるなら、なんて思ってしまう。

空になりかけた缶をまた呷って飲み干す。アルコールが身体を巡り思考をふわふわと浮遊させる。浮かぶのは、かわいい男の子の笑顔。ああ、これは大分重症なのでは。

はぁ、と息を吐き出し、一人で抱え込むにはどうしようもなくて私は友人に連絡を入れた。






「久しぶり!」
『久しぶり〜!』
「春から召集かけるとかいつぶり?学生ぶり?」
『ちょっと召集とか言わないでよ、お誘いだよ。ディナーのお、さ、そ、い。』
「居酒屋でディナーかよ!」


昔の連れである二人に飲みに行こう!と連絡を入れれば忙しいはずの友人二人はすぐに集まった。土曜日の夜の居酒屋は賑わっている。とりあえず生ビールを3つ頼み、お通しに箸をつけた。

「で、どうしたん?」
『いや、犯罪の道に進みそうな私に救いの手を差しのべて欲しくて。』
「今更?」
『おい』


冗談を交えながら、簡単に話の概要を話す。最近懐いてくれている年下の男の子に心惹かれていることをだ。正直気の知れた友人たちに色恋沙汰を話すのはこっ恥ずかしい気持ちもあるが、これまで彼女たちの話も聞いてきたんだから私のも聞いてもらわなきゃ損だと開き直る。

「え、もしかしてお相手って山田一郎…?」
『ハイ…』
「またそんな有名ドコロを…」
『だって可愛いんだもんんん』
「やべ、こんな春見るの初めてなんだけど」
「だよね。春…それはズバリ恋だよ、恋。」
『そんな皆まで…』

悶える私にポカンとしながらもちゃんと話を聞いて現実を伝えてくる。ああ、この胸のときめきはやっぱりそうですか。うなだれる私の肩を叩いて励ましてくる。

「いやぁ春がこんなに恋する乙女になるとは…」
『相手未成年だよ…?こんなオバサン相手にされるわけない…。そうか、彼を見守る立派な大人に私はなる!』
「あのね、恋に年の差なんて関係ない!」
「そうそう。ここで諦めるなんて春らしくねぇよ!」
『あのねぇ…私も年をとるのさ…』


昔のノリで何でも特攻できるとは限らないんだから。そう溢す弱気な私に二人は喝を更に入れる。

「実際にオバサンなんて言われたんじゃないんだから望み捨てんなって!」
『一郎くんはそんなこと言わねーから…』
「ぞっこんかよ。まぁあんまり現実見すぎるんじゃなくて、今の片思い楽しんでも良いんじゃない?」
『うん…ありがとう。』


背中を押してくれる二人にお礼を言って、さあ飲むぞ〜!とグラスを傾けた。最初に頼んだ注文の品が届き始め、テーブルの上に料理が並んでいく。由羽華の結婚式の準備やそれについての旦那との喧嘩、香代子の子ども達の最近の成長や写真について話しているとグラスの中もどんどん胃の中に消えていき次の注文をするために店員を呼んだ。


「お待たせしました」
『ん、あれ、幻聴?』
「春さんじゃないっすか」


そこには話題の中心だった彼がその居酒屋の制服を着てオーダーの紙を持って立っていた。後ろの二人が色めき立ったのが分かる。ちょっとタイムリーすぎます。…話、聞かれてないよね?




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