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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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今日もいつも通りの仕事終わり、だった。それはもう過去形であり私は目の前で起こっている出来事に一目散に飛び込んでいく。

仕事の帰り道、普段通り歩いていると物騒な騒ぎ声が耳に入ったので視線を向けると顔見知り程度だが知っている二人が大人数に囲まれている。その二人とは、一郎くんの弟である二郎くんと三郎くんだった。マイクを出す前に襲いかかられてしまっては腕っぷしになると三郎くんは分が悪いみたいで二郎くんが三郎くんより多く応戦している。

『ちょっとあんたら子ども相手に寄ってかかって何してるの!』
「ああ!?なんだよ女一人かよ」
「関係ねぇクソアマは引っ込んでろ!」
『あんだとテメェコラ』

お決まりのように吐き捨て殴りかかってくる男に私は持っていた鞄を投げ捨て姿勢を低くし避けてからその顎に拳をぶつけた。

「あ、アンタは…」
「テメェやりやがったな!」
『お前らみたいな集らねぇと二郎くんと三郎くんに敵わない卑怯なクソ野郎は私が相手してやるよ!』

二郎くんは私の顔を覚えていたのか声を漏らす。返事してあげたいが、とりあえずこいつらの相手が先だ。クイクイッと手でかかってこいと挑発してやれば単細胞な彼らはまた私たち三人に向かってくる。低めではあるがヒールで蹴りつけ、拳や膝をめり込ませて相手はどんどん沈んでいく。それなのに男たちはまだ数人残っているんだからマジでそんな人数集めなきゃ威勢も張れないのかと呆れ果てる。2人もちょっと余裕が出来たのかマイクを取り出せそうだ。

「二郎!三郎!」
「兄ちゃん!」「いち兄!」

声を聞くだけで安堵をもたらす彼はすごいものだ。私の存在を目視し驚きを示すが、二人に声をかけてマイクを起動させる。

「春さん、弟らの助けに入ってくれたんすね。とりあえず、一気に片付けちまうんで下がっててください。」
『うん、あとは任せた。』

バトンタッチして後ろから男達を一掃していく彼ら兄弟のラップを見学する。兄弟ならではの息の合った掛け合いで攻撃力が倍々に膨れ上がり、ゴミクズが片付けられるまでほんの一瞬であった。流石ブクロのスイーパーである。

「春さん、怪我はないっすか?」
『大丈夫だよ。弟くんたちは大丈夫?』
「おう、全然ヨユーだぜ!」
「、ありがとうございました。」

一郎くんたちが振り返って声をかけてくれる。ひらひらと手を振ってなんともないと返したが弟くんたちのほうが少し怪我をしてしまっている。くそ、遅かったか…何度でも言うが、こんないたいけな男の子に寄ってかかって襲いかかるなんて本当に最低最悪だな。それに比べて素直にお礼を言える弟くんたちはなんて偉いのか。

「春さんが強ぇのは知ってっけど、あんま無鉄砲に飛び込むのは止めてください。」
『だって目の前で絡まれてるの無視はできないじゃん』
「弟たちを助けてもらったのはマジでありがとうございます。でも春さんは女性ですし危機感もってくださいって言ってるんすよ。」
『はーい』
「その返事分かってないっすよね?」

そんな言い合いとも言えないやり取りをしていると、余力が残っていた一人の男が三兄弟の後ろで立ち上がるのを視界の端に捉える。

「うぉぉぉおおおおお!!!」
『しつこいっ!』
「おらぁっ!」

一郎くんも気付いてみたいで一郎くんは振り返り様に回し蹴りを脇腹にヒットさせて私のほうによろけた男の顎先に掌底を食らわせ止めを刺した。そのまま手を払えば、スゲースゲーとある日の一郎くんのようにキラキラとした視線が向けられていることに気付く。

「その小さな身体のどこにそんな力があるんですか?」
「アンタその見た目でマジでめっちゃ強ぇな!流石兄ちゃんの彼女!」
『え!?か、かの!?』
「おい、二郎!失礼だろ。」

キラキラ光線で戸惑っていた上にまさかの爆弾発言。さらに狼狽えると一郎が二郎くんを叱った。ああ、顔が熱い。

「春さん送ってくっから、お前らは先に帰ってろ」
「わかりました!」
「ちゃんと手当てしとくんだぞ」
「うん、三郎のことは任せてよ!」
「はぁ!?二郎なんかの手当て受けたら余計に酷くなりかねないので、僕がちゃんとしておきますね!」
「ンだとぉ!?」
「お前ら春さんの前でケンカすんじゃねぇ!」

わちゃわちゃと騒がしい三人が微笑ましい。そしてお兄さんをしている一郎くんが見れて喜んでる私もいたり。弟くんたちにお大事にね、と声をかけて別れ帰路につく。久々に身体を動かしたので明日は筋肉痛になるかもしれないなぁ、なんて思っていると一郎くんが謝罪の言葉を溢す。

「すんません弟がなんか勘違いしたみたいで。」
『いやいやこちらこそごめんね、こんなおばさん相手に。』
「は?」

怒ったように低い声で返されたそれに、何か怒らせるようなこと言ったか分からなくて首をかしげる。なに、なんで怒ってんの?

「…おばさんじゃねぇすよ。」
『ぇ、あ、ありがとう。』
「そうやって、自分を下げんの良くないと思います。」
『下げてるつもりはないんだけどなぁ。…まぁ事実だし。』
「…じゃあ俺のことはガキだと思ってんすか?」

いつもなら軽く流すような軽口なのに、むすりとした口調で妙に食い下がってくる一郎くん。そんなことないよ、と否定する。

『一郎くんはよく頑張ってるし、そこらへんの大人より大人っぽい子だと思ってるよ。』
「それが…っ、…俺は、前に彼氏役した時も、今回春さんが彼女だって言われたのも…嬉しかったっす」
『え…』
「着いたっすね。じゃあおやすみなさい。」

私の脳が理解するまでフリーズしてたせいで、一郎くんはさっさっと帰ってしまった。待って、言い逃げしなさんな!

かくして、さらに私の頭の中は彼で占領されることになってしまうのだ。



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