小説
□方程式で解けないキモチ
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Side.Yuri
最寄り駅のホームに滑り込んで停車した電車からゆっくり降りる。
この電車からは降りられても、僕は、親が敷いたレールの上を走る"運命"という名の電車からは降りられない。
数時間前から頻繁に来ているお母さんからのLINEや不在着信を力なく眺める。
『今日は何時に帰ってくるの?』
『早く帰って来なさいよ』
〈不在着信〉
『返信しなさい!』
『何で電話出ないの』
〈不在着信〉
〈不在着信〉
『今日から家庭教師の先生がいらっしゃるんだからね』
〈不在着信〉
『まだ?』
溜め息を吐き、『もうすぐ着くよ』とだけ返信しスマホをポケットに仕舞う。
親に決められた中高エスカレーター式の名門校に入学し、高等部3年生になった。
また親に決められた名門大学に行くため、今年から家庭教師を付けられる事になったのだ。
親の言う通りに勉強して良い成績を取る事でしか家庭内での居場所を守れなかった僕は勉強に困っていなかったが、志望大学合格のために躍起になっているお母さんを見て、元より逆らう気なんて毛頭無かった。
家庭教師なんて正直要らないし、どうでもいい。
早く大学に受かって家を出る事だけが僕の生きる糧だった。
─────この時までは。