ワンパンマン
□オオカミ使いのJK
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「ねえ君いくら?5万でどう?」
夜でも明るい街を歩くと、こういう現場に度々出くわす。全く、こちとらヒーローを狩って清々しい気分で歩いていたにも関わらず、一瞬で吐き気を催した。
「ん?ごめんけど私今から帰るだけだから!んじゃ!」
「待てよ!7万?8万でどう?」
立ち去ろうとする制服を着た女を引き留めて、男は迫る。俺…ガロウはその横を知らねえフリして通り過ぎた。
「ウリとかしてないって!他当たんなよー」
「君マジで好みなんだよっ!君みたいな子としたいなっ舐めて欲しいし!10万出すから!定期的に会うし!どう?」
「いや、マジ無理だから__」
嫌がる女を、男は無理やり路地裏に連れ込んだ。俺は足を止めて、ため息混じりにそれを追跡した。
*****
「ねえおじさん痛いんだけど!いい加減にしないとヒーロー呼ぶかんね!」
「無駄無駄!俺、S級ヒーローと知り合いだから!呼んでも良いけど助けて貰えないよ?」
「そんなあ〜…」
私はほとほと困りきっていた。バイト帰りに変なおじさんに絡まれて、こんな薄暗い路地裏に連れ込まれてしまった。ヒーロー呼ぶとか言ったけど、呼び方分かんないし。ああ、こんな事なら日々もう少し危機感を持って行動すればよかった…。
取り敢えず、明日からは自転車で帰ろう。そうしよう。
「ていうか、君も悪いんじゃない?そんな頭弱そうな派手な見た目して、スカート短くしてさ!こんな所でそんなカッコ、誘われてもおかしくないだろ!」
「そう?まあでも誤解って分かったっしょ!私帰るし…ムッ」
なんか、布みたいなもので口を覆われた。グラグラと視界が揺れて、眠くなって、私は争いもせず気持ちの良い睡魔に身を委ねた。
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男は、地面に倒れた無抵抗な女子高生に我慢できず飛びついた。高い金額を餌に若い女性を路地に連れ込み、寝かせ、一方的にいい思いをしては女性を置き去りに立ち去る。男はこの手の常習犯だった。
「フッフッフ…まずはこのでっけえ胸にむしゃぶりついてやる!ここまでのサイズは中々無いぞ」
ボタンを外そうと、制服に手をかけた瞬間だった。男の背後には、獣が迫っていた。
「よお、オッさん。そう言う事なら俺がいくらでも胸貸すぜ?」
「だっ…誰だ!」
男が振り向く前に、ガロウは一瞬で殴り飛ばした。
「胸糞悪い奴だな。手慣れてやがるし…常習犯か?……おい女!起きろ!」
「…」
ガロウが女子高生を起こそうとするが、うんともすんとも言わない。面倒になり置き去りにしようと、彼は踵を返しその場を後にしようとした。が…。
「なんだ、女の子が眠ってるぞ」
「可愛い子だなあ…久々に精を出すか」
…ホームレスやら、薬の売人やら。無抵抗の女の子に対して、容赦も情けもない者たちがわらわらと集まってきていた。それを察知したガロウは、面倒で仕方ないといった表情を浮かべ、足を止めた。刹那、その路地に風が吹き抜ける。
「…なんだ!?」
「一瞬で女の子が居なくなったぞ!?」
ガロウは、腕の中で眠る女の子を抱えながら、どーすんだこれ…と小さく呟くのだった。
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あそこもダメ、ここもダメ。などと女子高生を打ち捨てる場所を悩んでいると、空が薄く明るくなってきていた。
しめた、とガロウは思った。そろそろこの子も薬が抜けるはず。ガロウはヒーローに見つからぬよう、森の中の木に女子高生を寝そべらせ、ペチペチと頬を叩いた。
「…う…」
「おい、起きろ!」
「…ん…?だれ…?」
眠たげに、女子高生は起き上がった。ガロウは女子高生に軽く状況を伝えるべく口を開いた。
「お前が寝てるとこを拾っといてやったぜ。あとは自力で帰れ。あばよ」
そう言って立ち去ろうとするガロウ。が、女子高生によってそれは阻止された。
「私…変なオジサンに襲われて…助けてくれたん?ありがとっ」
ありがとうという言葉は、少しだけガロウの心を揺さぶった。居心地の悪そうな表情を浮かべると、ガロウは女子高生の手を振り払おうとした。
「待って!待って!お腹すいてる?お礼させてよ!」
「要らねえよ。関わるな」
「やだやだっ!せめて名前くらい教えてくんない!?ちなみに聞かれてないけど私はライカ。17歳!ヨロシクッ!」
「…………」
ガロウは、結局ライカの手を振り払ってスタスタと歩いて行った。ライカが必死に追いかけようとするが、その気配を察知するなり、追いつけないスピードでどこかへ去ってしまった。
「…?んん〜…」
ライカは何やら考えた後に、キョロキョロと辺りを見回した。そして、息を大きく吸い込んで、誰かーー!と叫んだ。
「誰か居ませんかーーーー!!!!森で迷子でーーす!!!!遭難でーす!!!誰かー!!」
シーンと静まり返る辺りに、ライカは不安を抱く。そして、結局腰を下ろして木の根元に蹲った。