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□ラナンキュラス(一郎連載A)
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「今度ウチ来ませんか?」

一郎くんのその一言から始まった。なんだかソワソワしているな、となんとなく感じていればそう提案されそれを言うタイミングを見計らっていたのかと思うと可愛いな。

『え、いいの?』
「その日、弟たちもいないし…」
『いてもいいよ?』
「あーもう、だからっ…」
『ふふ、ごめんごめん。』

お家デートのお誘い、さらには二人っきりであるという予定に少し恥ずかしくてそれを隠すためにからかった口調で返すとがしがしと頭をかく彼に申し訳なくなって謝る。あまりの可愛らしさに吹き出してしまった私にまじ腹立つ…。と唇を尖らせる一郎くん。ああ、だから可愛すぎるぞ山田一郎。



そんなこんなでやって来ました萬屋ヤマダ。事務所と居宅スペースと別れているものの同じ建物内にあるみたい。今まで依頼をしたことはあるが実際に来たのは初めてである。事務所側の扉にくるよう言われており、少しの緊張を滲ませた指先がインターホンのボタンを押した。

「いらっしゃい!」
きゅん!

あ、今キュンの風圧が襲ってきた。出迎えた一郎くんの爽やかで太陽みたいなあたたかい笑顔で扉を開けた瞬間、眩しくて思わず目を細めた。はぁ今日も一段と輝いてますね。
こっちだと住居側に誘導されてその大きな背中を追いかけてついに一郎くんの部屋に足を踏み入れた。

「飲みもん飲みたいやつあります?」
『なんでもいいよ〜』
「何があったっけな…あ、テキトーに座っててくれ」
『はーい』

彼は部屋をでて階段を降りていった。ついついキョロキョロと部屋を見渡してしまう。
打ちっぱなしのコンクリートの壁にいくつかポスターが貼られていたり、自転車なんかも飾られておりお洒落さに言葉を失った。なんだこの自転車。乗るやつ?いやそれにしては彼が乗るには小さいしインテリアなんだろう。
そしてテレビボードの横には大きな本棚が鎮座している。本なんて読むんだ、意外。と目線を持っていくと内容はさらに意外なものだった。ライトノベル、いわゆるラノベと呼ばれる小さな文庫本がずらりと並んでいる。

「すんません、コーラ以外お茶ぐらいしかなくて…」
『あ、お茶好きだから大丈夫。ありがとう。』
「あー…」

部屋に戻ってきた一郎くんが、本棚を眺める私をみて固まった。私はそれに気づかず不躾にみちゃってごめんねとなんでもないように返事を返す。テーブルに飲み物を置きながら何か言い淀む彼にはてなマークが浮かぶ。どうしたのと首を傾げれば引いてないっすか?と一言。

『引かないよ、別に。』
「でも、なんか、機嫌悪くなってないっすか?」
『ないない』
「………」

それは真意かと訝しげに見つめてくる一郎くんに、降参と両手を上げた。

『一郎くんの好きなこととか、私は知らなかったんだな〜って落ち込んでるだけ。』
「なんすかそれ可愛すぎんだろ。」
『可愛くないです〜。あ、そういやこれ知ってる。』
「え、知ってるんすか?」

二人して本棚を覗き込みながらどれ?これ。とやりとりをする。ううん、近い。年甲斐もなくときめいてしまうよ。

『兄貴の部屋にあって、読んだことあるよ。』
「え、まって春さんお兄さんいるんすか?」
『そうそう、どれくらいのレベルのオタクかは知らないけど結構ラノベとか漫画とかあったんだよね。勝手に読んでたなぁ。』

それなのに頭が良くてよく比べられて…まぁ非行に走ったわけですが。

「春さんが…妹属性…。」
『妹属性って。多分その属性に入れるほど妹らしさはないと思うなぁ。…あ、これも知ってる。この主人公とヒロイン好きだったな。』
「まじっすか!俺もこの二人めっちゃ好きで!」
『あ、大分前に読んだっきりだから詳しく覚えてるわけじゃなくて…。』

熱の入った語り口調に待ったをかける。見えていたいぬ耳がしゅんと垂れるのが分かった。(強めの幻覚)

「あ、そっすよね。すまねぇ、勝手に盛り上がっちまって…」
『あー、そうじゃなくて…。今日これ帰りに貸してよ。私が読み終わったら、また話聞かせて。』

ね?と言えば溶けたような、嬉しそうな笑顔を浮かべる一郎くん。ああ、これが萌えってやつですかね。理解した。
それからソファーに腰かけさせてもらって、映画を流す。私が来る途中で買ってきたお菓子をパーティー開けしてローテーブルに広げてつまみながら並んで映し出される映像をじっと見つめた。
洋画でアクション要素がふんだんに盛り込まれていて、男の人は好きそうだ。そういえばこの部屋の床にもダンベルが並べられていたし、彼のどっしりした体躯は鍛え上げられてるんだろうな。なんて映画の内容もそこそこにぼんやり違うことに思考が持ってかれる。それはほら、好きな人の部屋に初めてお邪魔してたらそういうことも考えてしまうわけで。

アクションもありながら、少し色気のある場面に移る。あ、と思って隣を盗み見れば案の定耳を赤くしているのを見つけてしまう。多分2人で見てるって状況だからその反応なだけで彼も普段は何とも思わないのだろうけど意識して可愛いな、なんて思ったらむくむくと再び悪戯心がわき上がってきた。

そ、と膝の上でぎゅっと握られた一郎くんの手に自分のそれを持っていき指先でなぞる。そのまま指を絡めて出来上がったのは恋人繋ぎ。
への字口でばっと真っ赤な顔をした一郎くんがこちらを向いた。

「春さん…」
『ふはっ、も、可愛すぎて…っ!』

恨めしげに私の名前を呼ぶ一郎くんに、耐えていたものが決壊してまた笑っちゃった。ああもう、また拗ねちゃう。

「ほんとに男としてみてるんすよね?」
『もちろんだけど。』
「んじゃ、可愛いって言わないでください」

どさり。

ぐっと肩を押されてソファーの肘置きに背中がくっついた。思わず息をのむ。いい大人なので二人っきりで自宅デートとなるとこの展開もありうるとは覚悟していた。それでも下から見上げる一郎くんのお顔たるや。私の覚悟もへったくれもねぇわ。こんなイケメンから見下ろされるの死ねる。

『あー、うん。最高にかっこいいよ。』

まだ少し拗ねたような色を残したままだが真剣に真っ直ぐ見つめてくる表情は男らしくてそのまま口に出す。手を頬に当てると、彼はその手をきゅっと捕んで破顔した。あ、やっぱり可愛いでいい?なんて心臓をわし掴まれているとひょいっと抱き上げられる。

『わ、ぁ!?ちょ、重いから下ろして!』
「軽いっすよ。俺ばっかに食わしてねぇでちゃんと食ってください。」
『食ってる!食ってるから下ろそう!?』
「ん。」

騒ぎ立ててようやく降ろされた先はソファーの後ろにあったベッドだった。ぽすりと降ろされた反動でふわり、と吸った空気が一郎くんの匂いで満たされていて更に私の体内の血が沸騰しそう。
胸中パニックの私はまたころんと固めのスプリングマットレスに転がされる。さらに濃くなった一郎くんの匂い。あ、これあかんやつ。

耳の真横で拍動してんじゃねぇか位心臓がドキドキと高鳴っている。じ、と見下ろしてくる端正なお顔を見つめていると顔が近づいてきて自然と私の目蓋も閉じてその唇を受け入れた。唇が離れ、目を開けると綺麗な赤と緑の瞳が至近距離で瞬いていて、その美しさに飲み込まれそうになる。

ぽすりと私の首もとに彼の顔が埋まり、一郎くんが唸っている。どうしたのかとその頭を撫でながら聞くとこれまた可愛い返答が。

「あー、やべえ。……好きな女を俺のベッドに押し倒すとかなんつーかほら、男のロマンっつーか。」
『ン"ンッ!?』

可愛すぎて変な声でた。カッコ良くて可愛いこの人マジで私の恋人ですか?恋人なんですよねぇ、どや!いやそうじゃない、そうなんだけど違う。

「実感してるんすよ、」

春さんが俺の彼女なんだって。小さな声だけど、耳の近くで言われたら100%聞き逃しませんよ。はぁ、何度私の心臓を刺したら気が済むんですか。
どれくらい伝わるか分からないけれど、胸のなかに溢れる彼への愛おしさを込めてぎゅう、とその背中を抱き締め返した。





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