黄金神威:GoldenKamuy

□牢
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佐一はとても優しい。私なんかには勿体ない程に優しくてかっこいい。
けれども、佐一のことを時折怖く感じる。
私が外と触れることを許してくれない。触れてしまえばどうなることか。

「名前さん」

考慮に耽っていたので驚きながら振り向くと、佐一はいつもと変わらない笑顔で私の後ろに居た。
ソファに座る私の後ろで、屈強な両腕を私の肩に組み回す。耳に息が吹きかかる程に顔が近い。

「名前さんは、ここに居るのが嫌?」
「いいえ。」
「⋯そっかぁ。」

私から佐一の顔は見えない。けれど佐一が私に顔をすりすりと擦り付けていることから、佐一がとても喜んでいることは分かる。
もしも『嫌』と答えていたら、どうなっていたんだろう。

「今の、凄い嬉しかったなぁ。嫌って言われたらどうしようかと思った。」
「どうするつもりだったの?」
「無理矢理にでも繋いでたかもしれない。⋯そういうの、名前さんは嫌でしょ?」

平常心を保つのがこんなに難しいことだったのかとすら思うほどに心臓が跳ねる。
怖い、この人が怖い。好きなのは確かだけど、こんなに佐一を怖いと思ったのは初めてだった。
佐一は私を大事にしてくれる。けれどもその度が過ぎている。
何時か私の周りの人を殺すようになるのかと思うと、まだ私が閉じ込められていた方がマシだと思えた。

「名前さんが嫌がることはしたくないし、傷付けることなんてしたくない。でも、名前さんが俺を捨ててどこかに行くんじゃないかって不安になることが多くなった。だからこうして閉じ込めるしかないと思ったんだ。」
「その代わり、俺は名前さんのためなら何でもする。出来ないことでも⋯いや、何も出来なくなったっていい。
名前さんが俺だけを頼ってくれるなら。」

「私はどこにも行かないよ。佐一のことを捨てるだなんて有り得ないもの。」

「人間は口だけならどうとでも言える。⋯名前さんのこと、信じてるから。」

ぐっと低くなった佐一の声が頭の中を谺する。
心做しか佐一の腕にも力が入ったように感じた。
あぁ、逃げられない。
きっとこの人は私が逃げても追いかけて捕まえにくる。その時は私が殺されるか、佐一の良いようにされるに違いない。

「俺は名前さんとずーっと、死ぬまで一緒に居たいなぁ。俺達は死んだって一緒。⋯これって、凄くいいことだと思うんだ。」

「ね、名前さん?」

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