Another Would
□第1話
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「次は、薄桜学園前、薄桜学園前、終点でございます。どなた様も、お忘れ物をなさいませんよう…」
バスの車内アナウンスで目を覚ます。
次々と降車していく人々に従い、私もバスを降りた。
そこで気がつく。
『ここ、どこですか…』
おい私。
驚きすぎて、誰に話したわけでもないのに敬語になったよ。
いや、そんなことより。
迷子だ。
完全に。
というか、私の記憶も迷子だ。ここに来るまでの記憶はどこへ行った。
えーっと確か、大学の帰りに最寄り駅からバスに乗って…。
そこから先の記憶は曖昧だ。
私は地べたに座り込む。
寝過ごしたにしても、こんなバス停はあるはずがない。
だって、薄桜学園、って…。
「おい、ここで何をしてる」
突然、首元にヒヤリとした感触。
目線だけ向けると、私の首に竹刀が刺さっていた。
わーい危ねえ\(^o^)/
これって銃刀法違反とかにならないのかな、刺さってるんですけど、ねえ。
竹刀がどけられ、見上げるとスーツ姿のイケメンが竹刀をまるで真剣のように持って構えていた。
『ここ…、どこですか』
いきなり叫び出さなかった私を誰か褒めてほしい。
どこかなんて聞くまでもない。
薄桜鬼SSLの世界じゃないか、ここは。
「薄桜学園の校門前だ。もう一度だけ聞いてやる。ここで、何してやがる」
『えっと、迷子の子猫ちゃんなうです☆』
ゴンッ!
『いった!痛い!いきなり竹刀で叩かないでください!』
「死にてえのか」
『待ってごめんなさい本当に迷子なんです!』
必死に言うと、スーツなのにどこか武士みたいな彼は溜息をつく。
「帰り道教えてやるから、失せろ」
『えーせっかくですからどうですお茶でも…嘘ですごめんなさいすみません!○○線の△△駅なんですけど!!』
駅名を言うと、彼の眉間にさらにシワが寄った。
「まだふざけてんのか?」
『…え?』
それには私もびっくりした。
いや、待てよ。
びっくりも何も、ここは薄桜鬼SSLの世界なんだから。
私の住んでた場所なんてあるはずないじゃないか。
「ど、っ、か、ら、き、た?この辺りにそんな駅はねえ!」
『あ、いや、あの、えっと…』
答えられずにいると、彼は手帳を取り出した。
あるページを開き、私に見せてくれる。
「日本地図ぐらいはわかんだろ」
『殴っていいですか』
そこはかとなくバカにされている。
殴ろうと拳を固めたら彼が竹刀を握り直したので、殴るのはやめにして手帳を覗き込んだ。
それは、確かに日本地図だった。
うん。
日本地図。
それは間違いなかった。
だけど、東京がない。大阪も北海道も沖縄も、何もかも。
いや、ないと言うと語弊があるかもしれない。
土地は、ある。
ただ、そんな地名がない。
よくわからない地名−−武蔵とか書いてあるからたぶん旧国名−−が並んでいる。
『…わからない』
帰れない。
その言葉が頭の中に浮かんでは消えた。