Another Would

□第1話
1ページ/3ページ


「次は、薄桜学園前、薄桜学園前、終点でございます。どなた様も、お忘れ物をなさいませんよう…」


バスの車内アナウンスで目を覚ます。

次々と降車していく人々に従い、私もバスを降りた。

そこで気がつく。


『ここ、どこですか…』


おい私。

驚きすぎて、誰に話したわけでもないのに敬語になったよ。


いや、そんなことより。

迷子だ。

完全に。

というか、私の記憶も迷子だ。ここに来るまでの記憶はどこへ行った。

えーっと確か、大学の帰りに最寄り駅からバスに乗って…。

そこから先の記憶は曖昧だ。

私は地べたに座り込む。

寝過ごしたにしても、こんなバス停はあるはずがない。

だって、薄桜学園、って…。


「おい、ここで何をしてる」


突然、首元にヒヤリとした感触。

目線だけ向けると、私の首に竹刀が刺さっていた。

わーい危ねえ\(^o^)/

これって銃刀法違反とかにならないのかな、刺さってるんですけど、ねえ。

竹刀がどけられ、見上げるとスーツ姿のイケメンが竹刀をまるで真剣のように持って構えていた。


『ここ…、どこですか』


いきなり叫び出さなかった私を誰か褒めてほしい。

どこかなんて聞くまでもない。

薄桜鬼SSLの世界じゃないか、ここは。


「薄桜学園の校門前だ。もう一度だけ聞いてやる。ここで、何してやがる」

『えっと、迷子の子猫ちゃんなうです☆』


ゴンッ!


『いった!痛い!いきなり竹刀で叩かないでください!』

「死にてえのか」

『待ってごめんなさい本当に迷子なんです!』


必死に言うと、スーツなのにどこか武士みたいな彼は溜息をつく。


「帰り道教えてやるから、失せろ」

『えーせっかくですからどうですお茶でも…嘘ですごめんなさいすみません!○○線の△△駅なんですけど!!』


駅名を言うと、彼の眉間にさらにシワが寄った。


「まだふざけてんのか?」

『…え?』


それには私もびっくりした。

いや、待てよ。

びっくりも何も、ここは薄桜鬼SSLの世界なんだから。

私の住んでた場所なんてあるはずないじゃないか。


「ど、っ、か、ら、き、た?この辺りにそんな駅はねえ!」

『あ、いや、あの、えっと…』


答えられずにいると、彼は手帳を取り出した。

あるページを開き、私に見せてくれる。


「日本地図ぐらいはわかんだろ」

『殴っていいですか』


そこはかとなくバカにされている。

殴ろうと拳を固めたら彼が竹刀を握り直したので、殴るのはやめにして手帳を覗き込んだ。

それは、確かに日本地図だった。

うん。

日本地図。

それは間違いなかった。

だけど、東京がない。大阪も北海道も沖縄も、何もかも。

いや、ないと言うと語弊があるかもしれない。

土地は、ある。

ただ、そんな地名がない。

よくわからない地名−−武蔵とか書いてあるからたぶん旧国名−−が並んでいる。


『…わからない』


帰れない。

その言葉が頭の中に浮かんでは消えた。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ