乃木坂

□ファインダー越し
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雨、雨。
空が不機嫌でここ最近は空から涙が降ってくる。
お陰で体育も室内でやるから少し楽な気もするけど、やっぱり体育は憂鬱。

少しサボり気味に頑張ってます風にして授業をうけていると体育館の扉が開き誰かが入ってきた。

「先生ー!遅刻しましたー。ついでに体操服も忘れた」

『山下…またか。今日も見学な』

そのやり取りを見ていたせいか、飛んできたボールに気付かず、危ない!そう聞こえてきたけど避けきれなくて頭にヒットした。

「史緒里大丈夫…?」

「みなみん…一応大丈夫そう」

いろんな人に心配され、先生に一応保健室に行けって言われて向かおうとすると山下さんが、一緒に着いてくー!なんて言うものだから思わず、大丈夫です。そう冷たくあしらってしまった。

それでも山下さんは、みんなに振りまいてる笑顔をして、ほら!遠慮しないで!そう言って私の腕をガシッと掴み駆け足で保健室に向かおうとする。

「ちょっと!」

「んー?何?」

「なんで山下さんまでついてくるの…?」

「えーダメだった?」

なんてあからさまに落ち込む態度をされたら怒るにも怒れなくて、また素っ気なく別にいいけど…。なんて言って腕を解きスタスタと先に保健室に入る。

「先生いらっしゃいますか…?」

机の上に"今は構内見回り中"という紙が置いてあって、先生もいないことだから大人しく帰ろうとしたら山下さんが勝手に透明な袋に氷を入れてそれを私に渡してきた。

「…ありがとう。これ勝手に取っていいの?」

「んーまぁこう見えても私保健室の先生と仲良いから大丈夫でしょ!」

なんてまた山下さんはへらっと笑う。
こんな私みたいなのにも優しくしてくれるクラスの人気者の山下さん。

そんな彼女のことを私は嫌い。



「…ねぇ史緒里って呼んでいい?」

そう急に言われて驚いた。
思わず驚きすぎて振り向いちゃうくらいに。

「…好きにすれば。」

そう告げるとじゃあそうするね。なんて言って先に体育館へ戻っていった。

_________

その後の授業は何故か集中できなくてただ窓の外を眺めたりしてたらあっという間に帰りの時間になってしまった。

「じゃあまた明日ね史緒里ー!」

「うん。また明日ねみなみん。」

唯一の友達のみなみんと別れてそれぞれの部活に向かった。
みなみんはバレー部で、私は写真同好会。
部員は私一人しかいないけど、なんとか一人で自由に活動している。

「……あの笑顔撮りたいな」

ボソッとそう呟く。
周りに誰かいないか確認したけど教室には私一人だけで安心する。



「…私も写真撮ろ。」

「何を撮るのー?」

「えっ。いつからそこにいたの?」

「えっとね今さっき忘れ物取りに来たら、久保ちゃんがいたからさ」

「…そうなんだ」

「そうえば、写真同好会なんだっけ?」

「うん。一人しかいないけどね」

「じゃあ私も写真同好会に入ろっかな〜」

「山下さんは何部だっけ?」

「帰宅部!」

「てっきり何かに所属してるかと思ってた」

「ないない!笑」

なんて普通の会話をしてしまうほど山下さんは多分話しやすい人なんだろうけど、何故か未だに私は好きになれない。
もしかしたら山下さんは人気者で私は彼女に嫉妬していて嫌ってるのかも…なんて考えたことはあったけどそんなはずはないと思って解決したはず。

山下さんの近くにいると調子が狂う…そんな気がして私は、部活を理由に一刻も早くここから切り上げたくて仕方がなかった。

「…それじゃあそろそろ部活に行くので。」

「じゃあ久保部長お願いがあります。
写真同好会の部活見学の許可をください!」

「……まぁ見学なら。」

私もなんだかんだで許可を出すあたり少しずつ山下さんのことを好きになり始めてるのかも…なんて思ったりしてみた。

____________

「ここのボタン押したら写真が撮れて……ここのボタンは………」

持参の一眼レフを山下さんに持たせていろいろ説明を終えて一息ついてたら山下さんが駆け寄ってきた。

「ねぇねぇ史緒里!この写真どう!?」

「…いいと思うよ?」

「なんかこんなに写真撮るの楽しいって思ったの初めてだな〜」

「それはよかったよ」

「じゃあこれ先生に出しに行くね笑」

そういってカバンから部活動に所属する為の書類をヒラヒラと見せびらかしてきて自慢げにドヤる山下さん。
そんな彼女を見て思わず笑ってしまった。
その姿をカシャっと撮られてすぐに消すように促す。

「ちょっと!今撮ったでしょ?」

「うん。初めて私の前で笑ってくれた記念に撮ってみた」

「なにそれ。笑」

なんだかんだ楽しんでくれたみたいだし部活動にも入る!なんて言ってるみたいだから少しずつ"嫌いを好き"に変えていきたい。そう思えた。

「ねぇ山下さん」

「んー?なにー?」

顧問の先生に書類を出して、夕焼けの中私と山下さんの二人で帰っていて急に私が呼びかけても笑顔で振り返ってくれる山下さんを、思わずカメラを構えて撮る。

「あっ!今撮ったな!?」

「素敵な笑顔だから思わず撮りたかったの」

「なにそれ〜笑照れるんだけど…」

「はいはい。じゃあ私、写真現像しに行くからここで」

「わかった。じゃあまた明日ね…!」

「またね」

雲の色が怪しい中今日撮った写真を見ながら歩いているとポツポツと雨が降ってきた。
本降りになる前に現像屋さんに着きたいな…そう思い小走りで向かおうとしたら後ろから私のことを呼ぶ声が聞こえてきて思わず立ち止まり後ろを振り返る。

「史緒里ーー!」

「えっなんで山下さん?」

「雨降ってきたから史緒里傘持ってたかなー?って思って来ちゃった笑」

「…来ちゃったって笑でも、ありがとう」

「どういたしまして!ほらもっと寄って寄って」

「ちょっと!近いよ…」

傘って言っても折りたたみ傘だから普通の傘よりは小さいわけで、ほんとにギュッて密集しないと肩とか濡れるからだろうか山下さんが気を利かせて肩をグイッてして近づかせてくれたんだろう…そう自分に言い聞かせないと身が持たない。
今も心臓がバクバクしてそれが山下さんに聞こえてるんじゃないかってくらい緊張してる。



これも全部"雨のせいだ"

_________

無事、現像屋さんに着き写真を現像してその一部を山下さんに渡す。

「わー!ありがとう」

「いえいえ。こちらこそありがとう」

「え?なんでお礼言うの?笑」

「久しぶりに楽しいって思えたから…?」

「なにそれ笑でもそれならよかったよ!」

今まで風景やいろんな写真を撮ってみたけど、どれもパッとこなかったけど今日撮った山下さんの笑顔はいつもより上手く撮れてる…そんな気がした。

例えるなら今までの写真はモノクロだけど今回撮ったやつはカラフルで綺麗。そんな感じ。

「また山下さんのこと撮ってもいい?」

「えーどうしよっかな笑。」

「…まぁ無理にはいいけど」

「うそうそ!そんな落ち込まないでよ〜笑」

「別に落ち込んでないし…」

「じゃあ今度はさ…


"二人で"写真撮ろう!」

「一眼レフで自撮りするってこと?笑
無理だよ」

「違うよ!ちょっとカメラ借りるね」

そう言ってカメラを持ちキョロキョロと周りを見渡してちょうどカメラが置けそうな場所があったのかそこまで駆け出して行き、早くこっち来て!そう言って急かしてきた。

「ここならいい感じに撮れそうじゃない?」

「…確かに?」

「じゃあ10秒後に撮れるようにして……。

よしっ!いくよ!」

カメラを十秒後に写真を撮るように設定して猛ダッシュで私の隣にくる山下さん。

「やっぱり私__________史緒里のこと好きだなぁ」

そう言われて思わず、山下さんの方を向いた瞬間_______フラッシュがなりカシャっと音がした。

「さっきのどういう……」

「ほら撮れたよー!」

さっきのを誤魔化すように、次々とマシンガントークをする山下さん。
耳が真っ赤になっているとも知らずに。



多分私は、山下さんが嫌いだった理由は単純に周りから好かれていてあんなに素敵な笑顔ができるから勝手に嫌って自己防衛しようとしていたんだと思う。

だから少しずつ自分自身を好きになって、私もあんな風に笑えるようになりたい…そう思った。

空もさっきまで不安定な天気だったのが、今の心情みたいに晴天になり、虹もでている。
思わず眩しいのも承知の上で手で少し眩しくないようにして太陽を見る。

「晴れたね」

「ねー。よかったよー笑」

「私ね今まで山下さんのこと___________」

「それ以上言わないで…。なんとなくわかってたからさ…
でも、今までは嫌いだったとしても"今"が一番大事じゃん?だから今はまだ無理には好きにならなくていいよ」

「うん。わかった。」

私の少し先を歩く山下さんのことを撮ろうと思いカメラを構えると急に立ち止まる。



「いつか好きって思わせるから覚悟しててね笑」

ファインダー越しにそう言われて今までモヤついていた心がこの空のように晴れたような気がした。

そして、山下さんが今日一番の飛び切りの笑顔をしていた気がして思わず写真を撮る。




「…もうそう遠くない日に好きになりそうかもね。」

ボソッと本音を呟くとなんか言ったー?と聞かれたので思わず、何も言ってないよ?そう誤魔化す。


「いつか飛び切りの笑顔の史緒里を撮れるといいなぁ」

「…いつかその日がくるよ」

「そうだね笑。見逃さないように毎日一枚ずつ写真撮らないとね」

「なにそれ笑。」

きっとその日が来るまで、山下さんは待ってくれる。
そんな気がする。

「じゃあ私も山下さんのこと毎日一枚ずつ撮るよ笑」

「いいよー笑。」

しばらく写真の話をしてたら急に山下さんがこう呟いた

「お互いにいい写真が撮れたらさ_________





あの時の返事聞かせてね」

「わかった」

そう言って私は微笑んだ。


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