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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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うーん、あれって自惚れていいのだろうか。それとも私の脳みそが生んだ痛めの幻聴か?彼の爆弾発言を食らい、帰宅してからもうんうんと彼の言葉を咀嚼していたら朝がきた。まじか仕事じゃん。普段プライベートであんまりうだうだ悩んだことはないのでこんなことは初めてだ。山田一郎…私の初めての男になったな。語弊か。寝不足で気だるい身体を起こして会社にいく支度をはじめる。





出社したのはいいものの、頭はぼんやりとして思考は纏まらず、倦怠感を孕んだ身体が重りを着けたように重い。事務仕事で良かったとつくづく思う。立ちっぱだったらぶっ倒れてる自信がある。なんとか午前の仕事を終わらせて昼休憩に入るも、食欲は湧かずロッカーに置いてあった出来合いの味噌汁を飲んでデスクにも項垂れて過ごした。後日に回せるもの(仕事)は置いておこうと決断して昼休憩を済ませ午後の仕事に取りかかる。なんとか終わる目処が立った頃、後輩ちゃんがあれ?と声をかけてくる。

「桧原さん…何か顔赤いですよ?」
『え?そうかな。』
「風邪かもしれませんね。最近冷えますし…事務所の体温計取ってきます!」
『いいよいいよ、あともうちょっとで終業時間だし。』
「…そうですか?無理しないで下さいね。」
『うん、ありがとね。』

風邪…ていうか、ただの知恵熱だろうな。社会人になってまで恋愛の悩みで体調を崩すなんて申し訳ないやら情けないやら何とも言えない感情も芽生えた。そんな感情と気だるさを肩に背負ったまま無事に仕事を終え、帰路に着く。

もうちょっと頑張れば家、というところで悩みの種の男の子と遭遇するんだから神様は意地悪なのか悪戯好きなのか。お互い気づかなければいいものを…。彼に似た声が聞こえれば反応してしまうし、トレードマークのような赤と青のジャケットや高身長の黒髪の男性まで彼ではないかと無意識に目が追うのだから恋愛っていうのは怖いものだ。

昨日の今日で彼もちょっと気まずそうに会釈だけしてきたので私も手を振り返した。さぁまた気を取り直して家路を辿ろうとするも、悪寒のせいか身震いしてたたらを踏む。あーやば、早く帰ろ。帰って布団にダイブしよ。

「春さん!」
『、一郎くん?』
「ふらついてますけど、大丈夫っすか?」
『ちょっと調子悪くて…でも大丈夫だよ。』
「身体熱ぃな…熱出てんじゃないっすか」

ふらついている身体を支えるために駆け寄ってくれた一郎くん。やっぱり熱か。でも今の体温上昇は一郎くんが原因もあると思う。送っていく。そう言って私の腕を引いて私の家に向かって歩きだした。

『え、用事とか…依頼の途中なんじゃ…』
「ちょっとぐらいなら抜けて大丈夫そうだったんで声かけてからきました。フラッフラなの見て放っておけるわけねぇよ。」

…はぁ、優しい。昨日の発言といい、こんなのチョロいおねーさんは勘違いしちゃいますよ。

「寄っかかってもらっていいんで。」

わぁ〜!!!肩を寄せられ、その勢いのまま一郎くんにもたれ掛かる。ぼ、ぼぼっ!と頬が焼けるように熱くなるのが分かった。ああもう、だから余計熱があがるって!

「その顔、…やっと俺のこと男だって意識してくれるようになったんすね。」
『あの、私の…勘違い、とかじゃ…』
「…またゆっくり話しましょう。今日はとりあえずゆっくり休んでください。」
『あ、うん…送ってくれてありがとう。』
「じゃあ戻りますね。お大事に。」

無事に家まで送ってくれて依頼(だと思う)に戻っていった一郎くんの背中を暫く見つめた後、家に入り有言実行。布団にダイブする。…気を遣ってくれたんだろうけどなにあれ思わせ振りすぎる〜!バタバタと手足を布団に叩きつけて悶える。

彼の言動を見ていると、傷つく可能性があっても自己責任で期待してもいいのだろうかと希望を胸に抱く。それでもやっぱり私に対して一郎くんがそんなワケねぇ〜って思いも少なからずあるんだよね。だめだ、また目がまわってきた。今日ははやく寝て、明日も仕事がんばらなきゃ。


朝イチでシャワー浴びるから許して、とスーツのスカートだけベッドの脇に放り投げて布団に潜り込めば寝不足だった私の意識はたちまち夢の中へと落ちていった。



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