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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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飲みに来たら、まさかの一郎くんが急に3人バイトが休みになったので依頼としてヘルプに来ている居酒屋だったというまさかの展開です。黒Tシャツとジーンズにサロンエプロンを巻いた一郎くんが眩しいです。なんですかその腕。タダで見せていいものなの?ていうか一郎くん一人でバイト3人分働くって一体全体どういうことなの、理解が追い付かないわ。

「わぁ、本物の山田一郎くんだ!」
「春から話しは聞いてるよ〜」
『ちょっと絡まないでよ』
「え、俺何の話されてんすか?」
『一郎くんもノらないでいいから!』

茶化してくる友人二人を諫めるも一郎くんも面白がって笑いながら食いついてくる。仕事中でしょ!飲み物追加で頼むと一郎くんはすぐ持ってきますね!と爽やかに注文を取っていった。くぅ…このワンコ感がかわいいんだこんちくしょー!とどうしようもなくきゅんきゅんする胸を押さえるために残ったお冷やを飲み干すと、友人達がにやついて私を見ている。

「偶然会うなんてこれ運命じゃね?」
「実際に喋るとめっちゃ良い子そうじゃん」
『偶々だし…めっちゃ良い子だし…』
「お待たせしましたー!」
「早っ!」

コソコソ話していると本当にすぐに飲み物が運ばれてくる。これは迂闊に彼の話はできそうにないぞ…と思っていればまた二人が一郎くんに絡み出す。やめろやめろ!

「何時までヘルプなの?」
「一応21時までっす」
「あと1時間ないじゃん。終わったらここのテーブル来なよ、晩御飯奢ったげる」
『あんたたち、いい加減迷惑でしょ!』
「いいんすか?」

ちょっと、いつもは遠慮がちなくせに今日はどうした?この二人に私たちがおもちゃにされるぞ大丈夫?そんな私の心配を他所に、彼はじゃあ残り張り切って終わらせてきます!とまた良い笑顔で仕事に戻っていった。はぁ、と可愛さに打ちのめされ項垂れる私の重症さを目の当たりにする友人だが彼を誘った事に対しては悪びれる様子はない。知らない、もう飲むぞ。意気込んで一郎くんが運んでくれたレモンサワーを流し込んだ。


それから注文をするとたまに一郎くんがオーダーを取りにきてくれた。生搾りレモンサワーを頼んだ時にはその握力で見事にジューサーでレモンを目の前で搾って注いでくれた。ありがとう、大切に飲みます。といいながらほぼ一瞬でなくなったのは酒飲みのイリュージョンである。

21時を過ぎるもまだ少しバタついており、一郎くんがテーブルに来たときには22時が近づいていた。今からでも遅くないから悪い大人から逃げなさい。という私の心配はやっぱりスルーされて一郎くんはあいている席に座った。

「お邪魔します。」
「お疲れ様〜!」
「座って座って!」
『もう大丈夫なの?』
「締め作業も出来るとこは手伝ってきたんでもう大丈夫って言われましたよ。」
「何でも食べな〜」

一郎くんが上がる前に彼女たちは私の隣の席を開けてくるという暴挙にでてめでたく一郎くんは私の隣に座っている。あー腹立つけどありがとうな!

『飲み物はコーラでいい?』
「あざっす。」

ラストオーダーは22時半なのでまだ大丈夫だ。唐揚げやだし巻き、キムチチャーハン、ポテサラなど適当に頼む。コーラのやり取りでは好み知ってるんだ〜という生暖かい視線が来たが無視だ無視。

「いちろーくん、この子もらってやてってよ〜」
「引き取り手がないのよ〜見て、この写真。この性格だから男が逃げてっちゃってさ〜」
『その写真流出厳禁って言ったよね!?』
「え、春さん金髪だったんすか!今と全然ちげぇな…」
『引き取ってくれって言いながらその写真晒すとかもはや嫌がらせだから!』

酔っぱらいは怖い。その一言に限る。テンションが上がった二人は過去の写真を見せたりウザ絡みしたりと私の応援ほんとにしてるか?と思うほどである。私の素性がバレていることは既に二人に話していることもあるのか過去の事もガバガバに漏らしている。やめてくれ…!酔いも醒めるぐらい私が慌てているも一郎くんはあっけらかんと金髪も似合ってますねと笑っている。くそ、心激広かよ!

もう閉店を迎える頃には私はぐったりしていた。彼女たちは、多分この過去を知ってくれた上で相手が私を選んでくれないとダメだと分かっているから過去の話もしてくれた、と思いたい。ちょっとは面白がっているかもしれないけどな。覚えとけよ…と友情ありきの恨み節を心で吐き、その場はお開きとなった。




二人は同じ方向で一郎くんは私を送ってくれるとのことで二人きりになる。最後までニヤニヤしてくる二人にまたねと手を振った。並んで歩く肩は身長差で不揃いだ。吐く息が凍てついて白く染まる。

『遅くなったのに送ってもらってごめんね』
「元々賄いもらって帰る予定だったんで。むしろ奢ってもらって申し訳ねぇっす。」
『いいのいいの、あの二人が言い出したことだしね。てか仕事中だったのに絡んでごめんね…。』
「いや、楽しかったっすよ。春さんの昔の話とか聞けて。」
『え?なに手刀で記憶消していい?』
「だめだめ、遠慮します。」

さっと指を揃えて右手を上げると一郎くんがふはっと笑いをこぼす。つーかそんなん漫画じゃねぇんだから。と笑う一郎くんがまた可愛いんだな。ある程度醒めたものの酒が入っているせいか私の頬も思考もふわふわ浮わついている。顔を撫でる風は冷たいが心はポカポカと温まった。



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