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□シアワセ-after story-
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速水は控室のドアを3度ノックする。

中から聞き取れるギリギリの声で入室を促す言葉が聞こえたのを合図にドアノブを回した。

そこには窓から差し込んだ光に照らされた花嫁の姿があった。



ミカ「怜さん、」

速水「ミカ、」

ミカ「どう、かな?」

速水「キレイだよ、凄く。」

ミカ「ほんと!?」

速水「あぁ、世界で一番キレイな花嫁だ。」

ミカ「ありがとう、嬉しいっ」

速水「あまりに、キレイで、そのごめん。言葉がうまく出てこない」

ミカ「喜んでもらえてよかった。怜さんもタキシード姿とっても似合ってる」

速水「そう?着慣れないから、自分じゃよくわからないけどな」

ミカ「とっても素敵」

速水「ありがとう」

ミカ「なんだか、照れちゃうね」

速水「ミカ」

ミカ「なに?」

速水「絶対に、幸せにする。約束する」

ミカ「どうしたの、改まって」

速水「これから先の人生、俺がミカを支える。絶対に幸せにするよ。」

ミカ「私、もう充分幸せよ」

速水「もっともっと幸せにしてみせるよ」



『お前にそんなことができるのか?』



速水「え?」

ミカ「怜さん?どうしたの?」

速水「今、声が」



『シアワセを望まなかったお前が他人を幸せにできるのか?』



速水「この声、」

ミカ「何も聞こえないわ」

速水「今、確かに誰かが!」

ミカ「どうしたのよ」



コンコンコン

?「失礼します。お二人に贈り物が届いております」



ミカ「あ、この人の声が聞こえたんじゃない?」

速水「そう、かも…」

ミカ「どうぞ、入ってください」

?「失礼します。お祝いの品が届いておりましたのでお届けに参りました。」

ミカ「ありがとうございます。」

?「こちらです」



スタッフが持ってきたのは真っ白い箱だった。



ミカ「どなたからかしら?」

?「田村慧様からでございます。」

速水「田村慧…?」

ミカ「怜さんのお知り合い?」

速水「いや…、」

ミカ「中身は何かしら」

速水「まって、それ、開けるの後でにしないか?」

ミカ「どうして?せっかくだもの、今見ましょうよ」

速水「そうなんだけど…」

?「そうだぜ。止めるなよ、せっかくの贈り物だ」

速水「…お前、!」



速水が見たそのスタッフの顔は、田村慧の顔だった。

速水の同期、滝川の先輩。

冴えない男だが、同期の中じゃ1番仕事が出来る。

あの日捨て置いた、田村慧。



速水「なんで、」

?「おー、ちゃんと覚えてたか。まぁ忘れるはずもないよな。お前の本来の姿だもんな」

速水「、ちがう!俺は速水だ。田村じゃない!」

?「そうだ。あの日お前は速水怜として生きることを選んだ。」

速水「俺は、俺が幸せになる道を選んだだけだ。俺は幸せを手に入れたんだ。」

?「自らの体と速水怜の魂を奪って、な。」

速水「何も奪ってなんかいない。最初から田村なんていなかったんだ!俺が速水なんだ!」

?「なるほどな。そう言い聞かせてここまで生きてきたのか。これだから人間は面白い。」

速水「え?」

?「上からずっと見てたが、そこそこ退屈しなかったぜ。やっぱり俺の目に狂いはなかったなぁ」

速水「お前、まさか、、、神«シン»か?」

神「ご名答―!久しぶりだなぁオニーサン」

速水「なんでお前がここにいる」

神「言ったろ?俺はずっとお前らの近くにいるって。」

速水「だからってなんで今。あれからずっと現れなかっただろ」

神「最期を見届けにきてやったんだよ」

速水「最期?」



神は速水の後ろを見つめている。

その先には箱を開けているミカの姿。



ミカ「メッセージカードだわ」

神「中を開いて、読まれてみてはいかがでしょう」

ミカ「そうね、」

速水「神…?お前、何をしようとしてる」



神は微笑むだけで答えない。

ミカがメッセージカードを開くとそこから光が発せられた。

その光はまっすぐミカの胸を刺した。



速水「ミカ!?ミカ大丈夫か!」

ミカ「怜、さん。」

速水「どうし、」

ミカ「…じゃ、ない」

速水「え?」

ミカ「怜さんじゃ、ないの?」

速水「ミカ?」

ミカ「ずっと、ずっと私は!なんで、どうして!!」

速水「どうしたんだよ!神!お前、ミカに何をしたんだよ!」

神「真実を教えてやったんだよ。お前が愛していた男は本当は別人だったってな」

速水「またそうやって、周りを巻き込んで、!」

神「これはお前への罰だ!」

速水「罰…?」

神「あの日、入れ替わった日から速水の魂を殺したという罪悪感に押しつぶされ、それまでと同じ、多くを望まない生活を繰り返した!せっかく俺が入れ変えてやったっていうのに。そのチャンスを台無しにしやがったその罰だ。」

速水「台無しに?俺はただ、俺に見合った幸せを選んだだけだ。俺は本当の幸せを手に入れたんだ!」

神「本当の幸せ、ねぇ。ま、人間はしょせんそんなもんってことが見れてそれはそれで面白かったけどなー。」

速水「…いつまでも身勝手なことしやがって」

神「うるせぇよ。何をしようが俺の勝手だ。俺は神なんだからな!!」

速水「最低だな」

神「最高の褒め言葉だな!お前に罪の深さを教えてやろう。速水の魂はな、生きることを望んでなかったんだぜ。」

速水「どういうことだ?」

神「速水は自分が恵まれていると気がついていなかった。あんたが羨んだあの幸せをあいつは信じちゃいなかったのさ。」

速水「あれだけ、毎日楽しそうにしてたのに?」

神「何をしても満たされない。そう思い続けてた。そんな人生をアンタが終わらせてやったんだ。あんたがあいつを殺したのは、ある意味救済だったってことだ!」

速水「そんな、じゃぁ俺は、今まで何に怯えて…。後ろめたい気持ち抱えて、苦しんで!生きてきたのに!!」

神「だから言ったろ?台無しにしやがって、って。あーあ、せっかくあげたチャンスだったのになぁ!」

速水「、くそっ!!」

神「ほーんと、つまんねえ。俺の苦労を無駄にした罰、しっかり受けてもらうからな」

速水「いったい、何する気だ」

ミカ「怜さん」



その時、ミカの声が響いた。

そう大きい声ではない声だった。

ミカの頬には涙が伝っている。

白い箱から何かを取りだした。

さらに涙を流しながらこちらを見るミカ。

その手には銀のナイフが握られていた。



ミカ「私の怜さんはどこ?」

速水「、やめろ。そんなもの持つな」

ミカ「私は、怜さんを好きになったのよ」

速水「ミカ、待ってくれ。話を聞いてくれミカ!」

ミカ「やめて!」

速水「・・・」

ミカ「私の名前を呼んでいいのは、怜さんだけ。ニセモノのあんたが呼ばないで」

速水「俺が、速水怜だよ。ずっと俺を見てきただろ?」

ミカ「、、、。」

速水「ニセモノなんかじゃない。そうだろ?だって君が見てきた速水怜はずっとこの俺なんだから」

ミカ「私は…ずっと、」

速水「ミカ・・・っ!」



ミカの握っていたナイフが速水の胸に刺さった。

ゆっくりと、速水の体が倒れる。

ミカはそのままともに胸元に寄り添い、もう一度ナイフをおろした。

白く細い手が、赤く染まる。



ミカ「私は、怜さんが好きだった。間違ってなんかいない。ニセモノが、ニセモノが私をだましたのよ!本当の怜さんを、。本物の怜さんを返して!私が好きだった、愛したかった怜さんに戻して。戻して、。戻して戻して戻して!」



言葉の数だけ振り下ろされたナイフはあっという間に血にまみれた。

ナイフを自分の目の前に持ち上げて、眺める。

ニセモノの魂、ニセモノの愛情、本物だったのは身体だけ。

ミカは手に伝う血を眺め、微笑んだ。



ミカ「……怜さん、愛してるわ」



言葉と同時に振り下ろされたナイフはミカの心臓を貫いた。
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