みじかいゆめ
□こんな日々が
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秋の始まりを告げる冷たい風は一足早くここ、パオズ山に吹きはじめた。
木々は黄色やオレンジの葉で覆われ、それはもう見事な紅葉だ。小鳥のさえずりや虫の鳴き声が心地よく聞こえるこの山の一角で、その美しい景色には似合わない激しい打撃音が響いていた。
「よし!いいぞ悟天、昨日よりスピードが上がってるだ、その調子だべ!」
「おかあさん〜もうボク疲れたよ!!もう終わりにしようよ!」
と言って少年が次々と繰り出されるパンチから避けていた体の動きを緩めた瞬間、
ドカーーーン!!!
その女性の華奢な見た目からは想像もできないほどのパワーのあるパンチの一撃が腹部に命中し少年は吹っ飛ばされ岩に叩きつけられた。
「あちゃーちょっとやりすぎただべか。」
と言ってお茶目にペロッと舌を出し笑う女性はその少年の母、チチだ。
そして
「もう〜いったいな!おかあさん!もうちょっと手加減して!!」
とあれほどの勢いで岩に叩きつけられられたのにも関わらずケロッとして体についたホコリや瓦礫を払ってる少年は孫悟天だ。
「すまねえだ悟天。でも昨日よりスピードが上がってただよ!成長してる証拠だべ。」
と言ってプクーっと頬を膨らませいじけている悟天の頭を撫でてやった。
そんな2人の様子を少し離れた所から好奇心満々な面持ちで見つめている少女の姿があった。
「ね〜!!おかあさん!つぎはわたしのばんだよ!わたしにも戦いかたをおしえて〜!!」
と大声で叫ぶ、チチによく似た大きくてクリッとした澄んだ瞳に、肩より少し下まで伸ばした黒いストレートヘアの可愛らしい少女は悟天の双子の妹、名無しさんだ。
だが、
「だーめーだ!名無しさんちゃんは女の子だべ!顔に傷でもついたらお嫁に行けなくなるだよ!」
と母に返され、こちらもプクーっと頬を膨らませていじけた顔を見せるのだった。
そんな妹(悟天の方が30分早く産まれた)の姿を見て、
「もう、しょうがないなぁ〜」
と悟天は名無しさんの方へ走って行き、先程自身が母にしてもらったように、名無しさんの頭を撫でてやるのだった。
「ほら、にいちゃんがいいこいいこしてあげるよ!」
「んぅ、やめてよ〜」
と子供扱いされた事に不満の声を漏らすものの、顔は双子の兄に頭を撫でてもらった事に対して少し恥ずかしがりながらも素直に嬉しそうな表情を浮かべていた。
「さ!お昼ご飯にするベー!悟飯ちゃんも待ってるだ、もうそろそろ帰るだよー!」
母の発したお昼ご飯という言葉に喜びの表情を見せた2人は、
「「は〜い!!」」
と口を揃え、手を繋いで家に向かって歩き出したのだった。
そんな2人の仲睦まじい2人の後ろ姿を見つめていたチチは、
「だんだん名無しさんちゃんと悟天ちゃんの身長の差もついてきただな〜。悟空さに見せてやりたいだ。」
と短いため息をつき、幸せそうな、だが少し寂しいような表情を浮かべ、2人の後をついて行くのだった。