乃木坂
□平等な世界
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行き場なんか何処にもなくて一人路地で蹲って座っていた。
雨が降っていて寒かったけど、ただただそこに蹲ることしかできない。
寒くて震えるけど、袖をぎゅっと握ってなんとか寒さを誤魔化す。
__ざーっと降り注ぐ雨。
「こんな所で何してるの?」
雨の音に混じって優しい声がして思わず上を見上げると傘を私の方へと差し出して優しく微笑んでいる女の人がいた。
「…っ全てから逃げてきました」
「そっか。ここじゃあれだし私の家に来なよ」
「…いいんですか?」
「さすがにこんな雨だと風邪ひくどころじゃ済まなそうだしね」
「ありがとうございます。
…名前聞いてもいいですか…」
「ん?あぁ私の名前は”齋藤飛鳥”だよ。
好きに呼んでいいよ」
「_____飛鳥さん
飛鳥さんって呼びます」
「あなたの名前は?」
「…や、山下美月って言います」
ん、わかった。少し素っ気なくそう返事が返ってきて少し不安になる。
何かしてしまった…のかそう頭の中で必死に考えてその場に立ち尽くしてしまう。
私の異変に気づいたのか飛鳥さんも立ち止まってくれて私の方を向いて手を差し出してきた。
差し出された手を中々掴めないでいると待ちくたびれたのか飛鳥さんの方からぎゅっと手を繋いでくれた。
「何してるの。
早く帰ってお風呂入らないと風邪ひくよ」
「…ごめんなさい」
「…謝らなくていいんだよ。
…私もちょっと冷たく対応しちゃったからきっとその事を考えてたんでしょ?」
「…っなんでわかったんですか?」
「なんでって顔に書いてあるよ…笑」
なんてからかってきて少しほっとした。
…こんな私にも優しくしてくれるなんて今までありえなかったからその優しさに戸惑ったりするけどそれすらも分かってくれてるような気がする。
雨の中を数十分歩き綺麗なアパートに着いた。
エレベーターに乗り6階のボタンを押す飛鳥さんのことをじっと見てると、そんなに見られると恥ずかしいんだけど…そう返事が来たから床に視線を移すと突然質問を投げかけられた。
「…山下はなんであんな路地にいたの?」
「…私は___」
そう言いかけた時エレベーターが6階に着いたと言わんばかりにドアが開く。
”こっちだよ”そう声をかけられてハッとする。
飛鳥さんはもう既にエレベーターの外にいて急いでエレベーターから出る。
「ほらこの部屋が今日から山下の家でもあるからちゃんと場所覚えてね」
「わかりました…!」
「結構濡れたと思うから先にお風呂入ってきていいよ」
「…お言葉に甘えて先に入らせてもらいますね」
お風呂場はこっちね。
そう言って案内された場所はとても広くて驚いた。
…以前住んでた家よりも何倍も広く感じる。
「じゃあゆっくり入ってね」
「ありがとうございます」
飛鳥さんが出ていってからお風呂に入る支度をして、いざ入ろうとしたらドアが開き反射的に背中を隠す。
「…やまー、バスタオルとか置いてお…くね」
「…っ!」
「ごめん。
ノックするべきだったね。」
「いえ。大丈夫です…」
…飛鳥さんの視線が鏡の方へ向いていて思わず視線をそっちに向けると背中にある火傷の痕、いろんな傷が見えていた。
「…っこれは!」
「…やまが話したい時でいいよ。
それより早くお風呂入りな」
お風呂に入ってる時もずっと傷を見られてしまったという事実で頭の中でいっぱいだった。
…飛鳥さんに”過去の出来事”を話すか悩んで悩んだ結果過去のことを話すことにした。
「…飛鳥さん。
大事な話があります」
「わかった。飲み物持ってくるね」
深呼吸をして少し気持ちを落ち着かせてから飛鳥さんに全て打ち明けた。
母親からろくに育てられなかったこと、虐待されてたこと全部。
話してる途中怖くて声が震えても飛鳥さんは私が話終わるまで待ってくれた。
こんな優しい人世界中どこ探してもきっといないと思う。
「やま。話してくれてありがとう。」
そう言って飛鳥さんは私のことをぎゅっと抱きしめてくれた。
人の温もりがなんだか心地よくって思わず涙がこぼれ落ちる。
「…こんな私でもここに居ていいんですか?」
「当たり前でしょ。
_____これからは、やまに生きる楽しさと笑うことを目標にして過ごそうね」
「…はい!」
________
「やまー早くしないと置いてくよ?」
「飛鳥さんもう少し待ってください!」
「5、4、3、2…」
「ちょっと!急かさないでくださいよ笑
…はい!準備終わりました笑」
「…そうえば最近になってようやくやま笑うようになってきたね。」
「…飛鳥さんのおかげです。
_______今、私はとっても幸せです!!」
これからも飛鳥さんと笑い合える日々が続きますように____。