Lyrics

□「初めてのキス」
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「そう言えば銃兎よぉ、一郎のところのガキとは上手くいってるのか?」


未開封のウイスキーボトルをフローリングに落としそうになった。
何とかボトルは落とさずに済んだが、そっちに気を取られた代わりに口から火を付けたばかりの煙草が落ちた。


「銃兎、煙草が落ちたぞ」

「あ、あぁ…すみません」


理鶯の手から受け取った煙草をステンレスの灰皿に押し付け火を消す。


「何だァ?テメェらしくねぇ動揺だな。
何、もうセックスしたんか?」

「左馬刻、そういう野暮な質問をするのは戴けないぞ」

「や、野暮って何ですか!?
野暮じゃねえし!別に!」

「ハッ、俺様じゃなくて理鶯にキレるのかよ」


額に汗をかいていることに気付かれたらもっと言われるに違いないから、二人に背を向け三つのグラスにロックアイスを入れる。


「なあ、答えろって」

「…その前に、何故お前は知っている?」

「あぁ?ガキとのことか?
ンなのお前、毎晩のように電話して高坊を『二郎さん』とか呼びやがって、小声で話してるつもりだろうけどよ、自分の声が異常に通ること知らねえのか?」


…最悪だ。
いや、別に俺はこのことを恥じてはいない。
話したくなかったわけではなくて、話せなかった。
敵対関係のグループの一員で、ましてや一回り離れた18歳未満の男と付き合っているだなんて、自ら友に話せる男がいるならむしろ会わせてほしい。


「上手くいっているも何も…特に何もありませんよ」

「会って1秒で女抱いてたお前でも、高坊には手出せねえってか」

「そんなことより左馬刻、お前は何故俺とアイツが付き合ってることに何も言わない?」


最もな俺の疑問に左馬刻は可笑しそうに笑って、俺が注いだばかりのウイスキーを一口含んだ。


「テメェが誰とどうなろうが知ったこっちゃねえよ、好きにやりやがれ。
こっちはこっちであのクソダボぶっ潰すからよ、まあバトルの時に恋人に攻撃出来ねえなんて反吐が出るようなこと言いやがったら、ダボ殺す前にテメェの首切るけどな」

「…そんなことは分かってる」


結局その日は理鶯が別の話題を振ってくれたおかげて、左馬刻の嫌がらせからは逃れることが出来た。

敵チームだからとか未成年だからとか、もう数え切れないほど考え葛藤したことを今更また考えたりなんてしない。
敵、いつかは殺し合う、いつかは離れる、それを分かっていてもその現実より俺の気持ちが超越してしまっただけの話だ。

これ以上情を移したくないからキスすらしていないだなんて言ったら、きっと左馬刻は笑い過ぎて腹が破裂して死ぬだろう。
今となっては自分でも笑えてくる。
現実よりも愛が勝るのに、勇気は現実に負ける。
面白いほど、呆気なく…



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