小説

□災難のち愛
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「んん…頭いてぇ…」

頭痛と吐気のせいで目を覚ました。
昨日、大学時代の友達に誘われた合コンに行った所までは覚えている。完全に二日酔い。
目を閉じたまま、スマホを探しながら寝返りを打つ。
しかし、手に触れたものはスマホでは無かった。

「? 何だこれ…髪の毛、みたい、な…」

慌てて目を開け起き上がる。隣ですやすやと眠っているのは、見知らぬ青年。
しかも…全裸。お互いに。

「は!?何!?つか、誰っ!?どゆこと!?ぜんっぜん覚えてねぇ…!」

俺の叫び声で目を覚ましたのか、彼はゆっくり目を開けた。
長い睫毛に縁取られたくりくりの瞳。白い肌。きゅっと口角が上がった、プルプルの唇。
さっきは男だと判断したが、もしかしたらショートカットの女の子かもしれないという希望は、彼が小さく欠伸をして起き上がった瞬間に消えた。
彼は数秒黙って俺を見つめた後少し俯いて、小さく「おはようございます」と呟く。
そして俺の返事を待たずにベッドから出て、淡々と床に脱ぎ捨てられていた服を拾って着始めた。
必死に記憶を辿るが、彼が誰で、どうして俺の家で、しかも裸で一緒に寝ているのか、全く思い出せない。

「あ、あの…」

彼はぴくりと肩を震わせた後ゆっくり俺を振り向く。
思い出せないなら、腹を括って聞くしかない。

「えーと…君、昨日の合コンに居た子…だよね?ごめん、名前何だっけ?どうして、俺の家で一緒に…その〜…」

彼はただ黙って俺を見つめていたが、ふいっと顔を背けた。

「…覚えてないんですね」
「えっ?」
「昨日確かに同じ合コンに居ました。知念侑李です」

いつの間にか服を全て着終わっていたのか、鞄を持ち、淡々と「泊めて頂きありがとうございました。では」と呟き部屋から出ようとする。

「ちょちょちょちょちょっとまっ、待って!ちゃんと話し合おう!?なっ?」
「話し合うも何も…昨日の夜、お互い酔ってはいたけどきちんと話しましたよ。覚えてないのはあなただけじゃないですか」

慌ててベッドから飛び出し腕を掴んだが、そう冷たい視線を向けられるとぐうの音もでない。
どこまでしてしまったのか、俺と彼の関係性とか、連絡先聞いたんだっけとか、ぐるぐる頭の中を疑問が駆け巡る。
取り敢えず彼を引き止めて時間を稼ぐしかない。

「ごめん…すぐ思い出すからさ、もう少し一緒に居よ?」

壁に追い詰め、片手は手を握りもう片方は彼の頬へ添え、顔を近付け囁く。

「僕、今日は午後から用事があるって、昨日言いました。それじゃ、今度こそ失礼します」

彼は表情一つ変えずに俺の手を払いのけて押し返し、振り返る事無く部屋を出ていった。

「……か……かんっっぜんにやらかしたぁぁぁぁ!!」

彼が去った部屋には、俺の叫びだけが虚しく響いた。

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