忘れなれない人
□第4話
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「あんたははなんも変わってない」
その言葉がどういう意味かはわからなかったけど、ただ一つ分かったのは夢莉にとって私は思い出したくもない過去の存在と言うこと
そんなことを突きつけられた今、百花に押された背中も後ろに戻るように引っ張られた気分だった
やっと立ち直れた私も夢莉と再会してまた後戻りしてしまった
「ただいま…」
彼の待つ家に帰ると温かい料理が今日もまたテーブルに並べられていた
私のどこがいいのか…
出会って付き合うようになってから彼はずっと私に優しさを向けていてくれてたのに
好きになれなくてもいい…それでも俺がお前の側にいたいねんって言ってくれたのに私は今まで彼になにも返せなかった
忘れられない人が居ると言うことは伝えてはいたけど、彼は必ず俺が忘れさせるからと言ってくれた
その言葉に甘えて今まで一緒に居たけど、夢莉と再会して忘れられないことをまた再確認してしまった
私がいる事で彼の人生を妨げてしまうんじゃないかってそう思った
私は彼の人生を邪魔することなんてしてはいけない
「さやか?おかえり、どうした?はやくおいで」
そう言ってテーブルの椅子をひいてくれる
どこまでも紳士的な人だった
こんな素敵な人これからいくらでも素敵な女性に出会える
私はまた一人になる覚悟のうえ彼に本当のことを話した
「しょう君ごめん…」
「ん?どうした?なんかあった?」
「今まで支えてくれて一緒に居てくれたのにごめん…別れよ…」
「なんで?どうしたの?」
悲しそうな…辛そうな…そんな顔をさせてしまっている
私はいつだってこーやって人を傷つける生き方しかできないんやな…
「再会した…前言ってた忘れられへん人…」
「…そっか…」
「ごめん…」
「よかったね…。その人と付き合うの?」
「ううん…。付き合うどころかまともにも喋ってもらえへんかった」
「じゃなんで…なんで俺と別れるん?」
「もう嫌やねん。私がおることでしょう君の人生を妨げるのも傷つけるのももう嫌やねん…それなら一人で生きていく方がまし…どん底だった私をここまで支えてくれたのに自分勝手でごめん」
「さやか…俺は彩と出会ってから一度も後悔したことなんてなかったよ。辛そうなさやかを笑顔に変えれたときそれだけですごい幸せって思えた…。もしさやかがその人のことまたもう一度振り向かせるために傷つくの覚悟で俺と別れてそっちにいくなら何も言わない。でも傷ついてまた昔のさやかみたいになるなら俺は全力でさやかを止める」
「しょう君…」
「大丈夫。さやかはすごいいい子で魅力的で頑張り屋さんで優しくて思いやりがあって本当に自慢できる人だったよ。その人もまたいつかわかってくれる…だから諦めないで。ちゃんと幸せになるって約束して?じゃないと俺は別れられない」
「もっと…もっとひどいこと言って…最低な男って思わせてよ…もっと私のこと傷つけてお前みたいな女絶対幸せなられへんくらい言ってよ…うぅ…」
「泣くなよ。俺はそんな嘘はつけない。俺はさやかと居て幸せじゃなかった時なんてなかったから。後悔もしない」
「ごめんなさい…本当にごめんなさい」
「もぉ謝るなって。最後の晩餐…一緒に食べよ?」
「ありがとう…」
こんな素敵な人に出会えたのにまた傷つく道を選んでしまう私はたぶん相当馬鹿だと思う
それでも私にとって夢莉はそれくらいしてでも側に居たいって思ってしまう人だから
しょう君の作ってくれたご飯を一緒に食べてしょう君の家に置いていた荷物をまとめた
「じゃ…行くね…今までありがとう」
「さやか最後にひとつだけお願い聞いてもらってもいい?」
「うん。もちろん」
「最後に一回だけ抱きしめたい」
私は迷わず手を広げた
そして手をひらげた私に笑顔で抱きついてきた
「さやか…さやかは絶対幸せになる。また辛くなったらいつでも戻ってきていいからね」
最後の最後までそうやって優しい言葉をかけてくれた
そして私は最後にしょう君のほっぺに軽く唇をつけた
最後は笑顔で…と自分に言い聞かせ
しょう君の目を見てばいばいと笑顔でそう告げた
そしてしょう君の部屋を後にした