小説
□Dangerous Night
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眠れない。ついた溜め息は暗闇に溶けていく。
カーテンの隙間から覗く綺麗な満月に誘われるように身体を起こし、家族を起こさぬようそっと家を抜け出した。
僕の家は海沿いにあり、家のすぐ裏が海になっている。
通っている高校が少し遠いのが難点だ。
浜辺でぼんやりと海に写った月を眺めていると、バサバサッ!と小さくて黒い何かが目の前を通過していった。
コウモリ…だろうか?
驚いて1歩下がり、周りをキョロキョロすると、人が居る事に気付く。僕が声をかけるより先にその人がゆっくりこちらを振り向いた。
月明かりに照らされたその人を見た瞬間、僕は息を飲んだ。
ギラりと赤く怪しげに光る瞳。
青白く透き通った綺麗な肌。
人間離れしてるくらい整った顔。
シャツに黒いベスト、スラックスを履いて黒いマントを羽織っている。
少し僕より背が高いけど同じくらいの年に見える。
────…綺麗
そう思った時には見蕩れていた。
「お前、怖くねぇの?」
「"怖い"?」
「……俺、吸血鬼なんだけど」
赤い目を少し細めじっと僕を見据える。
あぁ…どうりで人間離れした綺麗さだと思った。
「僕の血、吸って良いよ」
パーカーの下に着ていたパジャマの襟をぐいとはだけさせる。
自分でも自分の行動に驚いた。その綺麗な顔が欲にまみれる様を見たかったのかもしれない。
すると彼は僕にゆっくり近付き、手を伸ばしするりと僕の首筋を撫でた。
「……お前、変わってんな」
吸血鬼に言われたくない、と言おうとした時には彼の姿は消えていた。