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□シアワセ-after story-
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-8年後 あの日から11年後-
滝川が部屋のソファに座っている。
組んだ手を額に当て、うつむいている。
滝川の脳内に巡っているのは滝川だけが知っている、あの日あの時までの光景だ。
あの日の出来事はまるで最初からなかったかのようだった。
気が付いたら自宅のベッドの上で寝ていて、外に出れば日常が回っていた。
あの3人のことを誰も知らない。
すべての記憶は滝川の脳内に飲み残され、それは決して消えることがなかった。
そうしてそのまま、滝川はそのすべての記憶を持ったまま、今日まで生きてきた。
強く目をつぶり、ため息を吐き出した時、滝川を呼ぶ声がした。
「ぱぱー!」
滝川「うわっ、びっくりした。急に入ってくるなって言ったろ」
「ごめんなさい、」
部屋に飛び込んできたのは小さな男の子。
滝川の息子だ。
滝川は子供を抱き上げ膝に乗せてやった。
「あのね!ぱぱあのねままがねおかしつくってくれたよ!」
滝川「お菓子?」
「くっきーだよ!いっしょにたべようってよびにきたの」
空いたドアから甘く香ばしい匂いがしていた。
滝川「ありがとう。よし、じゃぁいくか!」
「うん!はやくたべようーー!」
俺の幸せは、俺は幸せを選べているんだろうか。
わからない。けれど今この瞬間を愛おしいと感じている。この心に嘘はないと思いたい。
滝川は子供を抱き上げ、妻が待っているリビングへと向かった。