忘れなれない人
□第3話
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「ねー夢莉今日学校終わりカラオケいこー!」
今日も教室のあちらこちらから誘いの声がする
誰といても何をしても心は満たされなかった
あの人はもう結婚もして毎日幸せな日々を過ごしてる
それだけで腹が立つ
どうして俺だけあの日のあの時のまま時が止まってるんやって
簡単に忘れればいい振り向くことなく傷ついたことなんて忘れてまた新しい恋をすればいい
ただそれだけなのにもう怖かった
大事な人が大切な人が目の前から居なくなる怖さを知ってるから
それなら最初からそんなんいらん
ずっと一匹狼でよかった
それなら傷つくこともなく怖くなることもない
そう思った
「おい、太田ちょっといいか」
「はい」
担任に呼び出され廊下に出る
「今日放課後生徒指導室にこい」
「なんでっすか?なんかしましたっけ?」
「進路のことや、お前また就職希望出してるな?言ったやろ、お前は大学にいけ。その成績があるんや勿体無い」
「俺は大学には行かんって言ったっしょ。仕事するんで」
「いいから、とりあえず今日終わったら生徒指導室に来いわかったな」
それだけ行って担任はどっかに行った
なんやねん将来のことくらい自分で決めさせろよ
俺はいつまでも子供なんが嫌やった
早く仕事して早く金を稼いで大人になりたかった
憂鬱な気分なままそのあとの授業を終え生徒指導室に向かう
ドアを開けると懐かしい匂いがした
この匂い…
静かに奥に入るとあの人の姿があった
「あ、夢莉…」
「名前で呼ぶな。俺は生徒っすよ」
「ごめん…」
「なんであんたがいんの?」
「金子先生急に会議が入ったらしくて代わりに太田くん…と話してくれって…さっき」
「なんやねんあいつ呼び出すだけ呼び出して…じゃ俺帰るわ」
「待って…!!」
「なに?」
「話そ…」
「なにを?」
「金子先生から聞いた…就職希望出してるって…なんで?この成績ならいい大学に入れるのに」
「いい大学入って卒業することがいい人生なんですか?もしそうなら俺はそんなクソみたいな人生どうでもいいっすね」
「そうじゃない!!そうじゃないけど…なんで?なんで大学に行きたくないん?」
「あんたには関係ない」
「関係ある…!!私の…生徒なんやから…」
「別に深い意味はないっす。ただはやく大人になりたいだけ。ただそれだけです」
それだけ行って部屋を出ようとしたのに
手に懐かしい感覚がした
この感覚が大好きだった
小さくて細くて少しもちってしてて暖かい感触…
一気に昔の記憶が蘇って胸が苦しくなる
「ごめん…夢莉…私夢莉のこと傷つけて…ほんまにごめん」
今更…今更謝られたってどうしようもできない
もう信用もできんし俺から触れることなんてできなかった
「離せ…」
俺が言えたのはそれだけだった
「夢莉お願いやから話聞いて…言い訳するわけじゃない、4年前の話しちゃんとするから…!!!」
「もうやめてくれ!!!!!」
自分でもびっくりするくらい大きな声がでた
「俺が…俺がどんな気持ちで…どんなにあんたのこと…」
溢れてくる涙を抑えることができなかった
ふわっと懐かしい匂いに包まれ抱きしめられてるんやと認識する
このままもう身を預けたかった
でもこいつは結婚もしてる。
やのにこんなことしてやっぱ変わってない
次はそうやって旦那を裏切るんや
俺だってもう18…立派な男や
襲おうと思えば襲える
それをわかってないこいつに腹が立って一気に涙が引き現実に引き戻された
抱きしめられてる腕を離し
しっかり目を見て伝えた
「あんたは、やっぱなんも変わってない。二度と俺に近づくな」
「夢莉…!!!!!」
目にたくさんの涙を溢れさせてるあの人を横目に俺は部屋を後にした