Another Would
□第1話
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『あは、すみません、私ちょっと記憶喪失みたいで!あははのは!』
笑ってごまかす作戦。
刹那、頭に竹刀が飛んできた。
『痛い痛い!そんな叩かないでくださいってば!』
「強い刺激を与えれば記憶が戻るかと思ったんだがな」
作戦失敗。
大きな溜息をつかれた。
『本当のこと話しますから!…私、別の世界から来たみたいなんです』
ものすごく不審な目で見られた。
そして。
「来い」
言うが早いか、スタスタと学園の中に向かって歩き出した。
え、いいのか?
私、完全に外部の者だぞ。
そんな簡単に中に入れていいのか。
でも、ここで置いてけぼりにされても困る。
そうだよ、彼が招き入れたんであって私が勝手に入ったんじゃない。
うん、大丈夫、怒られない。
「ここで待ってろ」
校舎の裏側へ回り、ある車の前でそう言い放って一人で中に入っていった。
することのなくなった私は、再び考える。
さっきまでは思い出せなかったことが、少しずつ思い出される。
−−私は、最寄り駅からバスに乗った。
それから…。
バスが事故に遭ったんだ。
運悪く、私の座っていた座席近くに車が突っ込んできて…。
…ってことはアレか、私は"死んだ"のか。
空を見上げると、目の前を一枚の葉がよぎった。
『…桜の葉かな』
夕焼けを背景にヒラヒラと舞う葉は、二度と木に戻らない。
それがなんだか、私がもう元の世界には戻れない現実を突きつけているようで、少し怖かった。
「…帰るぞ」
車のキーを取りに行っていたらしい彼が戻ってきた。
面倒臭い拾い物をした、とハッキリ顔に書いてある。
嫌なら相手にしなきゃいいのに、優しいんだから。
『帰るぞって、私、家ないんですけど』
異世界でホームレスですよ、私。
「…泊めてやるってことだ」
『え!泊めてくれるんですか!?』
「仕方ねえだろ!話が本当かどうかはわからねえが、その辺に放り出して野垂れ死にでもされたら寝覚め悪いじゃねえか!」
この人は、どこまでも優しい。