夢物語 長編
□蒼天の舞姫 14
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「ルクルは……。」
「はい?」
「ノ…「お待たせしましたっ!この前言ってた味に近い豆はこの5種類ですよ。」
「ありがとうございます、マーヤさん。決まりましたらまたお声かけしますね。」
マーヤがテーブルから離れるとルクルはもう一度尋ねるが、フエゴレオンは頭を振り何でもないと返す。
せっかくルクルと出掛けているのだ、野暮な問いかけはよそうと思いとどまる。
「…この豆から選ぶのか?」
「はい。フエゴレオンさんはお酒も飲まれますし、紅茶を飲まれる際はいつもストレートでしたので、深みのある少し酸味のあるコーヒーがお好みだと。これだけの豆の中から一から探すのは大変ですので、先にマーヤさんに探してもらいました。」
「…………よく、見ていたな。」
「…えっ?」
フエゴレオンの呟きにルクルは一瞬唖然とし、次の瞬間頬を少し赤くして捲し立てる。
「いえっ、あのっ、いつもいつも見てるって訳ではなくてっ、お酒はユリウス様とよく飲むとも聞いていましたしっ、少しでも会議に集中出来るようにと好みを知ろうとっ、いやっ、ストーカーとかではなく━って、違いますっ違いますっ!今のは言葉の綾でっ!!」
普段みることの無いルクルの慌てように、フエゴレオンは次第に笑いが込み上げてきて肩を揺らしながら笑った。
それに気づいたルクルも次第に笑い出す。
「すまない、笑ったりして。」
「いえ、私の方こそすみません。」
2人は気を取り直して目の前のコーヒーをテイスティングするのであった。
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「ありがとうございましたっ!あっ、そういえば兄貴がこの前のアッサム入ったって言ってましたよ!」
「そうなんですか?今ダニエルさんいらっしゃいますかね。」
「今の時間はいますよ。」
「フエゴレオンさん、すみません。直ぐに戻りますので少し宜しいですか?」
「あぁ、かまわない。」
ルクルが隣のお店に入っていくと、コーヒー屋の店主マーサはフエゴレオンに声をかける。
「ルクルさんの顔の広さには驚きましたっ!この前はシルヴァ家の方、今日はまさかの紅蓮の獅子王団団長の方とお店に来るとは思いませんでした。」
「っ!…シルヴァ家?」
「はい、今日のようにアッサムのテイスティングをされてましたよっ!」
(…シルヴァ家…………アッサム。)
ルクルが戻ってくるとマーサに礼を言い、2人は店を後にした。